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2-18

 その時、やぶを掻き分けて。 


「なんだこれは、どうなってやがる」


 ディアス、エミリアと共にアーシュの捜索に出ていた守衛が現れた。


 守衛は人面の魔物の姿に目を奪われるが、すぐに怪我を負ったアーシュや少年、泣きじゃくる少女に気付いた。

最年少の少年やリーダー格の少年にも視線を向ける。

守衛はそこでいつものメンバーから1人欠けているのに気付いた。

そしてエミリアの赤い瞳とその肩に止まる魔物の姿を見るとその顔に困惑の色が浮かんで。


 だが守衛はすぐさま両足を切断された少年に駆け寄った。

剣を一度鞘に納めると、守衛が懐から取り出したのはポーションの入った小瓶こびん

守衛はガラスびんせんを抜くと、ポーションを少年に振り撒く。

ポーションは空中で緑色の光に変わると、その光が少年を包んだ。

みるみる少年の傷口がふさがり、苦痛に満ちた顔が穏やかになる。


「よし、これでひとまずは安心だ」


 守衛が言った。


 だが傷はふさがっても、その足が元通りに戻ったわけではない。

少年の足は膝から下を失ったままだった。

少女は嗚咽を漏らしたまま、その足を悲しげに見つめる。


 人面の魔物は守衛の動きを目で追っていた。


 守衛はその視線に警戒しつつも、すぐさまアーシュにも駆け寄って。


「悪いな、アーシュ。ポーションは1つしかない」


 守衛は自分の上着の袖を千切ると帯状に裂いた。

即席の包帯でアーシュの傷口を縛る。

いで懐から丸薬を取り出して。


「狂戦士なんかが使う薬の作用を抑えたものだ。しばらくは痛みを感じにくくなる」


 アーシュは守衛から受け取った丸薬を飲み込んだ。


「アーシュ、すまないがこれで耐えてくれ」


「うん。おれは大丈夫だよ。でも、でも…………」


 アーシュの目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。


 守衛がアーシュの視線を辿たどると、砕けた結晶とその中に人間の腕を見つけた。

ほとんどがその原形をとどめていないが、守衛はそれらが見当たらなかった坊主頭の少年のものだと気付く。


「くそったれ、あの魔物の仕業か?」


 守衛は人面の魔物をにらんだ。

腰の剣を再び抜く。


「ケケ、やめときな。太刀打ちできる相手じゃないぜぇ?」


 アムドゥスが守衛に言った。


「ガキ共の連携とうちの嬢ちゃんの魔宮の力を合わせても倒せなかった。すでにガキ共は戦力外、エミリアも疲弊してる。全滅を避けたきゃ誰をおとりにするか決めなきゃなぁ」


「守衛さんはみんなを連れて逃げて。あたしが足止めする」


 エミリアがハルバードを構えながら言う。


「……できるのか?」


「あたしが永久魔宮化すればきっと」


「却下だ」


 守衛はすぐさま否定した。


「これ以上の永久魔宮の発現は看過できない村への大きな脅威だ。村の守護を担う者として容認はできない。それに永久魔宮化は魔人にとって最大の苦痛を伴うと聞いている」


 そこで守衛のエミリアを見る目が優しくなって。


「お嬢ちゃんは魔人だが、あのにいちゃんと一緒にアーシュを助けてくれたし、さっきも本気でアーシュを心配して一緒に捜しに出てくれた。そんな嬢ちゃんに苦痛をいるなんて俺にはできん」


「ケケケケ! 永久魔宮の1つや2つ気にしてる場合じゃねぇけどなぁ」


 エミリアは守衛に振り返って。


「アムドゥスが赤蕀の魔王の魔宮がこっちに向かって展開域を大きく拡げてるのを見たの。ここももうじき飲まれる」


エミリアの言葉に守衛は驚きを隠せない。

 

「何かの間違いでなく? ギルドの観測ではこの辺にまで展開域を拡げるのはあと50年はかかるはずだが」


「ケケ、あの魔物が原因かもなぁ。俺様には様々な魔宮や魔物、それに類する情報にアクセスできるがあの魔物は詳細不明。今まで現れたことのない魔物だ」


「つまり、あの魔物を倒せば赤蕀の魔王の魔宮の劇的な進行も収まるかも知れないと?」


「そこまでは言ってねぇが、なんせイレギュラーな魔物にイレギュラーな魔宮の進行だ。無関係とは思えねぇ」


 守衛は周囲に再び視線を走らせて。


「あのにいちゃんは今どこに? 合流できればあの魔物を倒せるんじゃねぇか」


「ディアスは赤蕀の魔王の魔宮の進行を遅らせてる。連絡手段もないし、こっちに来てもらうのは難しいと思う」


 エミリアが答えると、守衛は最年少の少年に視線を向けた。

怯えて震えてる最年少の少年。

彼は青ざめた顔で人面の魔物を凝視している。


「チビスケ、魔力は残ってるか?」


「…………」


 最年少の少年は人面の魔物を見つめたまま動かない。


「光弾を打ち上げたい。魔力はまだ残ってないか?」


 守衛が再度言う。


 最年少の少年はゆっくり守衛の方を見ると、小さくこくこくとうなずいた。


「よし。まず赤の光弾を打ち上げて、次に赤、緑と続けて光弾を打ち上げてくれ」


「赤。そのあと赤、緑ですね……?」


 最年少の少年は震える声で確認すると、指先を空に向けた。


「スペルアーツ『光弾魔象(バレット)』」


 指先が強く発光すると、そこから赤い閃光が放たれた。

森の木々を貫通し、甲高い音を上げながら空の上へ消えていく。


 そして次に赤い閃光と緑の閃光が続け様に放たれた。


「これでいい。赤は警戒の信号。村にいる他の守衛への連絡だ。そして赤、緑と続く信号は冒険者が大規模討伐なんかをするときに使う救援要請」


 上を見上げなら守衛が言った。

人面の魔物に視線を落とすと、剣を両手で握りしめる。


「俺が時間を稼ぐ」


 守衛は人面の魔物に向かって歩き出した。


「あたしも手伝う」


 エミリアがその隣に並ぶ。


「剣を貸せ、俺もやる」


 リーダー格の少年は最年少の少年から剣を半ば奪うように取ると、2人の後に続いた。



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