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9-22

「ありがとね」


 エミリアがクレトに言った。


「なにが?」


「けけ。あたしの事、自分を食べさせてまで助けてくれたでしょ」


「それはボクじゃない」


「クレトはクレトなんでしょ? あたしと一緒に過ごした記憶が今のクレトにあるんなら同じだよね」


「イヒヒ、いらない記憶は随時消去してるって前に言ったよね。あっちの分裂体側の記憶はもう全部忘れたよ」


「その話してくれたの、ここを出たあとだったと思うけど。けけけけけ」


「…………そんなことより早く魔力回復したら?」


 クレトが言うとエミリアはチラッとアーシュを横目見た。

その見知った、純粋な少年の顔を見る。


「…………?」


 きょとんとするアーシュ。

エミリアはいでぶんぶんと首を左右に振る。


「よく分かんないけど、おれじゃダメなの?」


 アーシュがエミリアにいた。


「ダメ。絶対にダメ」


 エミリアが拒否する。


「ちなみに何するの? どっか食べるの……?」


「え、言わない」


「血を飲むとか?」


「ん、うん。まぁ、そんな感じ……かな? けけけ」


「おれの血だとダメなの?」


「アーくんのっていうか、今あたしは永久魔宮化の進行寸前だから血を口にしたら衝動を抑えられないと思うの。前みたいにアーくんに怖い思いはさせられないし。だから血は飲めない」


クレトはエミリアとアーシュのやり取りを聞いていて。


「イヒヒ、でもいくらか魔力回復ができてないと素体を繋いでも再生の魔力消費でまた永久魔宮化が始まっちゃうよ。あまり悠長ゆうちょうにもしてられない。事態が動いたみたいなんだよねぇ」


「動いた?」


 エミリアが聞き返した。

アーシュからクレトに視線を移す。


「この辺り一帯を囲む魔宮に穴を空けたでしょ。そこから外部の侵入が多数。そして魔宮に穴が穿うがたれた話を聞いた僻地へきちや小規模の集落や村、町の人間。さらにはキャラバンに合流してた人間の一部がそこに向かってるみたいだ」


「それってまずいんじゃ」


「刃の永久魔宮は人を追ってる。そのために用意された移動式のキャラバンだからなんとか一定の間隔を保ててるけど、人の足じゃまず逃げられない。不用意に人間が集まったら魔宮の矛先が変わるかも知れないし、そうなったらまず助からないだろうね」 


 クレトがそう言って意地悪く笑った。

にやにやと笑ったまま肩をすくめる。


「……クレトの方の用意は進んでるの?」


 エミリアがいた。


「人型の素体の用意は終わってる。あとは永久魔宮の魔結晶アニマに接触して魔宮との接続を遮断。ボクの理論が正しならあとは個人の意識さえ呼び戻せれば魔人の再生能力によって素体の構成が置換、魔人として復元されるはずだよ」


「ならすぐにでもディアスのところに向かいたいけど、その意識を呼び戻すのに過去が必要なんだよね」


「その人間の精神の形成に関わったような事柄が必要だ。できるだけその情報が多い方が成功率は上がる。ただ壁のせいでその辺の情報収集はできなかったし、今からそいつの過去に詳しい人間を探してる時間もない」


「うん。よく分からないけど、早くしないとたくさんの人が犠牲になるかも知れないんだよね」


 アーシュが言った。


「いや、人間の事は正直ボクにはどうでもいい」


「あれ、違うの?」


「ボクが言ってるのは壁の外から来た奴らだ。原初の魔物の一欠片を狙ってる議会の生き残りやギルベルトの勢力。それにディアスの魔結晶アニマやその魔宮生成武具を狙ってるコレクターの存在。時間をかけるほどそいつらが集まってくる」


「ギルベルト……って【緑の勇者】のギルベルトさんのこと? やっぱり敵になっちゃったんだ。ディアス兄ちゃんも永久魔宮化しちゃったし、ギルベルトさんが心配してた通りになっちゃったもんね。シアンやスカーレットは大丈夫かな。2人とも元気だといいけど」


「あ……」


 アーシュが言うとエミリアは言葉に詰まった。

シアンの死やスカーレットの状態を伝えるか思い悩む。


「イヒヒ、個人的にはどこも厄介。だから迅速に、かつ十全の備えで。そのためにはエミリアの回復は不可欠だ。このボクは人間を通さないとスペルアーツが使えないし、ボク個人の戦闘能力は正直あのレベルの奴らと渡り合うには見劣りする」


「ならやっぱりおれの血を飲んででも回復しないと」


 アーシュが言うとエミリアが首を振って。


「でもアーくんも貴重な戦力だし、特にディアスの真白ノ刃匣(マシロノハゴウ)を使えるのはアーくんだけ。アーくんに消耗させるわけにもいかないよ」


「じゃあどうする? ボクの分裂体を召集する時に適当に人間(さら)ってこようか? 結局喰うのが一番効率が良くて手っ取り早いんだ。それならそれでボクは構わないよ。イヒヒ」


「……悪人に絞れる?」


 エミリアが消え入りそうな声でクレトにたずねた。


「それは期待しないで欲しいなぁ。その辺の線引きめんどうだし。年寄りだけって指定ならこたえられなくもないけど」


「なら…………アーくんに魔力回復を手伝ってもらって、それで……足が戻ったらあたしが…………自分で」


「エミリア」


 アーシュが心配そうにエミリアを見て。


「うん、でもとにかく足とかを治さないとね。おれはどうすればいいの?」


「寝てて」


「え寝るの?」


「うん、ぐっすりと。あー、ほら。アーくんだって頭では分かってても怖いと思うし、さ。それに……あたしもアーくんに見られながらだとやりにくいし、けけけけ」


「うん。わかった」


 アーシュがうなずく。


「へー、ずいぶんあっさり了承するねぇ」


「おれはエミリアのこと信じてるし」


「イヒヒヒヒ、信じてるってさ」


 クレトがエミリアに言った。

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