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■-18

「何言ってるんだ?」


 ディルクはディアスの言葉に首をかしげた。

辺りを見回すが、丸石が不規則に覗く岩肌と通路を横断する赤褐色の層があるばかり。

ディルクから見て特段変化は見られない。


 だがディアスにはその違いが分かっていて。


「その赤い岩を境にこっちとあっち側で違う魔宮になってる。同じ洞窟タイプだけど壁面に覗いてる石の形成が違うんだ。それに道中の魔物が観測された難易度に対して弱すぎる。もしも2つの魔宮の難度を平均して観測してるなら、この先の魔物はおそらく観測されたD相当じゃなくC相当以上になる」


「確かにDランクにしては弱いなとは思ってたけども」


「でもそれって魔人が2人いるって事よね」


「魔人同士が手を組むなんて聞いたことないよ」


「そもそも魔宮同士が接したら侵食域で魔宮が喰い合うだろ」


 孤児院組の少年少女達が言った。


「だから接してないんだ。その境目を埋めて隠してたんだよ」


 ディアスは剣を握り直しながら、赤褐色の層を睨んだ。

そしてディアスの視線の先で。

魔宮と魔宮の狭間はざまを埋めていたそれが体を起こす。


「────その、ゴーレムで」


 ディアスが言うのと同時に、複数のゴーレムがディアス達へと躍りかかった。

迫り来る巨躯をディアスがいなし、稼いだ時間でディルクとリーシェを筆頭に遠隔斬擊(ストーム系)の剣技がゴーレム達を迎撃する。


 だが敵は堅牢な岩の身体を誇るゴーレム。

 岩の身体に弾かれた剣が口惜しそうに甲高い音を響かせて。

それでもなお宙を舞う刃はその勢いが衰えない。


 『剣を回す』と形容される遠隔斬擊(ストーム系)使い特有の連携。

それは複数人が複数の剣を同時に装備し、操作権を重複させることで可能になって。

そして操作権を持った剣を順に、あるいは同時に操る事でその威力を高める技術。

他の剣技と違い、遠隔斬擊(ストーム系)は個ではなくぐんによって真価を発揮する。


 幾度となく操作を重ね合い、閃いた刃。

その高められた一撃がゴーレムの胴をついに穿った。

上位剣技『その刃、(ソード・)暴虐の嵐となりて(テンペスト)』に比肩ひけんする斬擊の嵐が、瞬く間にゴーレムを瓦解がかいさせる。


 高速で舞っていた刃が緩やかに静止して。

訪れる静けさ。

だが剣を回し合った孤児院組の消耗は大きかった。


「……何回重ねた?」


「15はやったと思う」


「やっぱり、しんどいわね」


「きっつ」


 重ねるほどに力と速度を増す複数の剣を同時に操作するというのは至難の技。

そして今相対(あいたい)したゴーレムは限界ギリギリまで『剣を回す』ことをいるほどに強敵だった。


「これが本命の難易度か。1度引き返した方が良さそうだな」


 残骸となったゴーレムを見下ろしてディルクが言った。


「そうね。私やディルクなら回せるけど、みんなにこれを何度もさせるのは難しいと思う」


 疲労の色が見える仲間を見て、リーシェがディルクにうなずく。


 ディアス達は1度撤退した。

入口へと戻ると、酷い怪我を負った冒険者の姿がまばらにあって。

他の多くの冒険者達も、複合魔宮という以上な生成にまでは気付いてなくとも、観測結果と実情に大きな齟齬そごがある事に気付く。


 攻略の再開か諦めかを相談するディルク達のかたわらで。

ディアスは視線を素早く走らせていた。

探しているのはとある3人の人影。

だがその姿は見つからない。

見つけ、られない。


「…………」


 無表情なディアスの顔がわずかに歪んだ。


 その時、ディアスは声をかけられる。


「灰色の髪。もしかして君か?」


  ディアスが顔を上げると、冒険者の青年がディアスを見下ろしている。


「誰だ、あんた。何か用なのか?」


 ディルクは冒険者に気付くと怪訝けげんな眼差しを向けた。

いで青年を見上げているディアスと青年の間に割って入り、腕を組んで仁王立ちする。


「いや、魔宮の奥で人を探してる子供のパーティーがあったんだ。灰色の髪の同年代の男の子を探してるって」


「詳しく」


 ディルクは青年の言葉にディアスがぴくりと反応したのを目の端で捉えると、青年に先を促した。


「見たのは魔物の難易度がおかしいと広まり始めたタイミングだった。俺は1度撤退することにしたが、彼らは難易度の異変を知ると、友人を助けるんだって言って魔宮の奥へと向かってしまってね。彼らは見当たらないし、入れ違いになったの────」


 青年が言い終えるより早く。

気付くとディアスは駆け出していた。


「おい! ディアス!」


 ディルクが叫ぶがディアスは振り返りもしない。

記憶したマップを脳内で思い浮かべ、入れ違いになる可能性が唯一ある三叉路さんさろへと走って。

分岐点に差し掛かると、先ほど訪れた方とは逆の道をゆく。


 道中に人影はない。

無惨に横たわるむくろは、ない。


 だが気付くと魔宮の境目である赤褐色の層──ゴーレムで築かれた境界線を踏み越えた。

そこから先は難易度C以上。

よほどの手練れでもない限り、少人数のパーティーで挑むにはあまりに無謀な領域。


 ディアスは通路を走り抜け、ひらけたフロアへとたどり着いた。

そこには無数のゴーレムと。

そして半壊した少年少女のパーティーの姿。

彼らは周囲を取り囲まれ、退路を断たれていて。


 すでに前衛は、やられていた。

残っているのはまず後衛が2人。

杖を抱き抱えて震えている少女。

弓をがむしゃらに射る少年。

そして残ったもう一人。

中衛を努める小柄な少年は、倒れた前衛の代わりに後衛の2人を守ろうと魔力斬擊(オーラ系)の剣技を振るっている。


 ディアスは両手の剣を振りかぶりなら疾駆。

少年少女達へと迫るゴーレムに肉薄する。

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