■-17
ディアスはラーヴァガルドの運営する孤児院の一員となり、遠隔斬擊の修練に励んで。
だが家族と故郷を失った孤児たちの中でディアスは浮いていた。
すでに他者からの侮蔑も孤独にも慣れたディアスは周囲の反応をまるで気にせず。
それがかえって周囲との溝を深くする。
「あーくそ、なんでこんな奴と」
「また言ってる。ダメよ、ディルク。院長先生からの直々のお願いだもの」
「だってなぁ。リーシェだって本当は嫌だろ」
翠色の瞳に桃色の髪の可愛らしい風貌の少年──ディルクが言った。
それに青の瞳と透き通った薄紫色の髪の可憐な少女──リーシェは首を左右に振る。
「私は気にしないよ。きっと一緒にいれば良いところだって見えてくるはずだもの」
「良いとこ探しに一緒にいる前に、良いとこなくて一緒に居るのが不満だって言ってるんだけどな」
「とかいってちゃんと世話を焼いちゃうとこ私は好きだよ?」
「好っ……?!」
ディルクはリーシェの言葉に頬を染めた。
それを見たリーシェがくすくすと笑って。
「あはは、髪から顔までピンク色だねー」
「う、うっせ!」
「────で、次はどうすればいいの?」
ディルクとリーシェのやり取りの傍らで。
2つの剣を操作するディアスが訊いた。
ディアスの周囲をゆっくりと旋回する刃は、一定の速度と軌道を保っている。
「ほーん。一目見たときは見込みねぇなと思ったけど、意外と安定できてるじゃねぇか」
ディアスに話しかけられたディルクは顔をしかめつつ、半眼でディアスの成長を確認して。
「ちゃんと練習はしてたみたいだな」
「寝ずにずっと練習したからな」
「は? ずっと?」
ディルクはディアスに向き直り、その顔をまじまじと見て。
充血した目とその下のクマを見る。
「いや、ちゃんと寝ろよお前」
「……明日までに形にならなかったら見込みがないから追い出すって言ったのはそっちなのに」
ディアスはため息を漏らした。
「限度があるだろ!」
「倒れた時が限度だろ」
「それは限度超えてるんだよ、ったく」
ディルクは柔らかい桃色の髪をくしゃくしゃと掻く。
放っておけば間違いなく孤立していたディアスだが、彼には指南役として同年代であるディルクとリーシェが世話役も兼ねて側についていた。
親睦も絆も深まらず。
だがディアスが力を付けて共にダンジョンへ潜るようになると、そこには信頼のようなものが芽生え始める。
中、遠距離向けの剣技である遠隔斬擊の使い手の中で、先読みを行うディアスだけが前衛としても十全に機能していて。
積み重ねた小さな実績の数々がディアスの戦闘における価値を証明していく。
「────」
ディアスはふと、視線を止めて。
ディルクやリーシェ、他5人の孤児院メンバーと共に攻略のために魔宮に赴くと、入口付近で見知った顔を見つけた。
立てた誓いとは別に。
密かに胸の奥に残った小さな夢が熱を帯びる。
ディアスの視線の先には少年少女の小規模のパーティー。
その中心にはディアスのよく知る、そしてディアスをよく知る3人の少年がいた。
彼らが襟元にギルドのバッジを留めているのを見て、表情が変わる。
それは些細な変化。
一見すればいつもの無表情のようで。
だが確かに、その顔には微笑みが浮かぶ。
晴れて冒険者となった3人は他のメンバーと共に笑い合っていた。
その景色があまりに眩しく、そしてその中心に自分の姿を幻視して。
ディアスは微笑んだまま。
だが目を細める。
「…………」
そしてディアスは彼らに、背を向けた。
まだディアスは遠隔斬擊を完全に会得するための修練の最中。
今のままではまだ合わせる顔がない、と。
「……ねぇ、あそこにいたのって」
ディアスが他の冒険者の一段の陰に紛れると、遠くから懐かしい声が聞こえた。
「まさか」
「ホントに見たんだって」
「空似じゃないのか」
夢を語り合った仲間達の声を背に。
ディアスは足早にそこをあとにした。
ディアスが足を止めている間に先に進んでいた孤児院組は彼を待っていた。
合流するとディルクが悪態をつき、リーシェがそれをなだめて。
次いで孤児院組で魔宮へと潜る。
ディアスは魔宮の入ってすぐに何か違和感を覚えて。
そこはDランク判定の魔宮。
魔物も弱く、特段トラップもない普通のダンジョンだった。
「…………?」
中層に差し掛かった辺りで。
先頭を進んでいたディアスの足が忽然と止まった。
今まで覚えていたのは感覚的な違和感。
だがついに視覚的な違和感を捉え、前後左右に視線を切ってその正体を探る。
通路の床から壁、天井へと視線を走らせると、その違和感の正体に気付いて。
「ここ、1つの魔宮じゃない……?」




