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3-28

アーシュとその男の視線が交わって。


「情けねぇ顔してんなよ」


 男が言った。

男は鋭い眼光とは裏腹に、その口許くちもとには笑みを浮かべていて。


「俺の剣に任せな、少年」


「僕の剣ですよ」


 飛び出した男の背後から別な声。


「うっせぇな! 俺の剣技って意味だ! 言わなくても分かるだろが!」


 鋭い眼光の男は肩越しに叫ぶと腰にたずさえた剣を抜き放つ。


 アーシュは男の抜く剣に視線を向けた。

その鞘から現れるのは細い諸刃もろはの剣身。

ソードアーツで加速したアーシュの目にはその動作は緩慢かんまんに見えて。


 だが抜剣ばっけんの速度が瞬く間に加速するのをアーシュは見た。

男の抜く剣が鞘から半分ほど顔を覗かせた段階で、その動きを捉える事が完全にできなくなる。


 男は猛禽類もうきんるいのような鋭い目で無数のスライムを睨んでいて。


「『その剣閃、(ソード・)稲光を放ちて(ライトニング)』」


 ダンと地を踏み締める音。


 そしてその音より速く。

一筋の閃光が広間を駆け抜けて。


 その剣閃けんせんは一撃で無数のスライムを斬り裂いた。


「……あん? 思ったよりかてぇな」


「斬れるだけでも凄いんですよ、フリードさん」


 首をかしげるフリードに、後ろから声をかける眼鏡の青年。


「予定では広間の端まで斬り伏せるつもりだったんだけどな。半分も斬れてねぇや」


 フリードは小声で続ける。


「……ナマクラだな」


「フリードさん?! 聞こえましたよっ!?」


 眼鏡の青年が不満げに言った。


「なんのことやら」


 フリードは肩をすくめた。

鋭い歯牙を剥き出しにして、にやりと笑う。


 次いでフリードは剣を鞘に納めると深く腰を落とし、再び抜剣ばっけんの構えをとった。

口許くちもとには相変わらず笑みを浮かべて。

だがその目は鋭さを増す。


その剣閃、(ソード・)雷電の化身なりて(サンダーボルト)


 抜き放たれる剣閃。

その剣は先ほどと比べると速度はなかった。

だがそこに宿る力が違う。


 振り抜かれた刃。

巻き起こる衝撃波。

轟音を響かせ、フリードの剣は周囲のスライムを粉々に吹き飛ばす。


 フリードは地面を蹴った。

その手に握る剣はすでに鞘に納められていて。


 フリードは立て続けに剣を抜いた。

振り抜いた刃が生み出す鋭い斬擊がスライムの群れを蹂躙じゅうりんする。


 頭上に浮かぶ王冠型のスライムが身を震わせた。

複雑にいくつもの光を放って。

広間にひしめくスライム達はその光を受けると形を変え、より集まり、他の個体と連携を取ってフリードに迫る。


「無事ですか?」


 眼鏡の青年はフリードと彼に迫るスライムを横目見ながらアーシュ達に駆け寄った。

青ざめた顔で口から血を流すスカーレットと、足を負傷したシアン、そしてアーシュを見る。


「俺は後回しでいい! 先にねぇちゃんを!」


 シアンが慌てて言った。

眼鏡の青年はスカーレットの様子を見て。


「毒、ですか? なんの毒を受けたかわかります? スライムの攻撃ならそのスライムの特徴を。手持ちの武具によるものならそちらを教えてください」


 眼鏡の青年はスカーレットの両肩に手を置くと、座るように促した。


「大丈夫です。フリードさんがいればもう安全ですよ」


 スカーレットは青ざめた顔で青年に視線を返した。

促されるままに腰をおろす。


「私、スライムを喰ったの。魔力欠乏でどうしようもなくて」


 スカーレットが言うと眼鏡の青年は顔をしかめた。

思わず声を荒らげる。


「魔物を喰うなんて、自殺行為にもほどがある!」


 だかすぐにその顔から怒気どきが消えて。


「……いや、分かっていてもそれをせざる得ない状況だったのですよね。よくぞ持ちこたえました。ひとまず応急措置を。上に私達の仲間がいます」


「上ってことは10本の剣を持った冒険者と女の子も一緒? おれの仲間だったんだけど落とし穴ではぐれちゃったんだ」


 アーシュが言った。

ソードアーツの加速が切れ、その言葉は聞き取る事ができる。


 アーシュの言葉に眼鏡の青年の顔から表情が消えた。

中指で眼鏡の位置を直すとアーシュを見て。


「…………ええ、一緒ですよ。拘束してますが」


「え」


 アーシュが驚きの声を漏らした。


「彼らは魔人でした。あなたは騙されていたんですよ」


 眼鏡の青年が言うとアーシュはぶんぶんと首を左右に振った。


「違う、違うよ。2人は魔人だけど────」


「あなたは、騙されていたんですよ?」


 眼鏡の青年がアーシュの言葉をさえぎった。

眼鏡越しに鋭い目で青年はアーシュを睨んで。


「あなたは彼らの正体を知らなかった。……おふたりも同様ですよね?」


 スカーレットとシアンは驚きに顔を見合わせていたが、眼鏡の青年が問うとうなずいた。


「何かの、間違いじゃないんですか?」


 シアンがいた。


「いいえ。彼らは魔人でした。交戦の際に魔宮の展開と瞳に宿す赤い光を確認しました。よって交戦ののちに捕縛ほばくし、今は拘束して無力化しています」

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