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13-5

 ザーザーと幾重いくえにも折り重なる木々のざわめきのような音と共に。

巨大なにも似た魔物が大樹の枝から次々とがれ落ちた。

またたに数を増やして渦を描く魔物の群れがボス部屋の範囲を取り囲む厚い壁となって。

折り重なる魔物の影が外界を完全に遮断し、ディアスの退路を断つ。


 高速で廻る新緑色の魔物の壁は、だが鋭い閃きを伴っていて。

それはもはや質量を持った斬撃。

ディアスが自身の刀剣蟲ラーミナの1つを射出するが、それは武具と武具を打ち合わせたような鋭い金属音を響かせて弾かれた。

まるでさながら剣戟けんげきのような音が、2人の魔物の特性をあらわにする。


 剣へと擬態するディアスの刀剣蟲ラーミナに対し、ドミニクの刀剣蟲ラーミナは葉へと擬態する。

その形状は違えど飛翔して自身を刃とする性質は同じ。

そして魔物単体としてだけでなく、同じように武具としての性質と能力をあわせ持つ。


 ディアスは遠隔の腕を伴ってドミニク目掛けて再び飛翔した。

自身と遠隔の腕それぞれが別の軌道を描き、対峙たいじする異形のふところへ。

背後へ。

左右へ。

そして頭上へ。


 感覚器官の見当たらない、魔物と化したドミニクを相手に。


数多ある斬擊の1(ラスト・ミ)つでしかなくとも(ディオーカー)!」


 それでも発声器官を備えた首からの視野を想定し、そこから死角となり得る角度からの一斉攻撃。

刀剣蟲ラーミナの剣身がソードアーツの光をまとって振り下ろされる。


 それを迎え撃つようにハルバードを操るドミニク。

その初動を捉え、同時にディアスは剣を加速して軌道をも変えて。

だがドミニクの斧槍も同じく加速。

鋭い羽音と共に慣性を無視した急旋回でディアスの放った刃をことごとく打ち砕く。


「甘イナ」


 ディアスの刀剣蟲ラーミナの刃が欠片となって舞う中。

 鈍い羽音を凝縮したような声でドミニクが言った。

ディアスの遠隔の腕が放ったソードアーツはそれぞれ1本の腕で対応し。

残った2本のうち1本でディアス本体の4連撃を相殺。

さらに1本の腕で斧槍をディアスへ叩きつけ。

素早く跳躍すると体をよじって両足の刃もディアスに見舞う。


 激しい衝撃と共に吹き飛ばされたディアス。

その軌跡には大量の剣の破片がこぼれた。

それは咄嗟(とっさ)に出せる限りの刀剣蟲ラーミナを展開して折り重ねた防御の残骸。

だが防御を貫通してディアスの身体を構成する自食の刃も大きく穿うがたれて。

剥き出しとなった魔結晶アニマの光が胸から漏れる。


 力を解放して崩れ落ちる刀剣蟲(ラーミナ)を、新たに生み出したものと置き換え。

ディアスは四肢に埋まるその刃を操作して空中で静止した。

ドミニクも壊れた斧刃を払い落とすと、再びその束ねられた爪先に刀剣蟲(ラーミナ)を補充。

魔物の大きな葉のような甲殻が展開してハルバードとなる。


 真っ向から撃ち合えば負けるのは、先の攻撃が防がれた時に分かっていた。

初速も向こうが上。

だが剣の操作による加速で最大速度と変幻自在の剣撃でディアスの方にがあると。

なのに。


 ディアスがそれを剣として操るように、ドミニクは自身の得物ツメ刀剣蟲ラーミナを合体させてハルバードとして振るうことができた。

斧槍形態では武具の質量の増加と刀剣蟲ラーミナの飛翔による斬撃の加速を利用しながら、状況に応じて身軽な槍へと切り替えての柔軟な戦闘スタイルが以前の彼の真骨頂。

さらにディアスの数多ある斬擊の1(ラスト・ミ)つでしかなくとも(ディオーカー)の、自壊を代償に魔物自身の魔力を斬撃の威力に上乗せするすべを取り入れて。


 速度で勝り。

膂力りょりょくで勝り。

質量で勝り。

刀剣蟲(武具)の性能で勝り。

魔物の内包する魔力量の圧倒的な差によって、ソードアーツによる有利をも上回る。


 同じ手数では勝ち目がない。


 ディアスは欠損した箇所の回復も待たずに。

身体を構成する自食の刃を、さらに腕の形成に大きくいた。

胴を削ったことでさらに胸の奥から魔結晶アニマの光が溢れて。

極彩色の光が冷たい刃の骨格を妖しく照らす。


宙に浮かぶ遠隔の腕の数が10。

その手にそれぞれ刀剣蟲ラーミナを握って。

そして途切れた二の腕や膝下から伸びる刃と合わせ、ディアスが最大火力を出せる刃の数はこれで14。

手数だけならドミニクを上回る。


 ディアスはドミニクを警戒したまま、ボス部屋を取り囲む彼の刀剣蟲ラーミナにも意識を向けた。

渦巻く膨大な数の魔物の姿が外界のあらゆる情報を遮断して。

だがそれほどの数がありながら、ドミニクが攻撃に用いるのは自身の爪が変形した槍の先にまとわせる8体のみ。

個々で魔物としてディアスを襲わせる気配はない。


 タイマンに極力近い形で。

戦闘に執着する様子からそういったドミニクのこだわりの可能性もあって。


 だが違う、とディアスは感じた。

そのほとんどがディアスをこのボス部屋から出さないことに注力している、と。


 出られては、困るのだ。


 ドミニクは自身を魔宮のボスへと変えた。

その変化はおそらく不可逆。

1度ボスとなれば魔人には戻れない。


 魔力リソースがあればあるほど強いのは明白なのに。

それでもレディと名乗った魔人の女が魔宮展開できるほどの魔結晶リソースが潤沢な個体ではなく、生み出したばかりの魔結晶アニマがわずかな個体をボスへと変化させたのもこのため。

そしてボスは、ボス部屋から出られない。

さらに魔人でなければ人を喰らっても魔力へと変換できず、いずれボス部屋の維持するための魔力が枯渇して自滅する。


 勝っても負けてもドミニクは死ぬ。

それゆえの、一度きりの奥の手。


 研鑽けんさんと技術の吸収の積み重ね。

そして確定された死を代価にしたその強化を経て。

先にディアスが思ったドミニクの格が劣るという評価はくつがえる。


 個体としての性能もそうだが、厄介なのは擬似的なソードアーツとも言える魔物の自壊を代償にした強力な一撃。


 冒険者(ソードアーツ)の力を操る、堕ちた勇者の魔人堕ちが対峙たいじするのは。

冒険者(疑似ソードアーツ)の力を得た魔人の魔物変わり。


 それは強大無比なソードアーツを振るう魔王(ネバロ)の下位互換か。

────否である。

魔人を捨て、魔物へと変じたことで得た脅威(強み)魔物変わり( ソ レ )にはある。

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