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9-18

 エミリアは相手の出方をうかがいながら、出口の方向を探った。

エミリアは今居るフロアの表面とゴーレムの素材に既視感を覚えていて。

その白い材質は魔人にとって最大の弱点であるそれ(・・)を思わせる。


 巨大な白いゴーレムは拳を振りかぶった。

いで床を蹴ると共に拳を振るって。

巨体に似合わぬ速度。

風のうなりと共に繰り出された一撃。

それをエミリアは後ろに跳んでかわす。


 すでに他のゴーレムもエミリアに向かって駆け出していた。

その各部にある連なった2つで1対の球体関節。

それが滑らかに連動し、その肢体をしならせて向かってくる。


 そしてエミリアに拳をかわされたゴーレムはすでに追撃に移っていた。

からぶった拳の勢いのままに胴体がぐるんと回転。

首から上と腰から下だけがエミリアを正面に捉え続け、上体はコマのように回りながらその腕を次々と振り抜く。


 幾度いくどとなく空を切る拳の風切り。

何度となく床を打つ激しい衝撃。


 その絶え間ない連擊を。

すり抜け。

くぐり。

真白ノ刃匣(マシロノハゴウ)でいなして。

疾走。

回避。

跳躍。

いでエミリアはフロアの壁に着地する。


 顔を上げて正面をにらむエミリア。

その視界には縦横無尽に走る赤い閃光の軌跡。

それはエミリアの瞳に燃える赤の残滓ざんし

瞳から尾を引いて残されたまたたきが散っていく刹那せつなに。


顕現けんげんして─────」


 エミリアの眼に灯る赤が一際ひときわ強く燃え盛った。

だがその表情かおには迷いの色。

胸によぎる不安。

それを振り払い、エミリアは魔宮を展開する。


「あたしの『在りし緋の咆哮(シャルフリヒター)』!」


 叫ぶようなエミリアの声がフロア内を走った。


 いで歯を食い縛るエミリア。

眉を吊り上げ、その目を見開き、歯牙しがき出して。

敵意をあらわにし、魔物のごとき形相を浮かべる。


 遠ざかるエミリアの声。


 エミリアは反撃に出るためにその下肢かしに力を蓄えた。

長大な純白の剣を肩に担ぐように振りかぶる。


 すでに跳躍の時の慣性かんせいは消えようとしていた。

壁を捉えていた小さな足裏の摩擦が瞬く間に減少していくのを感じている。

だがエミリアはまだ動かない。


 そして響き渡った声が反響。

自身の声が再びエミリアの耳に届いた。


「……やっぱり」 


 自身のこだました声を聞きながら。

エミリアは一拍の間を開けて呟いた。


 魔宮の展開の不発。


 すでにゴーレムの追撃が眼前に迫り、エミリアは壁を蹴って回避する。

 

「エミリアの魔宮が展開しない。そして白い壁と床。侵食耐性特化の魔宮封じで構成された魔宮か」


 クレトはそう言うと舌打ちを漏らした。

少年の姿とスライムの姿とを切り替えながらゴーレム達の間を走り抜けて援護に向かう。


 むちのようなしなやかさと槍のような鋭さを兼ね備えたゴーレムの連擊にぐ連擊。

その動きは予測が困難であり、エミリアに思考する隙をまるで与えない。

反射と経験からかろうじてその直撃をかわすエミリア。

だが隙をついてゴーレムに打ち込む真白ノ刃匣(マシロノハゴウ)の攻撃は、その硬質な白の装甲に目立ったダメージを与えられないでいる。


「せめて右腕が使えれば」


 ゴーレムの攻撃を回避しながら、苦々しく呟くエミリア。


 ゴーレムは下からすくい上げるように腕を振るった。

エミリアは後ろに引いて。

すかさず、かわしたその腕に向かって跳躍。

その腕の側面を駆け上がり、ゴーレムの指先からさらに上へと跳んだ。


 エミリアの周囲には魔宮の白い壁も床もない。

天井までも距離がある。


「『在りし緋の咆哮(シャルフリヒター)』……!」


 エミリアは魔宮を展開しようとして。

だがこれも不発になる。


 ゴーレムの白い手がエミリアへと追いすがっていた。

空中で無防備のエミリアを鷲掴わしづかみにして握り潰そうと。


「エミリア!」


 クレトはスライムの身体から触手を伸ばした。

エミリアとゴーレムの手の間に割って入り、その体積を触手の先へと移動。

いで半球状にその身体を拡げると黄金こがね色に染まって。

硬質化させた自身の体を盾にする。


 クレトの防御はゴーレムに一撃で破られた。

だがその隙にエミリアは宙空から離脱。

着地と同時に加速し、左右のステップを織り交ぜてジグザグに走る。


「あのゴーレムも魔宮封じでできてるんだ」


 エミリアはゴーレムの白い装甲を見上げて言った。


 エミリアの魔宮は最小の展開域である1。

その魔宮の展開に必要な空間の確保は本来決して難しくない。

だがその身体を魔宮封じで構成されたゴーレムがその展開範囲に常に干渉していた。

ゴーレムらしからぬ柔軟な動きと鋭敏えいびんさに、エミリアは一定以上の距離が取れないでいる。


 エミリアはその手に握る白い大剣を床に突き立てた。

その柄の先を蹴ってゴーレム達のただ中へとおどり出る。


「クレトは剣の後ろに下がってて!」


 エミリアがクレトに言った。

いでその瞳から立ち上る血のように赤い輝きがその額へと集まり、左右非対称の2つの角を形作る。


 クレトは肉体の再結合もままならないまま、慌てて真白ノ刃匣(マシロノハゴウ)の陰へと滑り込んだ。


 エミリアは視線を走らせて自身を取り囲むゴーレム達を捉えると、咆哮ほうこうをあげる。


「────────っ!!」


 放たれ、拡散する『緋色の咆哮(スカーレット・ハウル)』。

エミリアが自身の肉体を半魔宮のボス化させて行使する強大な攻撃。

その咆哮に触れたゴーレムの肢体に亀裂が走り、その亀裂から装甲がみるみるがれ落ちて四散する。


 ゴーレムはエミリアの咆哮ほうこうを前にしてその場にとどまるのが限界だった。

防御の構えを解けば末端から見る間にその身体が瓦解がかいするの必至ひっしだ。


 だがエミリアの咆哮ほうこう突如とつじょ途絶えた。

エミリアは着地の際に受け身も取らずに床に崩れ落ちる。


 2度の魔宮の不発はエミリアにとって大きな痛手だった。

魔力不足により、放った技も半魔宮のボス化も維持できない。


 ゴーレムはゆっくりと防御の構えを解いた。

ギシギシときしみをあげる身体。

さらに剥がれ落ちる装甲。

関節の一部は故障してうまく動かず、中には肘関節から前腕部が千切れた個体もいて。

だがそれでもその機能にまだ大きな支障はなかった。

少なくとも身動きの取れない少女1人をひねり潰すのは造作もない。

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