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11-3

「見た限りオブジェクト同士は同じマスには配置できないようですね。互いに干渉しない位置に浮いていても押すことができない。そしてオブジェクトの回転もできない。形はそれぞれ異なっていてる…………」


「はっ。これでどうすりゃいいんだ? ぶん殴って解決できねぇのは苦手だぜ」


 カイルがぶつぶつと呟き、エドガーは丸めた頭をボリボリといた。


「こういうのはフェリシアが得意だったな」


 レオンハルトが言った。

ダンジョンの攻略で実際にあったパズルや謎解きを集めた本を、楽しそうに解いていた幼い頃のフェリシアの姿がよぎって。

いで彼女が解いていた中に似たようなギミックが無かったか思い出す。


「こうやってぇ並べるとー、ドアみたいなんですけどねー」


 マールが言った。

その言葉を聞いて他のパーティーも並んだオブジェクトへと視線を向ける。


 確かにたまたま並んだオブジェクトはシルエットが両開きの扉のようにも見えて。

だが見えなくもない程度で、大きさや位置が不揃いだし隙間もある。

これで扉と言い張るには少し無理があると誰もが思った。

先への通路が続くはずの壁とマス目には距離があり、扉を形作って壁にはめるタイプでもなさそうだ。

オブジェクトから伸びる影だけが壁に届いている────


 カイルはそこでハッとした。

壁に向かって並ぶ、扉にも見えるオブジェクト。

その不揃いな大きさや隙間を埋めて、正しく扉を描くには。


 カイルはおもむろにオブジェクトの移動を始めた。

オブジェクト全体を扉と捉えた時に、大き過ぎるものを手前へ。

照明の位置を確認し、影と影の隙間が空かないように調整して。

少しすると他のメンバーもカイルがやろうとしている事に気付く。


 そしてついに、それは現れた。

通路が伸びるはずの壁に現れた両開きの扉。

オブジェクトの落とす影が描く陰影が、影絵のような扉を映し出す。


 フリード達は目配せすると隊列を組んだ。

レオンハルトが先頭に立ち、影の扉に手を添える。


 ギィ、ときしみを上げて。

影で描かれた扉がゆっくりと開いた。

等間隔におぼろげな照明が並ぶ通路が先へと続いている。


 通路の先から一陣の風。

風に揺れるレオンハルトの髪と黒革のコート。


────そして、その風に乗って魔物の臭い。


「来てるぞ!」


 風に混じる臭いを捉え、フリードが言った。

同時に通路の先から黒がおどって。

通路から音もなく這い寄った影が、床に大きく裂けた口を描く。


 影の魔物は鋭い牙の並ぶ口でレオンハルトの影を喰らおうと。

だがそれより早くレオンハルトの青い瞳が影を据えた。

同時に眼球から脳髄のうずいの奥へと突き刺さる激痛。

いで刹那せつなを切り取った灰色の視界を青の閃光が飲み込む。


 レオンハルトの眼孔がんこうに埋め込まれた眼から放たれた灰と青の光。

衝撃にレオンハルトの首がガクンと後ろにけ反って。

瞳からほとばしった光が、実体を持たない影の魔物すら石化させる。


 レオンハルトは度重なる使用で使い物にならなくなったバジリスクの眼をより高位のものと交換していた。

その効力は一時的な硬直にとどまらず、効果範囲を半永久的に停止させる。


 だが魔物の全貌ぜんぼうを捉えきれてはいない。

レオンハルトの魔眼の効力が届いていない通路の先から、石化を免れた部位が再び襲いかかる。


 再度レオンハルトへと迫る黒い影。


 その時、レオンハルトから伸びる影がその形を変えた。

影から視線を上げると、コートの袖を止めていたベルトが肩口の辺りのものまで弾け飛んで。

巻き付けていた包帯を引きちぎり、その右腕が異形のものへと変わる。


「はっ。これが」


「ハハッ、凄いな」


「…………っ」


 侮蔑ぶべつ

感嘆かんたん

畏怖いふ


 三者三様の反応を見せて。


「わー。びっくりー」


 遅れて驚愕きょうがくの声が漏れた。


 それはよじれた脊柱せきちゅうを束ねた巨大なむくろの腕。

振りかざされた腕はレオンハルトの全身よりも長い。

五指の先には眼孔がんこうのない頭蓋骨が伸び、その歯牙から赤黒い糸が伸びていて。

その糸の先には両腕が鎌になった、首と下肢のない魔物が繋がれている。


 レオンハルトは骸の腕を操った。

頭蓋の指先が赤黒い糸を操作し、首のない魔物がその両腕の鎌を振るう。


 禍々(まがまが)しい黒の斬擊が影の魔物を十字に斬り裂いた。

物理的なダメージではなく、生命力を吸い取る簒奪さんだつの鎌によってその体力を削る。


 すかさずレオンハルトは魔眼を行使。

石化と鎌による攻撃を次々と繰り出し、魔物の体力を削りきる。


「ふむ、想定通りの結果じゃな」


 ドクターが言った。


 レオンハルトは実体を持たない影の魔物に直接ダメージを与える手段として、物理的な干渉がなくても体力や魔力を奪えるゴーストタイプの魔物の使用を考えて。

だが実体のない魔物を直接四肢にすることは不可能。

なので操作系の能力を持ったアンデッドタイプの魔物を介して間接的に操る手法を選んでいた。


 レオンハルトが操れる程度の魔物の格では魔王の魔宮を跋扈ばっこする強力な魔物が相手では本来力不足だが、簒奪さんだつの鎌は格上に対してより強い効力を発揮。

バジリスクの魔眼とあわせることで、単体相手なら完封かんぷうすら可能だと示す。


 だが完封してなおレオンハルトの消耗は少なくない。

魔眼からボタボタと滴る濁った血潮ちしお

かすむ視界。

割れるように痛む頭。


 そしてギチギチと張り詰めた赤黒い糸。


 突如とつじょ、首のない魔物が動いた。

その両腕がレオンハルトの首をき斬ろうと。


「…………早い!!」


 レオンハルトは右腕の五指に渾身の力を込めた。

その糸を手繰たぐり、首のない魔物の身動きを封じる。


「おいおいおい、コントロールできてねぇじゃねぇか。大丈夫かよ」


 エドガーがあきれたように言った。


「想定より早いな」


 レオンハルトは苦々しく呟いた。

今も右腕の操作に抗おうとする首のない魔物をにらむ。


「ヒッヒッヒッ。奪った力が強かったようじゃな。やはり魔王の魔宮の魔物はレベルが違う。正攻法で戦うのはキツかったじゃろな」


「……1体相手しただけでこれか」


 レオンハルトとドクターの会話から、現状をフリードとカイルは理解して。


「相手から力を奪う魔物。お前の魔眼は負担がでかそうだし、ここで魔物を強化する腹積はらづもりだったか」


 フリードの言葉にレオンハルトがうなずいた。

いでその背がボコボコと波打つと、背中を破って新たに骸の腕が突き出した。

その指先から赤黒い糸が伸びて、首のない魔物に二重に巻き付く。


「早かったけどまだ想定内の力だ。問題なくぎょしきれる」


 レオンハルトが言った。


 だがその発言にエドガーは懐疑かいぎ的。

カイルも難色を示す。


「スペルアーツ『回復魔象キュアー』」


 マールは気にせずレオンハルトの目にスペルアーツをかけて。


「少しはぁ良くなりましたかー? 必要ならぁ、まだかけますねー」


 そう言ってにこりと笑った。


 フリード達は警戒しつつ、魔宮の奥を目指す。

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