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■-4

「うん、大丈夫! 任せておきたまえ」


 黒髪の少年の問いに笑って答えるディアス。


「今度は落ちるなよ」


 黒髪の少年が。


「2人で上ルート頑張ろうね。僕も今回はちゃんとまと全部覚えたから」


 いで小柄な少年が言った。


「おう!」


 ディアスは力強く返事を返した。


 だがディアスは上ルートを行かない。

途中そこを通るが、あくまでも通るだけ。

代わりに下ルートでの立ち回りや秘策を用意している。


 でもそれは内緒で。

他の少年達は知らない。

聞かされて、いない。


 友達を見返してやりたい。

驚かせたい。

やっぱりディアスは凄いんだ、と言ってもらいたくて。

友達に内緒で誰よりも得点を稼ぐ事をディアスは画策していた。


 少しずつ変わっていく関係を。

冷たくなっていく友達の反応に。

慕われていたはずの自分から友達が離れていくのが。

ディアスはその不安と恐怖から早く逃れたかった。


「着きましたよ、坊っちゃま」


 じいやが馬車の扉を開けると、ディアスはいつものように勢いよく飛び出した。

馬車からぴょんと飛び降りる。


「────」


 だが振り向くことに一瞬の、躊躇ためらい。

振り向いた時の3人の視線を想像すると怖くなって。

きっとそんな事はないと思っていても、脳裏には冷ややかな眼差しを向ける3人の姿。

ディアスは下唇をきゅっと噛んだ。

いで元気よく振り返り、馬車から降りてくる3人に言う。


「さぁさぁ、早く行こうではないか! 俺達で1位をとるぞ!」


 ディアスは拳を握った。


「もちろんだぜ」


 がたいの良い少年が。


「はい、頑張りましょう!」


 小柄な少年が。


「ああ」


 最後に黒髪の少年が。


 3人はディアスに答えると共に期待に満ちた眼差しを向ける。


 ディアスはその3人の瞳に安堵あんどすると共に、より一層気持ちを引き締めて試験へとのぞむ。


 ディアス達はじいやの見送りを背に、修練場に併設された試験会場の入口へ。


「今のところの最高点は754点、か。ミスを1つもしないくらいの気持ちじゃないと勝てないな」


 黒髪の少年はスコアボードを見て言った。


 その時、風にざわめく木々。

同時にその胸の内に膨らんだ不安。

ディアスは嫌な予感を覚えていて。

だがすぐにかぶりを振ると、その気持ちを振り払う。


 風向きを確認し、ディアスは小さくうなずいた。

腰に差した魔剣の柄に手を置く。


「それではこれより試験を開始します。制限時間は30分。…………それでは、始め!」


 教員の合図と共に駆け出したディアス達。

前回は道を間違えないようディアスが先導した。

だが今回は足の速い黒髪の少年とがたいの良い少年の中段ペアが、先へと素早く駆け抜けて。

ディアスと小柄な少年も上ルートを目指してその後を追う。


 道中に点在する白いまとをディアスの魔剣が切り裂き、小柄な少年が『その刃、我が(ソード)魔力を糧にして(・オーラ)』でまとを穿って。


1点。

1点。

3点。

1点。

1点。

5点。

3点。

2点────


 ディアスと小柄な少年は柱をよじ登り、中段ルートと上ルートに繋がる階段へと上がった。

先行した中段ペアが剣技を駆使して金属や魔物の外皮を使った高得点の的を壊していくのが遠目に見える。


 ディアスと小柄な少年は階段を上ると、小さな丸い足場の点在する通路へ。

そこでの得点は小柄な少年に任せ、ディアスは渡りきる事だけに集中。

とにかく先へ進むことをディアスは優先し、分かれ道に差し掛かる。


「じゃあ、頑張ってね!」


 小柄な少年が言った。


「大丈夫、ディアスならできるよ。僕────ううん、皆ディアスの事信じてるから!」


 いで小柄な少年は魔力で編み上げた刃をむちのように振るいながら急な傾斜の通路へ。


 ディアスはその小さな背中を見送ると共に、皆信じてくれているという彼の言葉を噛み締める。


 ディアスは魔剣を鞘へと納めると、1度大きく息をついて。


「……よし」


 いでディアスはその通路から、飛び降りた。

通路を支える支柱の1つにしがみつくと滑り降りていく。


 ディアスは下ルートを走り抜けながら懐へと手を伸ばした。

事前に決めていた要所へと、忍ばせていた魔物の素材を投げる。


 ディアスは走りながら吹き抜ける風を感じて。

強い風はディアスの髪を揺らすと、その勢いのままに上へと巻き上がる。


「思ってたよりも風が強い。これなら……!」


 用意していた秘策の成功を確信してディアスはにやりと笑った。


 そしてディアスは大きく迂回しながら目的の場所へ。

そこは下ルートの中で最もまとが密集しているエリアの中心。

道中そのエリアと他のまとの多いエリアを繋ぐ要所に可燃性の魔物の素材をばら撒いていて。

ディアスはすらりと抜き放った魔剣を構える。


「ソードアーツ────」


 ディアスはその剣の魔力を解き放って。

同時に剣を横()ぎに大きく振り抜いた。


「『炎よ、切り裂け(ライト・スラッシュ)』……!」


 放たれた明々(あかあか)と燃える炎が大きく円を描き、まとを次々と焼きながら拡がっていく。


1点、1点、1点、1点、2点。

1点、1点、1点。

3点、1点、2点、1点。

1点、5点、1点、1点、1点、3点、1点。

5点、10点。

2点、3点、1点、2点、3点、1点。

1点、1点────


 ディアスの意図した通りに延焼型のソードアーツがまとを焼き払って拡散した。

同時にひとしきり燃えた箇所から炎が消えていく。


 通常の炎と違い、このソードアーツの炎は一定時間燃えた箇所から鎮火する性質があった。

威力としては魔物の表皮を焼くだけ。

致命傷には基本なり得ない。


 だがだからこそ実戦経験のない、主に子供に与える魔剣として一定の需要があって。

一部の貴族や資産家が、子供に買い与える魔剣の1つとして広く普及している。


 拡がった炎がディアスの撒いた素材に燃え移り、そこから次のまとが密集したエリアを焼いていった。

同時に強い風が炎をまとって吹き上がる。


 火の粉と共に焼け落ちた白いまとの残骸が風に舞う中で、ディアスは壮観な炎の景色を眺めていた。

下ルートのまとをソードアーツが焼き払い、ディアスの予定通りなら上ルートを行くよりも40点近く多く得点を稼げる。


「この風ならもっと点が稼げるかもしれないな」


 ざわ。


 凄い凄い、と。

 ディアスは当初の予定よりも高い点数を叩き出した自分を褒め称える友達の姿を想像して。


 いでこの炎なら上からでも見えるだろうなとディアスは思う。


 ざわ、ざわ。


 きっと皆は炎を見て驚いているだろうと、ディアスは悪戯いたずらが成功した子供のように1人笑った。


「…………」


 だがその額には冷や汗が滲んで。

嫌な予感は、膨らむばかり。


 ざわざわ、ざわざわ、と木々の揺れる音と共に。

ディアスの胸が不安にざわつく。


 いでその予感が────現実になる。

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