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9-30

 シノカが視線を切った。

気配を感じた先へと手を。

素早く自身の目の前に扉を生み出す。


 次いで遥か彼方から走り抜けた黒い閃光。

その閃光は、シノカの扉ごと大地と空を断った。

シノカが繋げた魔宮の先に佇んでいた巨大な魔物も、その斬擊に飲まれて両断。

音もなくその身体が裂けると、黒い塵となって崩れ落ちていく。


「なん……じゃと…………?!」


 シノカは走り抜けた黒の剣閃を目で追った。

両断された大地がその裂け目から黒いちりをたなびかせ、割れた空の先には深い闇が覗いていて。

そして視線を落とすと、肩口から切断されたシノカの腕が地面に転がる。


「ぐぬぅ」


 シノカは鮮血を噴き出す肩口を押さえた。

未だかつて破られたことのない扉による防御を、純粋な威力だけで打破されたことに動揺を隠せない。


 そしてエミリアやクレトも、その絶大な威力を誇るソードアーツを前に困惑していた。

唯一アムドゥスだけが、世界を断つようなその黒の斬擊に覚えがあって。

だからこそ、この場にいる誰よりも混乱している。


「嬢ちゃん」


 アムドゥスはエミリアの肩にとまった。


「アムドゥス、今のソードアーツだよね。威力が桁違いだけど」


「ケケケ、確かにソードアーツだぁ。だが残念ながら嬢ちゃんやクソガキの味方ってわけじゃねぇ」


 アムドゥスはそう言ってかぶりを振る。


「どういう、こと? 他の勇者やコレクターの人ってこと?」


「…………」


 アムドゥスはエミリアの問いに答えない。

その視線をシノカへと向ける。


 シノカは自身の肩に小さな扉を生み出した。

その扉がくるくると回ると、その先から彼女の腕が現れる。


 シノカはその指先までを素早く再生すると、鋭い赤の視線を放った。

斬擊の跡をたどり、ソードアーツを放った存在を凝視しようと。

だがその視線の先には、黒。

次いでシノカがその黒に気付いたのとほぼ同時に。


「『坤輿を屠れ(スラスト・アナ)、命喰らい(イアレイション)』」


 再び黒の斬擊がはしり抜ける。


 シノカは刹那の間に扉を生んだ。

その扉をくぐり、黒の斬擊を回避して。


 だがいでズブリ、と不快な感触を覚える。


 空中へと逃れたシノカの目の前には、音を置き去りにして彼女の胴を穿った長大な魔剣の剣身けんしんがあった。

その一撃から少し遅れて。

力任せに投げ放たれた剣が生んだ、視界を歪曲わいきょくさせるほどの空気の歪みと共に轟音のような風切りを響かせる。


 無防備な背を貫かれたシノカ。

彼女は肩越しに背後を見た。


 その先からはゴボゴボと湧き水のように大地から吹き出し、拡がっていく黒い影。

カラカラと嗤うそれはみるみる連なって山となり、空中にいるシノカの高さにまで盛り上がる。


 呪詛をたたえた黒骨の山。

その頂に2つの赤い光が灯った。

銀色の髪をそよがせ、仄かに光る赤い瞳を爛々(らんらん)と輝かせて。


「あはっ」


 異形と化したその姿で、悪意のない笑いを浮かべる。


 全身のほとんどを人ならざるモノの骨へと置換された少女。

その不気味な姿で見せた不釣り合いな無垢むくな笑顔を前に。

シノカは嫌悪と怒りを滲ませる。


「どういうつもりじゃ、ネバロ」


「久しぶりだね。お姉ちゃん」


 シノカの問いに答えずに。

【黒骨の魔王】ネバロ・キクカは心の底から嬉しそうに言った。

いでおもむろにその手を伸ばして。

その硬く尖った黒い指先がシノカの胸へと音もなく沈んでいく。


「答えるのじゃネバロ」


 シノカはその声に怒気をはらんで。


「どういうつもりじゃ」


 次いでネバロの側面に生まれた扉。

その開け放たれた先には白い竜の首。


 ネバロが扉へと振り向くより早く、白い竜が咆哮を上げた。

腹の底から咽頭いんとう口腔こうくうへと青白い光が膨れ上がり、弾けるようにその光が放射する。


 その膨大な光量に照らされたネバロ。


────無音。

その視界が白一色に塗り潰されて。

次いで黒骨の山の頂が四散し、瓦解する。


 シノカは自分の胸を穿とうとしていた黒骨の腕を掴んだ。

肘から先だけを残すそれを投げ捨てる。


「シノカは優しい。じゃがそれにも限度があるのじゃ」


 シノカは小さな扉を生んだ。

その先からは黄金に輝く刀剣のような鍵が姿を現して。

その鍵を掴むと、眼下へと氷のような冷たい眼差しを向ける。


「あはっ、あはははは」


 崩れた黒骨の山からは狂ったような笑い声。

いで起き上がる異形の少女。

ボロ布のようになった黒のワンピースの残骸が風に剥ぎ取られ、少女の肢体をかたどる折り重なった黒骨が剥き出しになった。

シルエットだけを見れば、まだあどけなさの残る子供の体躯。

だがその様相は見るものを畏怖させるほどに禍々(まがまが)しい。


 周囲の黒骨が躍ると千切れたネバロの腕にまとわりついた。

肘からその肩までを覆って。

次いで余剰分の骨が崩れ落ちると、そこには復元された彼女の腕。

ネバロは握って開いてを繰り返し、復元した腕の調子を確かめる。


「今の私じゃ……勝てなかったんだ」


 ネバロが言った。

伏せ目がちに呟くと、シノカへと視線を向けて。


「お兄ちゃんと1つになって私は強くなった。でもそれでもまだ足りないの。だからお姉ちゃん、お姉ちゃんも私と1つになって。お姉ちゃんの魔結晶アニマを、私にちょうだい」


 次いで笑みを浮かべながら。

ネバロは高波のような黒骨とともにシノカへと躍りかかる。

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