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3-1

 ディアス達はアーシュの腕とその手が掴んでいた長剣を回収して。

赤蕀の魔王の魔宮を抜け、再びアーシュの案内で森を進んでいた。


「この剣、どうやって返そう」


 アーシュは背負った長剣を横目見ながら言った。

それを聞いてアムドゥスはケケケと笑う。


「んなもん気にしねぇで、もらってきゃいいだろ」


「武器を盗むのってけっこう罪が重いんじゃなかったっけ」


「ケケ、不可抗力だろ。あのガキが魔物に弾かれた剣を、生き残るためにお前さんが使った。別に問題ねぇだろ。会って返せと言われたら返せばいいんじゃねぇか」


「ディアス、武器を盗むのってそんなに罪が重いの?」


 エミリアがたずねた。


「ギルド機構の敷く法において魔宮生成物を盗む行為は最も罪が重い犯罪の1つだ」


「そうなんだ。魔宮生成物をって事は普通の泥棒とは違うんだね」


「今はギルド機構の統治下に全ての国があるが、国同士のいさかいが完全に消えたわけじゃないし、強い発言権なんかを持つにはそれなりの武力や貢献が必要になる。となれば、放っておけば魔宮生成物の奪い合いが始まってしまう。それを防ぐための法だ」


「そっか、国同士の武器の奪い合いなんかが起こったら大変だもんね」


「あくまで建前だけどな」


「建前?」


「この法は国同士の武力の奪い合いを抑止するという面も確かにあるが、最も警戒されているのは国ではなく個人による武力の独占だ」


「ケケケケケ。なるほど、ブラザーが取引しているような奴らの事か」


「ディアス兄ちゃんが取引してる相手?」


「俗にコレクターと言われている輩だ」


 ディアスが答えた。


「コレクター?」


「あるコレクターは武器を。あるコレクターは魔物を。あるコレクターは魔結晶アニマを。魔宮の構成物から魔人そのものまで、己の嗜好によってそれらを収集している存在を総称してコレクターと呼ぶ。表舞台に姿を現す事はないが、その保有する力は一国をしのぐ」


「個人が国より強いなんてあり得るの?」


 エミリアの問いにディアスはうなずいた。


「そこいらの国の軍隊や憲兵団けんぺいだん1つよりもSSクラスの魔剣1本の方が強いこの世の中で、SSSクラスの武具なんかを無数に保有してるような連中が弱いはずがない」


 ディアスは懐からいくつもの魔結晶アニマを取り出して。


「俺が取引しているのは魔結晶アニマのコレクターだ。俺はそいつに手にした魔結晶アニマを渡す事でそのコレクターの庇護下ひごかに入っている。もちろん、俺の胸の中に誰の魔結晶アニマがあるかは内緒でな」


 ディアスは魔結晶アニマを懐にしまった。


「コレクター同士はお互いに不干渉の決まりを定めているから、その庇護下ひごかに入れば魔人収集のコレクターや武具のコレクターに襲われる心配をしなくていい」


「一回俺様もディアスと一緒にそのコレクターってやつを見た事があるが、ありゃ別格だな。ステータスが人間のものじゃなかった。化け物だぜ、ありゃ。ケケケケケ」


「それで、これからはどうするの?」


 エミリアがいた。


 ディアスはアーシュに振り返って。


「…………アーシュ、この辺で野党とか山賊や盗賊なんかが出るような場所に覚えはないか?」


「うーんと……前に村に来た旅人から山の街道の辺りに山賊が出たって聞いた事があるよ」


「ならそこへ行こう。案内できるか?」


「おれ森から出たことほとんど無いから行ったことはないけど、一本道って話だから多分大丈夫」


「分かった。じゃあこのまま道案内頼む」


「うん。任せといて!」







 ディアス達は森を抜けると平原を突き進んでいた。

頭上には真っ黒な空に白い月が浮かび、薄くたなびいた雲が時折その姿を隠して。

時折吹き抜ける風が3人の髪を撫でる。


平原を横切ると3人と1羽は街道に出た。

街道はまっすぐ山に向かって伸びている。


「この街道か?」


 ディアスの問いにアーシュはうなずいた。


「うん。この道だと思う」


「よし。俺とアーシュはこの街道を進んで、適当な場所を見つけたら休む。エミリアは先に行って山賊の対処を。アムドゥスは空から山賊の拠点を探してくれ。街道からそう遠くはないはずだ」


「あいよ、ブラザー」


 アムドゥスはエミリアの肩から飛び立った。

羽ばたいて空高く舞い上がると眼下に目を凝らす。


「じゃ、あたしも行ってくるね」


 エミリアが駆け出した。


「あ、おれも行くよ!」


 アーシュがそのあとを追おうとする。

ディアスはその手を掴んで。


「アーシュ、俺達は休める場所を探すぞ」


「でも大丈夫なの? エミリアだって弱ってるんでしょ」


「エミリアなら大丈夫だ。今のエミリアに太刀打ちできない相手ならステータスを読み取ったアムドゥスがストップをかけるさ。それに────」


 ディアスは遠ざかるエミリアの後ろ姿を見つめて。


「見られたくはないだろうからな。特にアーシュには」


「見られたくない?」


 アーシュが首をかしげる。


「俺もエミリアも疲弊ひへいした今の状態で、意味もなく山賊退治なんてしないってことだ」

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