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2-26

「ひとまず俺の家へ。そこで少し休んでくれ」


 守衛はアーシュに視線を向けると続けて。


「ガキの使う秘密の通路はそっちの2人も通れそうか?」


「うん。ディアス兄ちゃんでもギリギリ大丈夫だと思う」


「じゃあ、そっちから入れ。村人の半数以上はすでに集会所に避難してるが、見回りなんかもいる。見られないようにな。アーシュ、お前も見られるなよ?」


「アーくんも見られたらまずいの?」


 エミリアの問いに守衛は顔をしかめて。


「アーシュは元々村での立場もあまり良くなくてな。まぁ…………それで今はちょっと見られるとまずいんだ」


守衛は歯切れ悪く答える。


「ディアス兄ちゃん、エミリア。こっちだよ!」


 アーシュが森の奥へと進むと、振り返って手を振った。


「話はあとで。俺の家で落ち合おう」


 ディアスは守衛にうなずくとエミリア、アムドゥスと共にアーシュのもとへ向かった。


 ディアス達はアーシュの後に続いて森へと分け入ると、アーシュが歩みを止めて。

落ち葉と枯れ草で隠された石造りのふたを開けて秘密の通路に入った。

使われなくなって久しい地下水路の跡を抜けて、村の隅に出る。


 村人に警戒しつつ、3人と1羽は守衛の家に向かっていた。


「…………り者め」


 若い男の声。

いで足音が聞こえてきて。

ディアス達は家の陰で歩みを止めて様子をうかがう。


「俺は嫌だったんだよ。あんなやつ、この村に住まわせるの。あいつの一家が村に来てからろくなことがない」


「あの一家のせいで森の永久魔宮は出現するし、今回の魔人2人もあのガキが連れてきたって話だ」


 しわがれた男の声が続けて。


「姿をくらましたあのガキを探しに村の子供達が森に入って、そこで子供が魔人の犠牲になったとか。おそらくそういう罠だったんだろうよ」


「探しに来てくれた子供を魔人に食わせるとか、とんでもねぇ話だ」


 2人の男は話をしながら通り過ぎていった。


「…………行ったね。今のうちに行こっか」


 アーシュは顔を覗かせて確認すると言った。


「…………」


 エミリアは何も言わなかったが、その顔は不満げで。

エミリアは遠ざかっていく村人2人の背中を陰から睨むと、べっと舌を出す。


 ディアス達は守衛の家にたどり着いた。

扉をゆっくりと開けて中を覗くと、すでに戻っていた守衛と目が合う。


「早く入れ」


 守衛に言われてディアス達は家の中へ。


「まずはアーシュの手当てをする。にいちゃんとお嬢ちゃんは適当に休んでてくれ。いや、早急に必要なものがあるなら先に用意するが何かあるか?」


「あたしは大丈夫」


「俺も大丈夫だ。だが」


 ディアスはアーシュの左腕を見ると続けて。


「治療にはポーションを使わないでくれないか?」


「ん? それはなんでまた」


「俺の知り合いに医者がいる。そいつならおそらくアーシュの腕を繋げる」


「本当か? 切断された腕を繋げる医者なんて聞いた事がないぞ」


「実例がある」


「腕の回収は?」


「魔物が沈静化してるならそんなに難しくはないと思う。アムドゥスに偵察させて魔物を回避していけばわりと苦もなく回収できるはずだ」


「その医者はどこに?」


「白竜の魔王のテリトリーにある山岳の街だ」


「白竜の魔王のテリトリーか。アーシュはどうする? しばらくは痛みがひどくなると思うが、それでいいか?」


「うん」


 アーシュが答えた。


「よし、ひとまず手当てをする。アーシュはこっちに」


 守衛とアーシュは奥の部屋に消えた。


「…………あ、待って痛い痛い痛い! あー、見たくないー! やめて、ストーップ!」


 すぐに隣から阿鼻叫喚するアーシュの声が響いてきた。


「ケケケケケ! 情けねぇ声だなぁ」


 アムドゥスはケラケラと笑う。


 しばらくするとディアス達の元に戻ってきた守衛とアーシュ。


 アーシュは血まみれだった上着を脱ぎ、左腕には清潔な新しい包帯が綺麗に巻かれていた。

露になったその細い体躯には擦り傷やあざ、切り傷が無数についていて。

その顔は青ざめていて、鼻をすすりながら涙をぬぐっている。


「アーくん、ホントにごめんね。その腕」


 エミリアが言うとアーシュは首を左右に振って。


「気にしないでよ。エミリアがああしてくれてなったら、おれは死んでた。それよりエミリアもディアス兄ちゃんも怪我は大丈夫なの?」


「あたしは戦闘は今できないけど、今すぐ死んだり永久魔宮化する事はないと思う」


「俺も大丈夫だ」


 ディアスが言うとエミリアは顔をしかめて。


「アムドゥス。ディアスってホントに大丈夫なの?」


 アムドゥスは守衛とアーシュに視線を向けた。

仲間ではない2人の前で言うか言うまいかアムドゥスは悩む。


「ねぇ、教えてよ。ディアス兄ちゃん、もしかして大丈夫じゃないの?」


 アーシュが不安げな眼差しでアムドゥスを見た。


 アムドゥスはため息を漏らして。


「ケケ、大丈夫なわけねぇだろ。さっきの戦闘で肉体の侵食が進んで、もう身体の3割は魔宮化してる」


「魔宮化って、永久魔宮化の事か?」


 守衛が聞いた。


「ああ」


 アムドゥスが短く答える。

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