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 サイラスとシオンが同時に動いた。

音速の剣擊と連なる斬擊が、深紅の大鎌が描く渦とぶつかり合う。


 重なりあう衝撃音と共に散る真っ赤な花びら。

そして旋風に舞う赤に紛れてドサリと鈍い音を立てて落下するのは。


 幾重にも斬り刻まれた褐色の腕と、折られた剣が地面に転がった。


 数百回ほど斬り結んだところでアイカの大鎌がサイラスの腕を刈り取っていた。


 鎌の勢いを殺すことなく、両手の先でくるくると鎌を回して。

アイカは片腕を失って血を流すサイラスを前にくすくすと笑う。


 素材が十全なら、こうはならなかったか?

体力が全快の時なら。

バッファーやサポーターがいたなら。

ソードアーツや剣技を自分が使っていたのなら。

サイラスはそんな事を考えて、だがすぐに否定する。

魔王に見つかり、真っ向勝負になった時点で自分に勝ち目はなかったと結論づける。


 剣術などの技量面ではサイラスが勝っていた。

だが圧倒的過ぎる速度が単純なパワーや技量を置き去りにする。


「あー、これはまずいなー」


 平坦な声音こわねで。

さしてまずそうでもなく。

だが、訪れる死を覚悟してサイラスが呟いた。


「サイラスさん!」


 サイラスがひとしきり思考を終え、アイカは敗北を悟ったサイラスの顔を存分に眺めた後で。

1人常人の時の流れに身を置くレベッカが事態に気付いて叫んだ。


 シオンは変わらず連鎖斬擊(カスケード系)による連擊を放つが、アイカはバトンを操るように回転する鎌を背後や側面へと移動して軽々と攻撃を弾く。


「シノカはその連続する斬擊に抑え込まれたと聞いてましたけど、あまり大した事もないのですね」


「誰それ」


 シオンは不機嫌そうに唸って。

乱暴に砥剣とけんを滑らせて刃を研磨。

再び剣を振るう。


「私の可愛い妹ちゃんですよ。私達に血の繋がりはありませんけど」


 アイカは爪先を軸に旋回。

薔薇(ばら)の大鎌の勢いに乗って加速した。

シオンの放つ膨大な斬擊の1つ1つを叩き伏せて肉薄し、その首筋へと刃を走らせる。


「さようなら」


 別れの言葉と共に。

振り抜かれた刃が鋭い風切り。

深紅の軌跡が大きな弧を描いて、その首を。


「────めんどくさい」


 だがアイカの背後からはシオンの声。


「帰ってもいい? シオンは疲れた。うんざり」


 アイカが手応えのなかった得物から、素早く背後に振り向いた。

そこには無傷のシオンの姿。

シオンは完全にやる気を失っていて、だらだらと歩いてこの場を去ろうとしている。


 アイカは空を切った大鎌を再び横目見た。


「…………」


 ゆるりと鎌を持ち上げ、再び攻撃の構え。

大きく鎌を振りかぶり、目にも止まらぬ刃の旋風となって自身の赤い花園をはしる。


 ぶん、と一振り。


 ひらり、かわして。

なびいた青い髪の隙間から、気だるげな眼差しをアイカに返すシオン。 


 ひらり。

ふわり。


 幾度鎌を振るおうとアイカの攻撃が、当たらない。

赤と青は交わらない。


「やめろ」


 苛立たしげに。


「疲れる」


 ため息混じりの。


「めんどくさい」


 独り言を。


 アイカの猛攻をかわしながらシオンが呟いた。


「ならおとなしく、死になさい!」


「それは嫌だ……!」


 連なる斬擊を幾重にも(まと)わせた短剣がアイカの鎌を弾いた。

そこには明確な意志。

全てに無気力に見えたシオンの見せた、拒否ではなく絶対の拒絶。


 アイカは弾かれた勢いのままに旋回。

その猛攻の手を緩めない。


「先読み……なんて器用な事をするタイプじゃない。純粋に速度で(まさ)ってるのか。あの魔王を」


 単騎で赤蕀の魔王の相手をするシオンを見て、サイラスが言った。


 だがまだ死の運命は(くつがえ)らない。

このまま行けばいずれはアイカの勝利となる。


 シオンは時折反撃を織り混ぜるが、彼の研磨ではその刃の能力は引き出せない。

さらに双剣使いが砥剣とけんを握るために片手を縛っている。

2つが足枷(あしかせ)となってシオンは真価を発揮できないでいた。


 レベッカは2人の戦闘の影すら捉える事も難しいが、それでもまだシオンが敗れていないことは分かって。

今度こそ魔結晶アニマを手に取る。


 サイラスはレベッカの動きに気付いた。


「…………」


 だが止めない。

止める理由もない。

何もしなければ死を待つだけなのだから。


 サイラスはレベッカがいかなる能力の魔人堕ちとなるのか想像して。

しかしすぐにやめる。


 サイラスから見てレベッカはあまりに凡庸ぼんようだった。

彼女の取り出した魔結晶アニマもその大きさと形状からDクラス相当と判断。

とてもこの戦況を覆すような魔人になれるとは思えなかった。


「ウチならできるっス!」


 サイラスの心境をよそに。

レベッカは自分を鼓舞(こぶ)

いでその魔結晶アニマを、(もち)いる。


 カン、と甲高い音を響かせた時。

すかさずサイラスはレベッカのもとへと走っていた。

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