3-10
「あくまで私は可愛いものが好きなの」
「けけけ、ほんとかなー?」
「ほんとよ、ほんと。そして私のアナライズによると────」
赤髪の少女はエミリアの歩み寄って。
「あなたもすっごく可愛いと見た!」
赤髪の少女はエミリアの頭巾に手を伸ばした。
その手が頭巾に触れて。
頭巾の下のエミリアの顔がこわばる。
エミリアは思わずその手を強く払った。
両手で頭巾を押さえて顔を伏せる。
赤髪の少女は一瞬唖然とした。
次いで困ったように笑う。
「ごめんなさい、私」
「ううん、あたしも驚いちゃったから強く叩いちゃった。ごめんなさい」
「いいの。ほんとにごめんなさいね…………」
赤髪の少女はばつが悪そうに顔を背けた。
青髪の少年とアーシュの消えた先へと視線を向ける。
その頃アーシュと青髪の少年は町の武器屋にたどり着いた。
「到着。ここだよ、アーシュガルドくん」
青髪の少年が背後のアーシュに振り返る。
2人の目の前にはポツンと建った一軒の店。
他の建物とは違って石レンガを積んだ平屋建ての建物で、太くて長い煙突が1本屋根から突き出ていた。
ショーウィンドのようなものはなく、石レンガの壁には小さな窓と質素なドアがあるだけ。
武器屋を意味する交差した2本の剣と盾のマークの看板が屋根から張り出している。
2人はドアに掛けられた『営業中』の掛け看板を確認するとドアを開けた。
ドアについた鈴がカランカランとけたたましく鳴り響く。
店の中は思った以上に明るかった。
屋根に備え付けられた大きな天窓から射し込む光が店内を照らしていて。
壁にはいくつもの剣や戦斧が掛けられ、槍やハルバートなんかの長い得物は壁に立て掛けられている。
「いらっしゃい」
カウンターの先からしゃがれた声が聞こえて。
アーシュと青髪の少年が視線を向けると、店主と思われる筋骨隆々の男が立っていた。
麻の上着の袖をまくり上げ、皮のエプロンを身につけた初老の男。
男は2人を交互に見て。
「ガキは帰んな。うちは鍛造した武器を扱う武器屋だ。ソードアーツとかが撃てるような派手な武器ならここには無いぜ」
「投擲用の剣を探しているんです」
青髪の少年が言った。
「投擲用? ガキがぶん投げたって大してダメージ出せねぇだろ」
男は無精髭を撫でながら2人を見下ろす。
「おれ遠隔斬擊の剣技を使うんだ」
「ほう、遠隔斬擊か。いいねぇ」
男はカウンターから身を乗り出した。
アーシュをじっと見つめる。
「隻腕か。まぁ、遠隔斬擊使うんなら関係ねぇわな。んで、どんなのがお好みだ」
「種類があるの?」
「あたりめぇよ。属性の有無。状態異常の付加。切れ味を優先すんのか頑強さを優先すんのか。重さもそうだし、デザインを凝るやつだっている」
男はカウンターから出てくると、カウンター横のショーケースを開けた。
中からいくつもの投擲剣や短剣を取り出すとカウンターに並べる。
並べられた剣は様々な色や形状、大きさのものがあった。
「こいつが炎の魔宮の生成物から鍛えた火属性の短剣。これが水属性の短剣。こっちが毒の短剣。こいつは侵食耐性に特化した魔宮の壁から削り出した投擲剣だ」
アーシュと青髪の少年は鍛冶屋の示す剣に視線を移していく。
「どうだ? 決められそうか?」
鍛冶屋の問いにアーシュは首を左右に振った。
「どれも強そうで選べない」
「ガッハッハッ! 強そうで選べねぇか!」
鍛冶屋は豪快に笑うと無精髭を撫でた。
アーシュはしばらく悩んでいたが、手持ちの硬貨と相談してシンプルな形状をした同じ短剣を4本選んだ。
「毎度あり」
鍛冶屋はアーシュから銀貨10枚を受け取った。
「ちょっくら待ってな」
鍛冶屋はそう言うとアーシュの買った短剣を持ってカウンターの奥に消える。
少しして鍛冶屋は皮のベルトを2本持ってきた。
そのベルトには先ほど買った短剣がくくりつけられていて。
「こいつぁサービスだ。剣だけ渡しても持ち運びに不便だろ」
鍛冶屋はアーシュの腰と右足にベルトを巻いた。
短剣をしっかりと固定する。
「ありがとう、おじさん」
「礼はいらねぇよ。在庫処分だ。今時鍛造して作った武器買ってくれるやつも少ねぇしな」
鍛冶屋はため息混じりに言った。
自分の鍛え上げた武具を眺めて。
「ま、時代の流れってぇやつだな」
鍛冶屋はそう言うと、腕を組んでアーシュと青髪の少年に視線を向ける。
「達者でな、ガキ共。良かったらまた来いよ」
「ええ、ぜひ」
青髪の少年が会釈した。
「おじさんも元気でね」
アーシュが言った。
2人は武器屋をあとにする。




