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1-13

 ミアツキにディアスは鋭い剣閃をもって応えた。

放たれたソードアーツの黒の一閃を、再びミアツキが盾で弾く。


 1度は砕かれた鏡が再び再生しつつあって。

ようやく本体を捉えたミアツキを再び見失わないよう、ディアスは続け様に剣を振るった。

緩やかに宙を舞って復元されていく鏡の破片が、連なる斬擊を反射してきらめく。


「つまんないね。お喋りは嫌いなタイプかな」


 後ろにとんとん、と跳んで距離を取ろうとするミアツキ。


「お前もだろ」


 嵐のような斬擊をまといながら、彼女に追いすがるディアスが言った。


「現れた最初こそいくらか話しはしてたが、すぐにそれもやめた。なのにお前は姿を消さなかった」


「あー、それで気付いたんだ」


 ミアツキは小さくため息を漏らすと、浮かべていた作り笑いを消した。

その表情かおから感情が消えて。

ディアスを映す無機質な赤の瞳は、まるで血に染まった鏡のようで。

淡々と跳んで距離を取ろうとする。


 そもそもディアス達が魔宮の中心部に到達しても、その姿を現す理由がミアツキにはないはずで。

なのに姿を見せ、言葉を交わし、口を閉ざしてからもディアスの前に姿を現し続けた。

自己主張や顕示けんじ欲の強い魔人の可能性も最初は疑ったディアスだが、その後の様子からその可能性を消した。


 ミアツキが姿を見せなければならなかった理由。

それは彼女の宿る鏡の本体が中心部にあり、それを隠すためだという予想を前提に。

ディアスは自分を取り巻く鏡の1つに本体を織り混ぜていると考えて。

その本体を捉えるために、絶え間なく攻撃を繰り返した。


 鏡の魔物が対象の見せた攻撃をコピーするのと同時に、1度見せた動きしかできない事もすぐに見破ったディアス。

攻撃を繰り返す間、ソードアーツの使用はもちろん、他の武器の使用も控えて敵に攻撃の選択肢を与えないよう最新の注意を払い続けていた。


「そんなに慌てなくてもいいよ?」


 ミアツキはその顔にまた嘘の笑顔を浮かべた。


 だがディアスは急がなければならない。

すでにソードアーツを魔物にさらした。

次に鏡像の魔物が振るう攻撃は、間違いなくソードアーツの模倣もほうになるはずだからだ。


看破かんぱしたのも君が初めて。だからちゃんと私自身が相手をしてあげる」


 そう言ってるそばから、ミアツキは復元が完了した鏡の1つにその身を滑り込ませようと。

さらに周囲の鏡には、すでにディアスの見せたソードアーツを模倣もほうして構える鏡像の姿。

鏡の魔物は鏡面から身を乗り出し、冒険者の切り札であるソードアーツでディアスを仕留めようと迫る。


 その視線をせわしなく切りながらも、都度つどミアツキの姿を捉え直して。

ディアスは彼女を見失わないよう努めながら、さらに周囲の鏡、魔物の位置と構えられたソードアーツの種類を把握。

その軌道を脳内で思い描き、ディアスは剣の魔力を解き放つ。


 四方から牙をくソードアーツ。

その隙間をすり抜け。

その刃、(ソード・)暴虐の嵐となりて(テンペスト)』でいなして。

振りかぶった剣に光が満ちると、ディアスはその刃を振り抜いた。


「『錫色の炎陽(サンライト)、空を穿ちて(・リージョン)』……!」


 剣の軌跡が描く、人の身の丈に迫る程度の小さな日輪。

だがそこから放たれる灼熱の光線はミアツキの身体を灰にそうと強くまたたく。


 ミアツキはディアスが剣を振るうのと同時に床を蹴った。

すぐそばにある別な鏡に進路を変えて。

その目前を走り去るディアスの一撃。


 だがその光が横切った瞬間に。

彼女はその体を灼熱の閃光に飲まれる。


 光の一部はミアツキの鏡の軽鎧けいがいが反射したが、露出していた身体の一部は容赦なくその陽光の刃にさらされて。

その一撃はミアツキに大きなダメージは与えられなかったが、わずかばかりの隙を生んだ。


 幾度となく鏡に反射したソードアーツの残像がその目に残りながら。

ディアスは鏡の陰を走り抜けてミアツキに肉薄する。


 把握した鏡の位置。

そこから思い描いた通りの軌道で反射を繰り返してミアツキを焼いたソードアーツ。

ミアツキがディアスの攻撃を前にして、最も近い別な鏡に逃げようとするのも全てディアスは読んでいた。


 彼女の鏡の軽鎧けいがいが反射するであろう、軌道の予測ができない光に備えて。

ディアスはタイミングを合わせ、走り抜けると共に鏡を盾にもしている。


 狂信的な努力で培った、瞬時の状況把握能力と先読みの力がディアスの力を裏打ちしていた。


「…………」


 無言。

そして、無表情。


 ミアツキは顔を怒りに歪ませるでもなく、驚嘆に目を見開くでもなく、笑みを浮かべるわけでもない。

その表情かおからは感情の一欠片も読み取れない。

ただ粛々(しゅくしゅく)とディアスの対応に移る。


 たなびく黒煙の中から覗く鏡のような赤の瞳。

ミアツキは迫るディアスを見据え、その手を前へと突き出した。

いで彼女のまとう鎧が分解して。

それは鏡面で構成された大振りのランスへと姿を変える。

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