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11-26

 斬擊が放たれる瞬間。

朽ちてがれ落ちた赤の鎧の破片が宙に舞って。

それらがより集まって再び結合を開始した。


 だが復元が完了する前に。

フリードの放った斬擊が魔王を覆い隠すと鎧が大破。

次は鎧だけでなく、フリードの身体が軋みをあげ、肉が裂けて血が噴き出す。


「っ! やはり鎧の復元が」


 カイルが苦々しく呟いた。

その手には紅と銀の結晶。

そこに円形の模様と図形が折り重なって描かれていて。

それらが今も分解。

粒子りゅうしとなって漂い、フリードの鎧の破片に溶け込んでいる。


 錬金術による鎧の復元。

それがカイルに与えられた一番の役割だった。


 魔王を飲み込んだ紅と黒の混濁こんだくした剣閃けんせん

フリードの魔剣により放たれる斬擊は圧倒的な威力を誇って。

だが同時に代償を伴う。


 発揮した威力と同等のダメージを使用者に与える。

その剣だけでも代償に見合う絶大な威力を。

さらにフリードのステータスと抜剣斬擊(ブリッツ系)による相乗でその威力はまさに一撃必殺を体現していた。

それは同時に使用者が必ず絶命する事を意味する。


 その対策がフリードのまとう赤の鎧。

それはダメージを肩代わりする能力を持っていて。

ディアス達が複合魔宮で対峙たいじした魔人の騎士が身にまとっていたのと同質の装備だった。


 ダメージの肩代わりによって防御無視である影の攻撃をしのいで攻勢へと転じたフリード。

だがその復元を待たずに抜剣ばっけんしたためにダメージを吸収しきれず、大きなダメージを負ってしまう。


 さらに放たれた斬擊の余波は光の剣の比ではなく。

巻き起こる衝撃波がフリードを吹き飛ばし、壁へと叩きつけた。


 すかさずダン、とフリードの左手が壁を叩いて。

禍々(まがまが)しい魔剣の刃はさやへ。

体を折り、壁を踏みしめて跳躍の構え。

戦闘の姿勢は崩さない────いや、崩せなかった。


 一撃必殺をうたう彼の剣は魔王に届いていない。


「攻撃の停止……いや減衰か」


 自身の放った抜剣ばっけんが未だ空中にとどまっているのを見てフリードが呟いた。

魔王と放たれた斬擊とを隔てる影をにらむ。


 カイルは『神秘を紐解く眼(アナライズ)』で何が起きているのかを解析。

だがその結果を待たずにフリードは目の前の事象の意味を瞬時に理解する。


 威力の減衰ではなく、攻撃の到達そのものを遅らせているのは影。

それはこの影の魔宮の持つ性質を利用した防御だった。


 この影の魔宮の特色は影の濃度に応じた規模の拡大と縮小。

昼と夜とで広さの変わるこの魔宮を形作る影は、影そのものに距離を内包していて。

内包された距離を越えるまで、放たれた攻撃は影に阻まれ続ける。

間違いなく魔王をほふる威力がありながら、その攻撃は魔王に届かない。


「フリードさん! これは────」


「分かってる」


 解析を終えたカイルの言葉を遮り、フリードは壁を蹴って地面へと素早く降下。


「スペルアーツ『治癒魔象(キュアー)』」


 マールがフリードに回復のスペルアーツをかけた。

その効果で目に見えた外傷のほとんどは塞がって。

だが肉体内部にまで到達した深いダメージを癒すには至らない。


 喉元を込み上げてきた血反吐ちへどを吐き捨て、フリードは剣の柄を握り直して腰を落とす。


「使えるか、マール」


 視線は向けずにフリードがマールにたずねた。

その問いを受けて、マールは携えていた得物を強く握る。


 それはパーティーの1人だったエレオノーラの置き土産。

大きなつば広の三角帽子と並んで彼女を象徴していた、魔結晶アニマの埋め込まれた大きな杖だった。


「────」


 1拍の間。


「任せてくださぁい。フリードさん」


 いでふわふわとした口調ながら眉をきりりと引き締めて。

口を小さく真一文字に引き結び、マールは杖を掲げた。

埋め込まれた魔結晶アニマに魔力を注ぎ込む。


 エレオノーラなら日に何度も発動させることもあったサモンアーツ。

だがマールは1度の召喚で限界。

自身のありったけの魔力を注ぐと共に、魔力欠乏による心身の不調が彼女をむしばみ始める。


 マールの内在する魔力量が乏しいわけではない。

エレオノーラのもつ魔力の総量が異常なのだ。

マールは自身と憧れであるエレオノーラとの隔たりを強く意識する。

膨大な魔力と多彩なスペルアーツを駆使し、強大なサモンアーツを使役する魔女。

赤の勇者一行の補助と攻撃の両方を担うパーティーのかなめ

未だ遠い憧れの人。


 だがエレオノーラは杖を置き、パーティーを離れた。

マールの憧れた魔女としての役割を終え、彼女は本来の刃を取り戻す。

その圧倒的な魔力量で敵を殲滅する彼女の真の戦闘スタイルを知る者は今はごくわずか。

フリード達も全盛の彼女の力を見たのは数えるほどしかない。


「……っ」


 悪寒、冷や汗、頭痛、吐き気、目眩めまい、意識の混濁こんだく

魔力欠乏による様々な不調にマールは顔を歪めた。

それでも、なけなしの魔力を振り絞る。


 規格外の魔力をもってようやくぎょする事ができる。

魔人ならざる人の身でAランク相当の魔宮のボスを顕現けんげんさせる事はそれほどまでに至難。


 だからこそ。

困難であるがゆえに。

マールは憧れへの1歩としてそれを成し遂げる。


「サモンアーツ『空を灼く灰塵の剣カルディア・エクスハティオ』!」


 彼女の叫びに呼応して白炎をまとう巨竜が姿を現した。

白銀のように燃えるき出しの心臓から激しく炎を逆巻さかまかせ、その輝きが辺りを覆う影を焼き払って。

黄金に燃える瞳が鋭く細まる。

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