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3-17

 暗転する視界。

いで激しい肩の痛みと共にディアスは視界を取り戻す。


 その視界は回る。

床。

通路。

天井。

通路。

そして床。

繰り返し飛ぶようにディアスの視界を横切って。


 そして再び、今度は背中を打ち付けた。

ディアスから苦悶の声が漏れる。


 だがその勢いは止まらない。

その視界はなおも回る。

壁が。

床が。

通路が。

天井が。

そしてまた壁がディアスの眼前を流れていく。


 魔宮の床に。

魔宮の壁に。

魔宮の天井に幾度となく体を強打する。


 頭部を強く打つとまたその視界が真っ暗になった。

 

 体の自由が効かぬまま。

まるで放り投げられた人形のように。

ディアスは気付くと通路の先の広間に投げ出されていた。


「ごふっ……」


 喉元を血潮ちしおがかけ上がり、塊のような血を吐く。


 息を吸う度にディアスの全身を激痛が襲った。


「ディアス!!」


 エミリアが叫んだ。


 フリードはエミリアに一瞬で肉薄すると剣を振り上げる。


「おい! フリード!!」


 巨漢の男が怒声をあげた。


「今あいつ明らかソードアーツ使ったぞ。ソードアーツと剣技を使う魔人がいるかっ?!」


 フリードの手が止まった。

フリードは半眼で巨漢の男に振り返る。


「魔人の臭いがしたから間違いねぇよ」


 フリードが確信をもって答えた。

口許くちもとに笑みを浮かべる。


「なんです? またフリードさん、何かやらかしたんですか?」


 眼鏡の青年がいた。

その視界は膨大な情報に覆われて目の前で何が起きているか見えていない。


「気にすんな。お前は本当に子供がいた時のために、ちゃっちゃと『深き底まで見通す眼(サーベランス)』を終わらせろ」


 フリードが仲間に答えている間にエミリアは駆け出した。

ディアスのもとへ向かう。


「おっと、逃がさねぇよ」


 フリードがそれに気付くと呟いた。


「お待ち。先に魔人かどうかの確認が先じゃ」


 老婆はフリードを制止する。


「間違いないんだけどなぁ」


 フリードはやれやれと肩をすくめた。

いでエミリアに視線を向けて。


「特にあの女の子、人の血肉の臭いをぷんぷんさせてる。間違いなくここ1日2日で人を喰ってる。それも、複数」


 そう言うとフリードの顔から笑みが消えて。

彼の剣を握る手に力が込もる。


 エミリアはディアスのもとへ駆けながらアムドゥスにたずねて。


「ねぇアムドゥス。あたし、どうしたらいい? ディアスがあんな一瞬でやられるなんて…………」


「ケケ、あれが天才ってやつだな。生まれ持った天性のステータス。そして強力な武器。しかも抜剣斬擊(ブリッツ系)の剣技の使い手なのに剣を抜かずにときたもんだ! ケケケケケ、勇者サマの名は伊達じゃねぇ」


 アムドゥスはフリードとその一向に警戒しながら言った。


 エミリアは通路を駆け抜け、ディアスのもとにひた走る。


 アムドゥスはエミリアの横顔と倒れているディアスを交互に、何度も見た。

そして悲しげにディアスを見つめるとエミリアに言う。


「エミリア、俺様と契約しろ」


「契約をすればなんとかできるの?」


「……ああ。今は俺様はブラザーの胸ん中のネバロの魔結晶アニマと契約してる。その魔結晶アニマを失えば俺様は即座に消えちまう。だから先に嬢ちゃんと契約の上書きをして、ネバロの魔結晶アニマが消えても俺様が消えないようにする」


「どういうこと? あたしと契約したらアムドゥスは何をするの?」


「…………」


「アムドゥス?」


「…………」


「ねぇ、アムドゥス?!」


 エミリアの再三の問いに、アムドゥスは答える。 


「ブラザーを──ディアスを殺す」


「どういうこと?」


「ケケケ、言葉通りの意味さ。魔人の心臓部たる魔結晶アニマを俺様が喰らって魔力に変換する。そうすりゃ俺様は一時的に全盛期の力を取り戻す。ディアスが今、懐にいくつか抱えている程度の魔結晶アニマじゃダメだ。赤の勇者サマと渡り合うにはそれ相応の代償が必要なのよ」


「あたしの魔結晶アニマじゃ────」


「嬢ちゃんの魔結晶アニマじゃ力不足だ」


 アムドゥスがエミリアの言葉を遮って。

 

「これしかねぇ。全滅するか、ディアスを犠牲にするか。選択肢は2つだ」


「でも、でも何かきっと。ディアスなら…………」 


 エミリアはディアスのもとにたどり着いた。


「ディアス!」


「…………エミリア」


 エミリアの呼び掛けにディアスが答えた。

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