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3-35

「さて、ようやく赤蕀の魔王の魔宮に侵入だ。少し足止め食っちまったからサクサクいこうぜ」


 フリードが魔宮を方向を向きながら言った。

その目線は鋭いが口調は軽く、にやりと笑みを浮かべる。


「足止め食ったの誰のせいですか」


 眼鏡の青年が半眼でフリードを見た。

中指で眼鏡の位置を直して。


「フリードさんが抜剣ばっけんして大きく消耗したから大事をとって侵入を遅らせたんですよ」


「ハッハッハッ」


「笑いごとじゃないですよ」


「はっ。ぐちぐちぐちぐち、うるせぇやつだな。フリードが問題起こすのは今に始まったことじゃねぇだろ」


 巨漢の男が言った。


「だから僕は怒ってるんです! エドガーはいいですよ、見てるだけですもん。僕はフリードさんが何かやらかす度に始末書や報告書の作成をして、召集がかかればギルドの役人達の前で状況説明を求められるんですよ?!」


「はっ。それがおめぇの仕事だろ」


 巨漢の男──エドガーは鼻で笑うと言った。


「まー、大変そうだなーとはぁ、思いますけどねー」


 栗色の髪の女性がふわふわとした声音で言った。

女性はソファに腰掛け、その手にはティーカップを持って。

女性は紅茶をすすると、ほっと一息つく。


「マールさんも大変そうだなと思うんなら手伝ってくれてもいいんですよ」


 栗色の髪の女性──マールはゆっくりと首を左右に振った。


「ごめんなさぁい。お断りしますー」


 マールはふふっと笑う。


「エレオノーラさーん」


 眼鏡の青年はマールの対面のソファへと視線を向けた。

そこに腰掛けていたのは色褪せた桃色の髪の老婆──エレオノーラ。

エレオノーラは傍らにトレードマークの大きなとんがり帽子を置き、ゆったりとくつろいでいた。


「諦めるんじゃな、カイル」


 エレオノーラは眼鏡の青年──カイルに言った。


「はは。どうやらおめぇの味方はいないみたいだぜ?」


 エドガーが言うとカイルは肩を落とす。


「カイル、そんなにしょげるなよ!」


 フリードがカイルの背中を叩いた。


 カイルは大きな溜め息を漏らして。

叩かれた箇所をさすりながら、ずれた眼鏡を直す。


 ディアスはフリード達を横目見ると、部屋の一角に視線を移した。

そこにはディアスの剣11本が立て掛けられている。


「で、いつになったら俺を出してくれるんだ?」


 ディアスが少し声を張って言った。

全員の視線がディアスに集まる。


「まさか調査中、俺を置いていくのか。俺はそれでも一向に構わないが」


 ディアスはそう言うと、にやりと笑う。


「フリード、どうすんだ?」


 エドガーはその大きな手でボリボリと後ろ頭をいた。


「俺は連れていくつもりだったぞ?」


「フリードさん! 本気ですか?!」


 カイルがかぶりを振った。


「そいつの剣は腐らせとくには惜しい。魔人飼いは趣味じゃないが、人喰いをしない魔人だ。表向きは魔人飼いの形になるだろうが、そっちがその気なら仲間にしてもいい」


「本気かい?」


 エレオノーラがフリードにたずねた。

銀の双眸そうぼうがフリードを見つめる。


「ああ、本気だよ。エレオノーラ」


 フリードがうなずいた。


「これから向かうのは赤蕀の魔王の魔宮ですよ? 観測の結果その魔人堕ちが言ったように魔物は沈静化してるようですが、油断はできません。それなのにわざわざ危険を増やすような選択は快諾しかねます!」


「ハッハッハッ、だからこそだ」


 フリードはカイルに向かって笑い声をあげる。


「相手は魔王の魔宮だ。見張りに人員を割くゆとりは今のパーティーにはない。かといって魔人封じのおりの中とはいえ1人残すのは危険だろ。だったらその力を利用すべきだ」


 フリードはディアスに振り返って。


「活躍を見せればそれなりの待遇を考慮する。その剣、俺のために役立ててはくれないか」


「ああ、もとよりそのつもりだ」


「ハハ、嘘つけ」


 フリードは猛禽類もうきんるいのように鋭い黄色の瞳でディアスを見据えて。


「言っておくが変な動きを見せたら俺は剣を抜くぜ? 周囲は森で俺ら以外に人はいない。このまえの魔宮の時みたいに町を背にして剣を抜かせないなんて戦い方はできんぞ」


「わかってるさ」


 ディアスは肩をすくめる。


「悪いようにはしねぇ。ただ手を貸して欲しい。お前だって今回の異変気にはなってるだろ」


「……まぁな。で、お仲間もそれでいいかな?」


「はっ。良いも悪いも、フリードが言うなら仕方ねぇ。言ったって聞かねぇさ」


 ディアスの問いにエドガーは鼻で笑うと答える。


「まず間違いなく逃亡をはかると思うがの。フリード、責任はお持ちよ?」


 エレオノーラが言った。


「ディアスさぁん、でしたっけー? お紅茶飲みますー?」


 マールはティーポッドを持ち上げた。


「発酵菓子もぉありますよー?」


 マールの目の前の皿には切り分けられた小さなケーキが並んでいた。

その断面にはドライフルーツが覗いている。


「おいおいマール、魔人に飯をすすめてどうすんだ。食わねぇだろ」


 エドガーが言った。


 ディアスは皿に並ぶ発酵菓子のケーキを見つめて。


「……いただこうか」


「ケケケ、食うのかよ」


 アムドゥスの声がディアスの頭の中に響く。

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