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324/397

■-3

「合計点数は────561点。4人パーティーだと3位の結果だ」


「は?」


「え」


 教員の告げた点数に黒髪の少年とがたいの良い少年は思わず声を上げた。

2人はディアスと背の低い少年を交互に見る。


「ごめんね。20点以上のまとは取れる範囲でとったけど、10点のまとの場所いつくか分からなくなっちゃって……」


 背の低い少年が申し訳なさそうに頭を下げた。


「上ルートは途中で分岐するよな。ディアスの方はどうだったんだ」


「……ごめん」


 黒髪の少年の問いに、ディアスはしょんぼりと答える。


「俺、序盤で下に落ちちゃったんだ。下ルートでできる限り頑張ったんだけど」


「嘘だろ」


 黒髪の少年はたまらず舌打ちを漏らして。


「剣技も使えねぇ、ステータスも低い。それで自分が考えた計画なのに早々に落ちて実行できないとか……! できる限り頑張った、じゃねぇよ。お前いつも偉そうな事ばっか言ってるけど本気でやってるのかよ。本気でやってたらそうはならねぇだろ」


「おい、言い過ぎじゃないか。まだこれ練習だし」


 がたいの良い少年がなだめようと。

だが黒髪の少年は苛立たしげに鼻を鳴らす。


「『本番までにできる完全な練習は今回だけだから、しっかり意識してやろう。』って。そう言った張本人なんだぞ」


 黒髪の少年はディアスを指差して言った。


「次の本番では挽回して見せる。もうこんなミスはしない」


 ディアスが言うと、黒髪の少年は息をついて。


「……信じていいのか。もしこれで本番ダメだったら俺はもうお前を信じれないし、リーダーだなんて思えなくなるけど」


「うん、大丈夫」


「言いきったな」


「言いきったよ。だって俺は未来の勇者、だからね」


 ディアスの言葉に目をしばたたかせる少年。


「ははは。大ミスした直後でよくそんな事言えるな」


 変わらないディアスの態度に黒髪の少年は半ばあきれて。

思わず笑い声を漏らす。


「へへへー」


 それを見てディアスも笑った。


「いや、俺まだ怒ってるんだけど」


「う、ごめん」


「ほらほら、ディアスも反省してるしさ。ディアスんとこのじいやさんも待たせてるからその辺で」


 背の低い少年が言った。


「ほらほら。どおどおどお」


 がたいの良い少年が続いて黒髪の少年をなだめる。


 その後ディアス達はじいやの操る馬車で帰路について。

友人達と別れると、ディアスとじいやは屋敷へと向かった。

その途中。

庭のただ中で、ディアスは足を止める。


「どうされましたか、坊っちゃま」


 ディアスに追従していた、じいやがいた。


「まだ夕食までに時間あるよね。もう少し特訓とかしとこうと思って」


「何かございましたか?」


「…………ううん。だってほら! 俺は最強の勇者になる男だからね。最強たる者、そうあるために努力は怠らないのである!」


「坊っちゃまの素晴らしいお心掛けにはいつも感服致します。ですがご夕飯の前にお召し物を変えて、傷の手当てもしなくてはなりませんので」


「えー。お願い、じいや」


「駄目です。旦那様と奥様に叱られますよ?」


「えー、ケチ」


「お言葉ですが坊っちゃま。わたくしは旦那様と奥様、坊っちゃまに対しての奉仕をケチった事など1度もございません。常に誠心誠意御使いさせていただいております」


「そういう話じゃないんだけど」


「もちろん承知しておりますとも。このじいや、そこまで耄碌もうろくしておりませんぞ」


 そう言ってじいやが、にこりと笑う。


 結局ディアスはじいやに言われるまま、屋敷へと戻った。

湯浴ゆあみをし、傷の手当てを済ませて。

父と母と共に食事を済ませる。


 その夜、屋敷が寝静まった頃にディアスは部屋を抜け出した。

寝間着のまま腰に剣を差して庭の隅へ。

きょろきょろと人目がないのを確認すると魔剣を抜いて構える。


「ソード・カスケード!」


 振り抜かれた刃が月光を反射してきらりと閃いた。

だがその斬擊は1つ。

剣技は発動していない。


 何度繰り返しても結果は、同じだった。


 その次の夜も。

次の訓練でも。

月日が進み、周りの子供達が成長していく中で。

ディアスだけが1人、取り残されていた。







『────未だ剣技を使えないのはただ1人。能力も伸び悩んでステータスも同年代の中でワースト。大きな失態もした。もうミスはおかせないと今まで以上に努力をするが、その差は広がるばかり。どんなに目を逸らそうとしても、さすがにもう気付いてる。認めていないだけだ。自分は、落ちこぼれなんだって』


 黒い影が少年ディアスへと言い放った。


『盲目的にお前を信じてくれていた親もさすがに気付いた。教員から報告で。振るわない成績を。平均から大きく劣ったその能力を』


「それでも父様も母様も、じいやも周りの皆もまだ俺の事を信じてくれてる。そして誰よりも────俺が俺を、信じてる!」


 力強い語気で。

だがその顔は今にも泣きそうだった。

その表情かおを見て黒い影は目を細める。


「父様が言ってくれた。努力し続ける事ができるのも才能だって。俺は確かに今は他の人に劣ってるかも知れない。でも父様は言った。望んだ結果を手にするまで努力することができた人が成功するんだって」


『努力できるのも才能だ。だから俺は諦めない』


 黒い影の言葉に、少年ディアスはこくりとうなずいた。


『そうして努力を重ねても、お前の能力は上がらない。そして試験の本番の時は迫る。お前の能力では上のルートは走れない。威力を求められる中段ルートも歯が立たない。だから下のルートでお前は得点を稼ぐ方法を模索した』


「うん。策は考えてある。これは魔宮の攻略を想定したテストだ。道具の使用も、ソードアーツの使用も制限されてない。広くまとが分布してて点数は低いけど、合計点数は上のルートよりも多いんだ」


『だがお前は間違える』


「俺はミスはしないよ」


『それでもお前は、間違えたんだ』


 黒い影は呟くと、再び追憶へと目を向けた。

同時に少年ディアスの意識が投影される過去へと沈む。







 ついにディアス達は、テストの本番を迎えた。


じいやの操る馬車の中で。

うつむくディアス。

緊張している背の低い少年。

自信満々のがたいの良い少年。

そして、ディアスを半眼で横目見る黒髪の少年。


「ディアス、今度は大丈夫なんだろうな」


 黒髪の少年が冷たい声音こわねいた。

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