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9-24








「あれがディアス兄ちゃんの、永久魔宮……!」


 アーシュが下を覗き込みながら言った。


 眼下に広がるのはおびただしい量の刃がうごめく光景。

1つ1つが個々で回り続けると同時に、それら全てで1つの巨大な生き物のようで。

獲物を求めて徘徊する刃の群体の姿を前に、アーシュは圧倒されてしまう。


「永久魔宮化した直後よりおっきくなってる」


 ギルド本部の地下から姿を現した時の記憶と比較してエミリアが言った。


「規模は倍以上かな。それだけ人間を喰ったって事だねぇ、イヒヒヒヒ」


 クレトはそう言ってけらけらと笑う。


「クレト、何か怒ってる?」


 クレトの語気や笑い方を聞いて、エミリアがたずねた。


「なんで。いつも通りのボクだと思うけど」


「んー、そう言われるとそうなんだけど……」


 視線を返さないクレトに、エミリアは困ったように眉をひそめる。


「あの中のどこかにディアス兄ちゃんの魔結晶アニマと、アムドゥスがいるんだよね」


 アーシュは視線を走らせた。

だが広大な刃の群れの先に魔結晶アニマとアムドゥスを見つけることはもちろんできない。


 アーシュは大きく息を吸って。


「アムドゥスー!!」


 大声でアムドゥスを呼んだ。


「アムドゥス!! 聞こえてるー?! アムドゥスー!!」


 何度もアムドゥスを呼ぶアーシュ。


「さすがに聞こえないんじゃない」


 うるさそうにアーシュを横目見たクレトが言った。

眼下の永久魔宮に視線を戻すと続ける。


「しかも、あっち(・・・)には気付かれたみたいだよ」


 クレトが顎で指した先。

永久魔宮の折り重なる刃が大きく盛り上がっていた。

それはどんどん膨らんでいって。

いで、弾ける。


 弾けたと同時。

天に向かって駈け上る幾筋もの連なる刃。

交差した刃が回転しながら迫ると、3人の耳に鋭い風切り音が聞こえた。

立ち上る刃が長大な触手のようにしなりながら3人の周囲をまたたく間に取り囲む。


 素早く視線を切るアーシュ。

その瞳に赤の光を燃え上がらせるエミリア。

そして冷めた眼差しで辺りを見回すクレト。


「やみくもな突貫とっかんは推奨しないよ」


 クレトが言った。


「けけ、でもこの数だよ。長期戦になったら間違いなくやられちゃう」


 エミリアはそう言いながら、左手にハルバードを召喚する。


「……あれ?」


 アーシュはエミリアの召喚したハルバードを見て声を漏らした。

エミリアの召喚した斧槍ふそうは形こそいつもと同じ。

だが切っ先から柄にかけてが赤黒く染まり、その青い柄は所々が灰色に色()せている。


「エミリア、そのハル────」


「来る!」


 アーシュの言葉をさえぎってエミリアが言った。

3人を取り囲んでいた刃が一斉に襲いかかる。


「…………っ!!」


 アーシュはすかさず銀色に輝く箱のような様相の武器を操作。

表面に走る溝に沿って各部がスライドし、中から10の柄が現れた。

アーシュは、その柄から格納されている武器の切っ先にかけてを意識でなぞって。

いで10の得物を操作して引き抜く。


 魔宮生成物の格納ギミックとして生成され、魔宮に点在する通称『宝箱』。

それは魔力によって構成された生成物の骨子こっしを情報に変換して折り畳み、状態を保存しながら収納する。

アーシュが伴っていた銀の得物は、巨大なさやだった。

アーシュの要望に応えた結果、大型化してしまった武具の収納のために【黄の勇者】サイラスが複数の宝箱をリファインして1つにまとめた特注のさや


 現れた武具の1つ1つが、それらを収納していた銀のさやと同等の大きさを誇っている。


 アーシュは10の武具の内部へと意識を向けた。

その内部には刃で構成された歯車。

それらがアーシュの操作できしみを上げ、火花を散らして。

互いを削り合いながら回り始める。


 すでに3人の眼前には永久魔宮の刃が迫っていて。


 アーシュは操作する武具の2つを手に取った。

右手には幅広の剣身けんしんの片方から5つの刃が伸びる、翼のような片刃の長剣。

左手には小さな刃が連なり、歯車の動きに連動して剣身けんしんの縁を刃が旋回する大剣。


「ソードアーツ────」


 アーシュは右手に握る剣の魔力を解き放つ。


「『灼火は分かつブレイジング・クリーヴ』……!」


 柄から切っ先へと刃を包む紅蓮ぐれんほむら

逆巻くような激しい炎がたけるように剣から噴き出した。

アーシュはその炎の剣を振りかぶって。

ぎ払うようにその刃を振るう。


「『その刃、(ソード・)風とならん(ウィンド)』」


 アーシュは眼前に迫っていた永久魔宮の刃の1つを斬り伏せて。

同時にその剣から舞う5つの刃。

炎を纏った刃が宙をはしり、刃と剣身けんしんとを繋ぐ頑強なワイヤーが風切りをあげた。

射出された刃が魔宮の刃を1度に複数穿(うが)つ。


「そのソードアーツ、ディアスの」


 エミリアが言うと、アーシュはニッと笑って。


「『その刃、(ソード)嵐となりて(ストーム)』!」


 さらにアーシュは剣を操作。

すかさず軌道を変えた5つの刃。

刃が対象を斬り裂き、さらに炎を纏ったワイヤーが触れるものを溶断する。


 辺り一帯に縦横無尽に炎の斬擊が走った。

破壊された魔宮の刃がボロボロと崩れながら落下する。


 だが永久魔宮の刃はなおもその数を増しながら3人に迫っていた。


 アーシュは刃からワイヤー、そして自身の身体を経て左手に握る剣へと魔力を伝達。

蓄えた魔力を続け様に解き放つ。


「ソードアーツ『深き闇は裂きて(ダーク・リッパー)』────」

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