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■-11

 それからディアスは2人から息子自慢と夫婦の惚気のろけ話をしばらく聞かされて。

助けれくれた相手なので無下むげにもできず、楽しそうに語る2人の相手をする。


 ディアスはふとリーネガルドの首から下げているペンダントに気付いた。

シンプルな装飾の中心にはめ込まれた、握り拳の半分ほどの石のペンダント。

その石は木目のように光輝く筋が刻まれ、表面の所々を緑の葉のような結晶が覆っている。


「もしかしてそのペンダント、魔結晶アニマですか?」


 ディアスがたずねると、リーネガルドはうなずいた。


「彼と私が出会ったのは魔宮だったんだけど、その時に2人でトドメを刺した魔人のものなの。獣型の魔物が徘徊する森の魔宮だった」


「魔人は俺達のパーティー的に格上だった。苦戦を強いられ、全滅する可能性すらあった。それでもリーネは身をていして仲間をかばい、最後は勝機を見出だした。操作する剣とリーネ自身が盾となって、生まれた隙を突いて俺が仕留めたんだ」


「それから彼とは何度か一緒に魔宮の攻略をするようになったの」


「いつもリーネは自分の事は二の次で動くんだ。常に前に出て仲間を守る。そんな彼女を放っておけない。側にいて無茶をさせないように、そして支えてあげる誰かが必要だと思った。そして同時に俺はその誰かになりたいと思ったんだ」


 夫とリーネガルドが目を会わせると、お互いに微笑を浮かべた。

手を握り合う。


遠隔斬擊(ストーム系)って、イメージですけど中衛から後衛向きですよね。どうして前衛に出るような戦い方を?」


 ディアスは純粋に疑問に思った事を口にした。


「誰かが犠牲になって得られる勝利って私、好きじゃないの。それで苦しんでる人を長年見てきたし、ね。誰も犠牲にならない。みんなが助かる。みんなの勝利。それが一番素敵でしょ? だから私はその理想のために前に出るのよ」


 そう言ってリーネガルドは笑みを浮かべる。

その美しい紫の瞳の奥に強い意志。


 だがその姿はどこか、はかなく見えて。

彼女の夫が言った、放っておけないとはこういう感覚なのだろうかと。

きっとこの人は長生きできない、誰かのために命を落とすんだ、と。

漠然とそんな風にディアスは思った。

家族か、仲間か、あるいは見知らぬ人のために。


 リーネガルドを見つめる夫の眼差しも、どこか寂しげだった。

優しく、同時に力強くリーネガルドの手を両手で包み込んでいる。


「俺、家が商会をやってて。今度来てもらえませんか? 助けてもらったお礼をしたいんです。ポーション代をお支払いするか、魔宮生成武具を扱っているので入り用のものがあれば」


 ディアスの言葉にリーネガルドは首を左右に振って。


「ありがとう。でもいいわ。気持ちだけて十分よ」


「でも」


「そうだなー、じゃあ貸しにしといてあげる。今度私達が困ってたら君が私達を助けてくれる? もしくは私達の息子を。お願いできないかしら」


「…………分かりました。約束します」


 ディアスがうなずいた。


 その後ディアス達は魔宮を出た。

リーネガルドと夫が注意を引いた隙に、ディアスは宿舎へと通じる道の物陰に身を潜ませる。


 遠ざかる2人の姿を遠目に見送るディアス。

リーネガルドは去り際にディアスの方へ振り向くと、にこりと微笑ほほんで。

いで夫と共に深い夜の闇へと、消えた。







 翌日。

ディアスは遠征訓練の参加者と共に再び魔宮を訪れた。

引き続き魔物の掃討と探索を行う。


 ディアスは昨夜の反省を活かし、立ち回りにも気を配ってスライムと戦っていた。

相変わらず他の参加者からの嫌がらせを受けつつも、単体での行動パターンとは別に、複数体での連携の規則性を徐々に見出だす。


 動きが読めれば不利と判断した際の撤退も容易になり、分裂させない戦法と先読みで効率化された戦いは参加者随一の安定性を見せ始めた。

死角からの攻撃にも難なく対処できるようになる。


「おい、あれ」


「は? 嘘だろ……」


「なんだ? 落ちこぼれがどうかしたか」


「あいつ、おかしくないか?」


 他の参加者もディアスの異変に気付き始めた。

自分達が1体のスライムを相手に幾度となく剣を振っている間に、ディアスは複数体のスライムを同時に相手にしている。


 ディアスが剣を振るとスライムが自ら剣閃に飛び込んでくるようで。

さらに背後に目があるかのように攻撃をかわし。

そして分裂するはずのスライムが分裂することなく死んでいく。


「落ちこぼれの癖に。きっとまたズルしてるんだ」


 参加者の1人が言った。

その少年はディアスのもとへと向かっていく。


「おい、落ちこぼれ」


 少年の言葉にディアスは振り向いた。


「お前、またズルしてるだろ」


 少年が言った。


「ズル?」


「しらばっくれるな。どうせまた(・・)親の力を借りたんだろ。特別な魔宮生成物でも使ってるだ!」


「……遠征訓練で使用する武具や道具に制限はないし、俺の魔剣は『炎よ、斬り裂け(ライト・スラッシュ)』を使う下位の魔剣だよ。他に魔宮生成物は持ってない」


「信用できるか。親に金を積ませて遠征訓練に参加したような野郎の言葉なんか」


「誤解だよ。俺はそんな事してない」


「もうバレてるんだぜ? 遠征訓練参加者の発表の朝、何人もお前の両親が先生のところに行ったのを見てる。後をつけたやつが、先生に金を渡してるところもバッチリな!」


「そんな事してない」


 ディアスは再度否定した。

だが否定する度に周囲からの視線が冷たくなる。


「じゃなきゃ落ちこぼれのお前がどうしてこの訓練に参加できる? 違うって言うんなら証明して見せろよ。あの日お前の親はどこにいたんだ?」


「…………」


 ディアスは少年の問いに少し思案して。

あの日の朝、すれ違った馬車で見た父に似た人影を思い出した。

あの日は早くから両親が家を出ている。

そして2人がどこに行っていたのかディアスは、知らない。

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