11-5
レオンハルト達は魔物を退けた。
パーティーの状態を確認すると魔宮の攻略を続ける。
道中にある影のギミックに頭を悩ませ、音もなく忍び寄る影の魔物の攻勢に徐々に神経をすり減らして。
だが全員が高難易度の魔宮攻略を幾度となく経験している猛者。
その動きには微塵も消耗を見せない。
「このペースなら明日中には過去の攻略でマッピングされた区画に到達できるかも知れません。あくまで魔宮の展開域の拡がりから計算したものなので確証はありませんが」
カイルが言った。
「1度ここで休憩をとるか。見張りは俺とエドガーがやる」
今いる小さな円形のフロアを確認するとフリードが言った。
フロアの2つの通路を確認できる位置に腰をおろす。
「索敵ならそっちの『神秘を紐解く眼』持ちのがいいんじゃないかの?」
ドクターはカイルの方を見ると疑問を口にして。
同時にレオンハルトの酷使された魔物の部位の状態を手早く確かめていく。
「フリードは鼻が利く。下手な索敵より信用ができるぜ。それに古株の爺さんは今の攻略を知らねぇかも知れねぇが、マップデータの取得やら魔物の把握やらは頭を使う。高難度の攻略ではこういう情報収集できるやつが要だ。このパーティーの中だとフリードの次に優先すべきなのがそいつなんだよ」
エドガーはそう言って肩をすくめた。
「珍しいですね。エドガーさんが僕を評価してくれるなんて」
「はっ。フリードの抜剣にはお前の力が要るしな。ま、逆に言っちまえば最新部まで到達すりゃお前は不要だが」
「エドガー、ダメですよー? そんな言い方をぉしちゃー」
マールは携行食を用意しながらエドガーをたしなめる。
「はっ。パーティーにはそれぞれの役割がある。戦闘能力が皆無のそいつはあくまで道中を円滑に進むための道具だ。実際戦闘面で言えばCかD相当でこの難易度だと盾にもならねぇしな」
「そう言うなよ、エドガー。カイルも俺の頼もしい仲間の一人だ」
フリードは通路から目を離さずに。
「本気か?」
「もちろん本気だ」
次いでエドガーに振り返って言った。
猛禽類のような鋭い眼差しのまま、左右の広角を上げてニカッと笑う。
「……で黒の勇者様の方は大丈夫なのか?」
エドガーはレオンハルトとドクターに視線を移した。
「ヒッヒッヒッ、腕の接合部が少し剥がれてきておる。神経も何本かダメ。移植した眼球も溶けてきとるなぁ」
「ヤバイんじゃねぇのかそれ」
「心配はいらん。そのためのわしじゃよ」
ドクターは道具を広げると、メスを手に取った。
素早くレオンハルトの肩に刃を走らせて。
開かれる骸の腕とレオンハルトの肩の継ぎ目。
素早く薬を塗布して出血を抑え、傷んだ骨の継ぎ目と筋繊維を整えていく。
「…………」
レオンハルトは無言でドクターの処置を受けていた。
その顔色は悪く、濁った瞳からはどろどろとした血が滴っている。
ドクターは最後に断裂した神経を繋ぐと、腕と肩を縫合した。
同じ処置を背中から伸びる骸の腕にも施し、バジリスクの瞳には眼球に直接の注射。
針先から溶けかかった眼球に青い液体が広がり、少し歪ながらも溶けかかったバジリスクの目が固まる。
「眼はあとどれくらい保つ?」
レオンハルトはドクターに訊ねた。
自分の左手を霞んだ視界で眺める。
「このペースだとあと2日も保たんじゃろうな」
「ずいぶんと短いな」
「出先じゃと薬剤の劣化が早いからの。わしの病院で看られるなら10日はいけたが」
ドクターは一通りの処置を終え、広げた道具を手早く片付けていく。
「それなら僕が力になれると思いますよ」
カイルが言った。
「……そういやお前さん、錬金術士じゃったな」
「ええ」
「ふふふ。カイルさん、凄腕なんですよぉ」
マールは嬉しそうに笑いながら、用意した食事を配って回る。
「索敵やマップの把握、事務処理なんかは僕と同等かそれ以上の人材は他にもいますしね。僕がフリードさんのパーティーにいられるのはこの錬金術のお陰です」
「俺の魔剣はデメリットが大きいからな。カイルが仲間になってなかったら乗り越えられなかった場面もたくさんあった」
「ヒッヒッヒッ、エレちゃんから聞いておる。桁違いの攻撃力の代償……特にお前さんなら本来は即死じゃろうて」
ドクターはフリードと彼の禍々しい魔剣、そして彼の身に纏う炎のように赤い鎧を見る。
「もうすぐ着くって」
後ろで結わえた艶やかな黒髪を揺らして。
アーシュはエミリアと共に、1人佇むディアスのもとへ。
地下を脱出し、ラーヴァガルドの孤児院を移動に使わせてもらっているディアス達。
アーシュはディアスの隣に立つと、空に浮かぶ孤児院と地上とを繋ぐ昇降機から身を乗り出した。
眼下を過ぎ行く景色を見下ろす。
「にしてもここ、どうやって浮いてるんだろうね」
いつも思う疑問を口にした。




