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12-1

「────顕現けんげんしろ、俺の千剣魔宮インフェルノ・スパーダ


 奥の手である魔宮のボスを召喚し、その能力でディアス達の攻撃手段の全てを奪って。

あとは勝利を待つだけだったはずの【青鏡の魔王】ミアツキ。

だがその視線の先に灯る赤。

いで彼女の無機質な瞳一面に映ったのは無数の刃だった。

縦横無尽にかける剣が、傷ついたミアツキと彼女をいだく鏡の巨兵を幾重にも斬り裂く。


 さらにヒュン、と風切り。

ソードアーツを発動した切っ先がミアツキの胸を貫くと、彼女の身体に亀裂が拡がった。

亀裂に光が走るとそれは瓦解がかいして灰に。

そしてその中から真っ二つに割れた巨大な魔結晶アニマがこぼれ落ちる。


 青鏡の魔王の討伐。

それに伴って崩れ去る鏡の魔宮。


 砕け散った鏡の欠片がキラキラと舞う中で。

【白の勇者】ではなく魔人堕ちした後の姿をしたディアスは、周囲の人々に視線を走らせた。

いで赤い瞳を伏せ、1歩退く。


「ディアス!」


「ディアス兄ちゃん!」


 エミリアとアーシュがディアスの姿を見て同時に叫んだ。


「…………」


 アムドゥスは無言のままディアスを睨んでいて。


 ディルクは舌打ちと共に浮遊させた剣の切っ先をディアスに向け、リーシェはディルクの腕を引いてやめてと訴える。


 エミリアとアーシュはすぐさま駆け出し、ディアスにすがり付いて。

エミリアがディアスの服の裾を強く引き、アーシュが力いっぱい抱きついた。


「…………」


 2人の様子をディアスは静かに見下ろしている。


「戻って良かった」


 ディアスの胸元に顔をうずめたままアーシュが言った。

その涙を吸ってディアスの服がじんわりと湿って生暖かくなる。


「いや、今俺が表に出てきたのは魔物の能力の影響だ。じき白の勇者(あっち)の俺が再び表になる」


「もう戻れないの? あたし、ディアスはやっぱりディアスのままがいい」


「もう決めたんだ。白の勇者と魔人の俺、どちらが強く、どちらがより多くの人を救えるのか。その答えは白の勇者(あいつ)だ。魔人(おれ)じゃない」


 ディアスはその瞳の陰りを強めて続ける。


「それに俺の永久魔宮はたくさんの人の命を奪った。もう俺に人を助けるなんて資格はない」


「永久魔宮になってる間、意識があったの?」


 エミリアがいた。


「永久魔宮になっていた俺に意識はなかったが……。でもエミリアと書庫の魔人の会話を聞いていた。人を求めて徘徊する刃の永久魔宮。それに追われて多くの人達が家を捨て、放浪ほうろうすることにもなった」


「ケケケ、だから自分は引っ込んで何も知らねぇ白の勇者サマにあとを任せるってぇ? ケケケケ! そんなもん責任から逃げてるだけじゃねぇのかぁ?」


 ため息混じりに口を開いて。

アムドゥスは3つの瞳でディアスを睨みながら言った。


「……ああ。責めるなら責めてくれていい」


「ああん? 俺様はお前さんを責めてすっきりしたいんじゃねぇ。白の勇者サマに押し付けて逃げないでお前さん自身で責任を取れって言ってんだぁ。お前さんのその選択はお前さんのことを信じてくれてた嬢ちゃんとクソガキにも────」 


 俺様にも、とアムドゥスは小さな声で付け加えて。


「失礼だって分からねぇかぁ? ケケ」


「言うだけ無駄だ。そいつはそういう奴なんだよ」


 ディルクが言った。

半眼でディアスを横目見ている。


 その時。

激しい地響きがディアス達を襲った。

青鏡の魔宮の消失によって、そのテリトリーだった大地に広大な亀裂。

その深い裂け目がディアス達にも迫る。


 ディアス達はなんとかその崩落から逃れて。

だが満足に言葉を交わす事もなく、気付けばディアスは青年から少年の姿へと戻っていた。

エミリアとアーシュに悲しそうな視線を向けられても、【白の勇者】ディアスは何もこたえない。


「…………?」


 寂しそうな視線には気付かなくとも。

ディアスは遥か空の彼方から聞こえる異音に気付いた。

先ほどまで響いていた地鳴りにも似た低いうなり。

その音のする方へと目を凝らして。


 いで空が、光る。


 続けざまに衝撃波。

激しい轟音と共に、上空に浮かんでいたラーヴァガルドの孤児院を一条の熱線が襲った。

孤児院を囲うように浮かぶ防壁の1つに阻まれ、灼熱の閃光は拡散して大地に降り注ぐ。


 緩やかに弧を描いて。

だが飛来した熱線は大地で弾けると、一拍の間をあけて大きな爆発と火柱を生む。


「一体、何が……!」


 リーシェが孤児院を見上げながら言った。


「────あはっ! お姉ちゃんがついに動いたみたい」


 今も飛散した熱線の欠片が降り注ぐ中。

状況に不釣り合いな無邪気な少女の声がした。


 その声を知るディルクとリーシェに悪寒。

アーシュとエミリア、アムドゥスも息を飲んで。

だが彼女と最も因縁があるはずのディアスだけ、その正体が分からない。

今いるディアスの過去は、彼女と対峙する直前から意図的に奪われている。


 ディアスが振り返った先にたたずむのは銀髪の少女だった。

風に揺れる黒のワンピースから伸びる四肢の末端は真っ黒な骨で形作られ、赤い瞳は禍々(まがまが)しく輝いていて。

その両手にはミアツキの魔結晶アニマの欠片が握られている。


「久しぶりだね、お兄さん。覗き見てるだけで、今はここにはいないみたいだけど」


 そう言って【黒骨の魔王】ネバロ・キクカがディアスに笑いかける。

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