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3-33

 アーシュもおりにもたれかかった。

冷たいおり越しにアーシュとエミリアの肩と腕が触れる。


「怪我は治せないの?」


 アーシュがいた。


「けけ。魔力があれば回復にリソースを割けるけど、今はまた魔力が枯渇気味だから現状維持かな」


「そっか。……痛い?」


「痛いのは痛いけど、痛いのはもう慣れてきたかな。ディアスとアムドゥスと旅をするようになる前は日常的に剣で切られたり、他にも酷いことたくさんされてたし」


「ディアスにいちゃん達と旅をする前って、今向かってるキールって人のとこで酷いことされてたの?」


「……うん」


 エミリアがうなずいた。


「そんなとこにエミリアを連れてけないよ。なんでディアスにいちゃんはそんな提案したんだろ」


「その提案を持ちかける時に何かを思い付いた風だったけど、あたしは途中で気を失っちゃったし、そのあとはディアスとは別々にされてたから話ができてないの。アーくんはディアスに何か言われなかった?」


「んと、エミリアと一緒に行けって。エミリアがそのおりが嫌いな事と、変な気は起こすなよって特に念押しされた」


 そこでアーシュはハッとして。


「これって、むしろ変な気を起こせ──おれにエミリアを助け出せって言ってたんじゃ」


「多分違うと思うよ」


 エミリアがすかさず言った。


「アーくんの今の実力だと魔人の運搬なんかを任されるようなレベルの冒険者に敵うとは思えないし、ディアスはそんな無茶な要求はしないと思うよ?」


「えーでも、おれ『その刃(ソード)、嵐となりて(・ストーム)』使えるようになったよ。エミリアやディアスにいちゃんの知るおれより強くなってる!」


 アーシュの言葉でエミリアは思い出して。


「あー、そういえばディアス、『その刃、(ソード)暴虐の嵐となりて(・テンペスト)』使ってたよ。何をしたのかはよく分からなかったけど、ソードアーツの連続発動も使ってた」


「嘘?! おれも見たかったそれ!」


「けけけ、残念だったね」


 エミリアが意地悪く笑う。


「…………でも、どちらにしろエミリアをこのままにはしておけないよ」


 アーシュは真剣な顔でエミリアを見つめて。


「待ってて。必ずおれが助け出すから」


「────助け出す、ねぇ」


 スカーレットは聞き耳を立てていて。

アーシュの言葉を聞くと小さく呟いた。

その顔は眉間にしわが寄って険しいものになる。







 それから一行は朝を迎えると、再び歩みを進めた。

スカーレットは荷台からアーシュの方を時折振り返って確認する。


 そして3度目の休憩の際に、スカーレットはアーシュを呼び出した。

他の冒険者達から少し離れた岩陰にシアンも連れて、仁王立ちでアーシュに振り返る。


「いいわ。提案を聞きましょう」


「…………?」


 アーシュは唐突なスカーレットの発言に首をかしげた。


「提案があるんでしょ? 話だけなら聞いてあげる」


「え、何の話?」


「そういうのいいから。5秒で言いなさい。はい、5、4、3、2、1……遅い!」


 スカーレットは眉間にしわを寄せて鋭い目でアーシュを睨んで。


「これでも私まだ絶不調なんだけど。具合最悪なんだけど?」


「うん。御大事にね」


 嫌味なくアーシュが言った。


「…………」


 アーシュの言葉にスカーレットはふるふると首を左右に振った。

いで大きなため息を漏らして。


「じゃあ、私から確認するわよ? アーシュガルドはエミリアを逃がそうとしてるんじゃないの」


「…………」


「アーシュガルド、返答!」


「……う、うん」


「ならあなたが私達にする提案なんて1つじゃない」


「エミリアを逃がすのを見逃せ……?」


 アーシュの返答にスカーレットは口をパクパクとさせた。

その目が驚きに見開かれる。


「ねぇちゃん、落ち着いて」


 シアンが言った。

シアンはスカーレットとアーシュの間に割って入る。


「愚弟、邪魔」


「はい」


 シアンはスカーレットの一瞥いちべつで、すぐさまそこをよけた。


「そこは見逃せ、じゃなくて手を貸せでしょアーシュガルド。単独でのぞんだって成功するわけないじゃない」


「手伝ってくれるの!? でもなんで?」


「まだ手伝うとは言ってないわ。話を聞いてあげるだけよ」


「とか言ってもう助ける気満々のくせに。アーシュガルドくんから全然言ってこないから、結局呼び出してるし」


「愚弟は黙ってなさいよ」


「はいはい」


 シアンは肩をすくめる。 

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