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11-14

────その時。

一点集中させた攻撃によって、魔宮の壁が穿うがたれた。

そこから合流したエミリア達が飛び出す。


 大穴から躍り出たエミリア達は、ディアスと生身で対峙しているミアツキを捉えて。

すかさずディアスの援護へと動いた。


 腰を深く落とし、ハルバードを振りかぶるエミリア。

赤の輝きを斧刃ふじんまとわせ、その威力を高めて。


「スペルアーツ『爆発魔象(イクスプロード)』!」


 鏡面の床を全力で蹴り、同時に足裏で爆発を起こして加速する。


「『その刃、(ソード・)暴虐なる嵐となりて(テンペスト)』」


「『その刃、(ソード・)暴虐なる嵐となりて(テンペスト)』」


 ディルクとリーシュの操る剣がうなりを上げた。

4つの荒々しい剣閃けんせんと、豪雨のような無数の刃のうねりがミアツキへと放たれる。


 アーシュは結晶の剣を床に突き立て、刃にたたえた光を解き放った。

剣身に走る幾何学模様を明滅する光が走り抜け、床を這ってミアツキへと迫る。


 クレトはスライムの姿でエミリアの背からその身体を変質させた。

ミアツキの足元に硬質化した自身の一部を打ち込むと、身体を収縮。

エミリアの体をミアツキのもとへと引き寄せて加速させる。


「ソードアーツ────」


 ディアスの追撃も目前に迫る。


 ミアツキをほふろうという敵意と殺意にさらされて。

鏡の魔宮の主は、まばたき1つを経てその面持ちを変えた。

冷たく無機質なその表情かおは、ディアス達の敵意を映しとる。


 歯牙を剥いて眼光鋭く。

同時にミアツキの携えた鏡の槍の力が発動した。


 傍目はためには気付かないその変化。

その力を唯一捉えていたアムドゥスは警告を発しようと。

だが、間に合わない。


【SSSクラス 魔槍『鏡乖連結(キョウカイツナギ)』】


 その力をもって、ミアツキはその鏡の切っ先を繰り出した。

同時に大きなランスの鏡面1つ1つに映るミアツキの姿。

いでその一振りは、ディアス達の攻撃のことごとくを弾き返す。


 反射などのカウンターではない。

純然たる強大な力による一撃。


 ディアスはソードアーツを弾かれて体勢を崩すが、すかさず身をひるがえした。

直撃こそ避けられたが、いで攻撃の余波に吹き飛ばされる。


 乱れ狂う剣の嵐を打ち払い。

魔宮の床を半ば吹き飛ばして結晶化の光を退け。

ソードアーツすら膂力りょりょくで打ち払って。

その鏡面の切っ先は、ミアツキへと躍りかかった少女を穿った。


 容易く貫かれたエミリアの左肩。

次の瞬間には、その威力に音もなく彼女の左半身が消し飛ぶ。


 ハルバードを握った腕は手首だけを残し、左脚も胴体との繋がりを断たれて。

円形状の大きな傷が現れると一拍の間。

いで手首と左足がドサドサと転がり、エミリアもその場にうつ伏せに倒れる。


「ますは1人」


 ミアツキは呟くと、再び鏡の槍を構えた。


「エミリア……っ!」


 アーシュが叫んだ。


「おかしい、【青鏡の魔王】は本人の戦闘能力は他の魔王と比較するとそれほど高くないはずだ」


 ディルクは狼狽ろうばいしながら広間の彼方に飛ばされた剣を手繰たぐり寄せた。


 こちらの攻撃全てを容易く弾き返し、さらにパーティー内で最も頑強な肉体を持つ魔人のエミリアが身体の隅に攻撃を受けただけで致命傷。

人間である4人ならかすめただけで間違いなく死に至る。


 ディアスもミアツキの動きを警戒しながら何が起こったのかを観察した。

爆発的なステータスの上昇の条件や制限を考える。


 アーシュは青ざめた顔で床に伏したエミリアを見つめていた。

大きくえぐれた傷は左胸をまるまる飲み込んでいて。

そこにあったであろう魔結晶アニマは欠片も見当たらない。


「そいつの槍の力だぁ!」


 アムドゥスが言った。


「ステータスの累積! 鏡の槍に映るミアツキの数だけステータスを加算してやがる!」


 鏡面に映る非現実世界を現実に。

あるいは鏡面で隔てられた他世界に干渉して。

原理はどうあれ、その槍は鏡に映る自身からステータスを乖離かいりさせ、統合する力を持つ。


 その上限は鏡に映る数だけ。

直接槍に映す姿だけでなく、周囲の鏡の鏡像を槍に映しても効力を発揮していた。

鏡像が不確かになるほどその効力は落ちるため鏡像1つに対する能力の加算の下限は限りなく0に近く。

無限に等しいようで実質の限りはあって。

だが、それでも鏡で満たされたこの魔宮と槍の力がもたらす能力の底上げはその力の桁を1つ、押し上げる。


「自己強化型、それも魔王クラスの」


 リーシェは布の隙間から覗く双眸そうぼうを細め、対応を考える。


 鏡の系統の魔宮を持つ魔人とその魔物の能力は基本的にその性質からコピーか、反射によるカウンター型のものになる事が多い。

そして能力系に特化した構成の魔人が自己強化の能力を加えても気休めにしか本来はならないはずなのに。


 完全な 別格。

魔人の頂点とうたわれる6人の【魔王】。

その称号を与えられた者の1人としての力の差を、ミアツキはまざまざと見せつける。


 「『その刃、(ソード・)暴虐なる嵐となりて(テンペスト)』……!」


 ディアスは8つの剣を逆巻かせて駆け出した。

ミアツキは構えたまま、赤く燃える瞳を横に流してディアスを目で追う。


 少しでも能力の加算を減らすために再生していた鏡を再度砕きながら駆け抜けるディアス。

だが砕かれた鏡は、欠片が床に散らばるよりも早く再生を繰り返していた。

砕かれたそばから復元し、鏡の魔槍の効力には影響がない。


「スペルアーツ────」


 黒くかたどられた指先をミアツキへと向けて。


 ミアツキはその声にディアスから視線を切った。

目を向けた先。

そこには半身をアムドゥスで補ったエミリアの姿。

その身体は欠損こそしていて。

だが灰へと変わっている様子はない。


 表情かおに張り付けた激情とは裏腹に。

感情はなく。

だがなぜ? とミアツキは静かに疑問を浮かべる。


 半身がき消えても。

エミリアの魔結晶アニマは無事だったのだ。

なぜなら今その少女の胸の中に、魔人の心臓部たる魔結晶アニマはなかったのだから。

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