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11-7

 いよいよ広大な鏡の魔宮が迫ってくると、ディアスは剣を次々と抜いた。

10の剣が彼の周囲に浮遊する。


 ディアスを見て、アーシュは背中に差した剣を手に取った。

青白い結晶で形作られた細身の長剣。

結晶化の能力でアーシュが生み出した刃の中で、蓄えられた光が際限なく反射を繰り返して輝いている。

それはディアスへと返却した10の剣の代わり。

不完全なソードアーツの連続発動に代わるアーシュの新たな刃。

アーシュは剣を形成し、光を蓄え続けてきて。

光の貯蔵を優先して実践こそしていないが、過去の戦闘で見てきた光の扱いを模倣もほうできれば強力な力になるはずだと。

アーシュは自身の可能性を信じて強く剣の柄を握る。


「…………」


 エミリアは無言のまま、アーシュの後ろから鏡の魔宮を見つめていた。

魔宮に降り立てば彼女が前に出る。

魔人の頂点に立つ強大な魔王の使役する魔物を相手に、前衛である彼女はどんな状況にあっても前に出なければならない。



「けけ、頑張らないと」


 自分に言い聞かせるエミリア。

だが恐怖はぬぐえない。

戦いが怖い。

死が怖い。

でも何よりも自分が守れなくてアーシュやアムドゥス、そしてディアスをうしなうのが────


 ディアスを、うしなうのが。

ふとエミリアの思考がれた。

同じディアス。

そのディアスの過去の姿。

でも彼は彼女の知らない、ディアスだ。

その背中を見るが、やはりエミリアの中のディアスの影がちらついては乖離かいりする。


 ただ永久魔宮化からの復活の失敗ならそのわだかまりはクレトへ向けることもできた。

だが聞けば勇者としての復活は自分の知るディアスと勇者のディアスの合意の上での結果だと言う。

より強い方の自分を復活させる。

結果がより良くなるのなら自分の事はかえりみない。

それはディアスらしい選択だと思えて。

だがやはり納得は、できない。


 エミリアは自分の知るディアスと今目の前にいるディアスはやはり違うと感じていた。

魔人に堕ちたからか。

培った勇者の力を失ったからか。

それとも7年の中でこのディアスを変える何かがあったのか。

変える誰かが、いつもそばにいたのか。


「けけけ」


 エミリアは口癖になった口真似をすると、その手にハルバードを召喚した。


 欠損した片腕の再生は未だできていない。

1度大きく進行した永久魔宮化の影響か、はたまた『シャルロッテ』のせいかは分からないが、魔力の補充をしてもその姿はいびつなままだった。

眼孔がんこうを内から貫く牡牛の角がエミリアの視界の一部を遮っている。


 そしてついにラーヴァガルドの孤児院は目的の場所へと到達した。

そこは【青鏡の魔王】の魔宮の中心部のはるか直上。

現状のパーティーで正攻法の攻略は無理と判断したディアス達は過程を大きく省略する奥の手に出る。


「アムドゥス! クレト!」


 アーシュが呼び掛けた。

同時に昇降機のへりから勢いよく飛び降りようとする。

だがその足が止まった。

曲げた膝が伸びきる前に静止。


「…………」


 そのまま飛び降りるのが怖くなったアーシュは自身の剣を操作してその上に乗ろうと。


「アーくん」


 だが不気味なほどに楽しげに弾んだ声を聞いて。

アーシュは既視きし感を覚えると身を固くする。


 エミリアはアーシュの腕に自分の腕を絡めた。


「ちょ、エミリア待────」


「けけけけ」


意地悪く笑いながら、エミリアはアーシュ道連れに背中から落下する。


「──────っ!!」


 いつかの時のように声にならない叫びをあげるアーシュ。

その顔を見つめるエミリア。


 決戦前の。

 ほんの一瞬の。

最後のささやかな、一時。


 弟のように思っていた。

ダメダメだった。

頼りなかった。

泣き虫だった。

でも今は大きな心の支えの1人となっているお兄ちゃんのアーシュに、エミリアはついつい甘えてしまう。


 故郷ではしっかりもののお姉ちゃんとして振る舞ってきた。

忙しい大人達に代わって弟や村の子供達の世話を引き受けて。

でも本当は悪戯いたずらが大好きで、まだ甘えたい盛りの女の子。

絡めた腕を抱き寄せ、アーシュにぎゅっと体を押し当てる。


 人のぬくもりと微かにその鼓動を感じて。

エミリアは心が温かくなるのを感じた。

必ず守る。

あたしが守るんだ、と今一度自分をふるい立たせる。 


『エミリアは誰も守れない。私を守れなかったみたいに』


 シャルロッテの声がエミリアの頭に響いた。

だがエミリアはその声を振り払う。

何度声が響いても、エミリアはその声に負けたりしない。


「ケケケケケ!」


 落下するエミリアとアーシュを追い、孤児院の防壁の陰からアムドゥスが飛び出した。

アムドゥスは2人の下に滑り込むと形を変えて。

魔力消費を最小にするために大型の怪鳥の姿にはならず、たこのようになって2人の足場に。

そのまま落下の勢いを殺しながらも魔宮へと降下していく。


 その少し後ろを、形を変えたクレトに乗ってディアスとディルク、リーシェが追随ついずいした。


「ケケ。今だぜ、嬢ちゃん!」


 アムドゥスの合図と共に、エミリアはアムドゥスを蹴って魔宮へと跳躍。


「顕現して、あたしの『或りし■の咆哮(シャルフリヒター)』!」


 着地と同時に魔宮を展開して。

最小の展開域を持つエミリアの魔宮が、魔王の魔宮すら上書きする。


 いで展開とほぼ同時にエミリアは魔宮を消した。

エミリアが穿った穴からディアス達は魔宮へと突入する。

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