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10-10

 結晶の魔物が。

だが魔物が行動を起こすより早く。


 急な放物線を描いて飛翔した2本の剣。


 いで頬が裂けるほどに開かれた魔物のあご

喉元から口腔こうくうへと膨れ上がった咆哮ほうこうが放たれようと。

しかし風切り。

続けてザン、と小気味良こきみよい音と共に。

閃いた刃がその口を閉ざした。

頭部から顎下を串刺しにし、塞がれた口からはくぐもった叫びがわずかに漏れるのみ。


 対象の動きを封じるバインドボイスを不発に終わらせて。

すでにディアスは逆巻く剣を伴い、再び魔物に肉薄。


 魔物は光を使おうとするが、ディアスは剣の魔力を解き放って。

連なるソードアーツの連擊が、光を伝達する幾何学きかがく模様を次々と断ち切った。


 魔物は言葉なく。

声も発せず。

だがその見開かれた眼が揺れ動いて。

尾を繰り出そうとすればすでに尾がない。

振り上げたひづめは振り下ろす頃にはそこにはない。

行動を封じられる。

選択肢を奪われる。

ディアスの操る剣を追って眼が不規則に揺れる。

いつしか魔物は自身の身体が次々とぎ落とされるのを見ている事しかできない。


 ついに魔物はなすすべもなくディアスにほふられた。

瓦解した結晶の肉体は輝きを失って。

石のように変色すると、バラバラと周囲に散乱する。


 白の外套がいとうが風になびき、アーシュの方へと振り返ったディアスの灰色の髪が揺れた。

【勇者】の称号を与えられた冒険者筆頭の1人としての力を存分に見せつけて。

ここに【白の勇者】の復活を示す。







 ディアスとアーシュは一夜を明かして。

街をさ迷い、はぐれたエミリアとアムドゥスにクレト、ディルクとリーシェとも合流した。

エミリア達とディルク達も別個体の結晶の魔物と遭遇。

合流してからも幾度となく戦闘を行う。


 再び夜を迎え、ディアス達は夜営地を決めると腰をおろした。

7年間の記憶を持たないディアスにそれぞれが持つ情報を与え、今後の方針を決める。


「つまり問題は今までと同じく魔王そのもの。そして魔王同士で殺しあって力を得ようとしてる【黒骨の魔王】。結晶の魔物の大軍を操る、あの世界樹ってやつを復活させたヨアヒム。そして魔人、冒険者問わず仲間を引き連れて人間全員の魔人堕としを目論もくろんでるっていう【緑の勇者】ギルベルト、か。戻ったら院長になんて報告しようか」


 ディルクは問題となる勢力を列挙すると、ため息を漏らした。


「急務なのはやはり魔王ね。ヨアヒムさんとギルベルトさんは2人とも、そのアムドゥスという魔物が計画の鍵。それさえ死守してる間は、聞けば2人の目的はそれぞれ人類の存続のようだし、無意味に人を傷つける事はしないはず。対して魔王は元々脅威だし、ようやく埋まりつつあった力の差がまた大きく開くのは避けたいわ」


 リーシェが言った。


「【黒骨の魔王】は【黄鍵の魔王】の魔結晶アニマを取り込んでどれくらい強くなったの?」


 アーシュがくと、アムドゥスはディルクとリーシェ、ディアスの様子をうかがって。


「……ケケ、ネバロはシノカの魔結晶アニマを取り込んで単純に能力のリソースが倍になった。単純に戦闘力2倍とはならねぇだろうが、純粋な戦闘特化のネバロに特殊能力特化のシノカの力が合わさると、下手すると余計厄介かも知れねぇぜぇ?」


「だがそれでもまだ【黒骨の魔王】が言うには【白龍の魔王】の方が強いんだよねぇ?」


 クレトが発言すると、冒険者組の視線が向けられた。

その眼差しは冷たい。


「イヒヒ、嫌な目だねぇ」


 得物に手が伸びている3人に、クレトは肩をすくめる。


 ディルクとリーシェ、少し距離をとったディアスの3人と、エミリア、アムドゥス、クレトの3人がアーシュを挟んで座っていた。

事あるごとにエミリア達の討伐を考える冒険者3人を、アーシュが今までに何度も止めていて。

もし戦闘になれば、冒険者筆頭である【勇者】の称号持ち2人を含む3人が相手ではエミリア達に勝ち目はない。

刺激しないよう、エミリア達はアーシュの背に隠れるようにしている。


「…………」


 ぎゅっと膝を抱えてうつむくエミリアは終始無言だった。

アーシュは振り返るとエミリアの手に自分の手を重ね、心配そうに見つめる。


 エミリアはアーシュに視線を返した。

顔は伏せたまま上目遣いで。


「けけけ」


と、アーシュに心配をかけないよう小さく笑う。


 だがその弱々しい笑みはアーシュを余計不安にさせた。

失った片腕と牡牛おうしの角が貫く左の眼孔がんこう

クレトによって治療された両足も不完全で、すねから小さな足先にかけて半透明になっていて。

アーシュがエミリアと出会った頃はあんなに笑っていたのに、今は思い詰めた顔をしている事の方が多い。

このまま消えて──いなくなってしまうのではとアーシュは恐くなる。


「リュナウはボス特化型の究極系だからなぁ。嬢ちゃんと違ってボスを維持するのに必要なボス部屋も最小限で自己強化もしてない。本人の戦闘力は皆無かいむ。ケケケ、だがリソースの全てを得た龍はネバロのソードアーツと同等以上の攻撃を、有り得ねぇレベルの超長距離射程で撃てる。いくら自身の魔力でソードアーツを連発できるネバロでも、今の能力じゃ近づく事もままならねぇだろうよ」


 クレトの問いにアムドゥスが答えた。


「【黒骨の魔王】の居所は分からない。【白竜の魔王】は現状手出しができない。なら現存する残りの【赤蕀】、【青鏡】、【緑影】の3人の魔王の討伐が俺達のやるべき事だ」


 ディアスはそう言って立ち上がった。


「俺は【黒骨の魔王】の討伐に1度失敗してるみたいだけど」


 ディアスが言うと顔をしかめるディルク。

ディアスはその表情の変化に気付かずに続ける。


「今度こそ俺は魔王を討つ」


「…………となると要請しないとな」


 ディルクが言うと、周りの視線がディルクに向けられた。

それにディルクは息をついて。


「まさか俺達だけで魔王を倒して回るつもりじゃねぇよな。【黒骨】が他の魔王から魔結晶アニマを奪う前に討伐しなきゃならない。なら同時進行で攻略すべきだろ」


「ディルクにいちゃんが言ってる事は分かるけど、要請って誰を呼ぶの?」


 アーシュが訊くと、ディルクは片方の口角をつり上げる。


「魔人の筆頭──【魔王】。その討伐はやっぱり冒険者筆頭の【勇者】の役目だろ。院長を通してフリード、シオン、サイラス、レオンハルトに魔王討伐の要請をする。今度こそ冒険者おれたちが────魔王に勝つんだ」

 閲覧ありがとうございます。


 次の章からついに魔王の魔宮攻略へ向けて物語が動きます。

一撃必殺。

最速の連擊。

変幻自在の刃。

今も眠りにつく破壊の力。

それぞれの勇者の真の力が今後明らかになります!


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