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2-21

「…………ネバロの事か? あいにくだが人違いだ」


 ディアスが言った。


 だが人面の魔物にディアスの言葉は届いていないようだった。

魔物は笑い声をあげながら、ディアスに向かって歩みを進める。

その暗黒の瞳はディアスただ1人だけを見ていた。


 ディアスは自分の胸の中の魔結晶アニマの熱を感じ取って。


「どうやら狙いは俺1人になったみたいだ。今のうちに逃げろ。赤蕀の魔王の魔宮がそこまで迫ってる。村に戻って村人を避難させるんだ」


 守衛は歯を食い縛ると立ち上がって。


「1人で大丈夫か?」


「俺を誰だと思ってる」


 ディアスは剣を構えながら答えた。


「……頼んだ」


 守衛はおぼつかない足取りで少女のもとへ向かった。

少女の手を強く握ると2人で最年少の少年のもとに。

そしてそこにリーダー格の少年が合流した。


 アムドゥスはエミリアにそっと耳打ちして。


「嬢ちゃんには悪いが、俺様たちは残るぞ。左肩と右足に赤蕀の魔王の魔物に受けた攻撃の痕。しかも俺様が力を使ったせいでディアスのやつ見た目以上に消耗してやがる」


 エミリアはアムドゥスに視線を向けると小さくうなずく。


「…………ディアス兄ちゃん」


 アーシュは左腕の傷口を押さえながらディアスに近づいた。

大きく鼻をすすって。

唇を震わせ、その紫色の瞳は涙に潤んでいる。


「ディアス兄ちゃんは、白の勇者なんだよね?」


 アーシュの言葉を聞いて、ディアスはアムドゥスとエミリアを交互に横目見た。

エミリアは首を左右に振り、アムドゥスは顔を背ける。


「ディアス兄ちゃん、お願い。かたきをとって」


「アムドゥス」


 ディアスが呼び掛けるとアムドゥスが答える。


「ガキが2人犠牲になってる」


 アムドゥスが結晶の方を2ヶ所、翼で指した。

光を放つ結晶の陰には原形をほとんどとどめていない人間の死体。

もう一方には結晶の中に下肢を欠損した少年の亡骸が見える。


 ディアスがアーシュに答えるより早く、人面の魔物はディアスにおどりかかった。

跳躍するとひづめを振り上げ、そこに幾何学きかがく模様を通って全身にまたたいていた光が集束する。


 ディアスは腕でアーシュを突き飛ばすと横に飛んだ。


空を切ったひづめが激しい閃光と共に地面を穿うがって。


「ソードアーツ────」


 すかさずディアスは剣の魔力を解放。

振り下ろされた前足目掛けて剣を振るう。


「『鋭き毒、刹那に疾るゲイル・スティングレイ』!」


 刃にまとう紫の閃光。

踏み込みと同時に腰をよじり、腕と肩とを連動させて。

紫色しいろの軌跡が尾を引く刺突。

鋭い風切り。

いで甲高い音を響かせ、魔物の足を貫いた。


 人面の魔物の顔に浮かんでいた笑みが、消える。


「ソードアーツ『鈍色の偃月(クレセント)、空を裂いて(・リージョン)』……!」


 続け様に放たれるソードアーツ。

それに呼応するように月明かりがその光を強めた。

木々の隙間から月光が差し込み、その光はディアスの剣へと吸収されて。

そしてディアスは剣を一閃。

大きく弧を描いた斬擊が三日月のような光の剣閃を浮かび上がらせる。


 放たれた三日月型の斬擊が人面の魔物の足を深々と斬り裂いた。


 魔物が苦悶の声を漏らす。


 ディアスは魔物の足を蹴ると後方に跳躍。

両手の剣を同時に投げ放って。


「『その刃、疾風とならん(ソード・ガスト)』」


 投げ放たれた剣が光をまとうと加速。


 さらにディアスは2本の剣も抜くと同時に投擲。

合わせて4本の剣が人面の魔物に襲いかかる。


 人面の魔物は剣を弾こうと無数の尾を操った。

だが放たれた剣は魔物の尾の切っ先ごと結晶質の体に突き刺さって。


 魔物はざらつくような声音で絶叫。

その声は鼓膜を激しく揺さぶり、聞いたものの動きを縛る。


 ディアスはバインドボイスの拘束をはねけると、さらに2本の剣を放った。

 加速する剣を受けて、魔物の咆哮ほうこうが途切れる。


 人面の魔物はよろめきながらディアスをにらんだ。


 ディアスは目深に被ったフードの陰から周囲に視線を走らせて。

ディアスがまだ魔人だと知らない守衛と少年少女、そしてアーシュを盗み見た。


「すごい……!」


 恐怖と絶望を掻き消して。

アーシュの目には強い羨望の色が宿る。


「…………出し惜しみは、なしだ」


『勇者ディアス』への憧れを感じて。

ディアスはアーシュから視線を外した。


 勇者とは真逆の、忌むべき魔人の力を発現させる。


「顕現しろ、俺の『千剣魔宮インフェルノ・スパーダ』……!」


 現れたのは全身をまとう数多の剣。

大小無数、古今東西の刀剣が幾重にも重なっていて。


 ディアスは人面の魔物へと跳躍。

空中で身をひるがえすと、全身の剣が連なって尾を引いた。

連なった剣が長大な斬擊となる。


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