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2-12

 魔物はアーシュの放った短剣をひづめではたき落とした。

踏みつけると同時にひづめへと光が集束し、短剣を粉々に砕く。


 その顔には般若はんにゃのような怒りの形相を浮かべていて。

幾何学きかがく模様の上を光が激しく明滅しながら走っている。


 魔物はアーシュに向かって駆け出した。

無数の尾を縦横無尽じゅうおうむじんにしならせながら迫る。


 「『在りし日の咆哮(シャルフリヒター)』……!」


 エミリアは魔物の前に立ちはだかると、すかさず魔宮を展開。

エミリアの影がみるみる巨大化すると姿を変えた。


 現れたのは牡牛おうしの頭を持つ巨体の魔物。

エミリアがシャルと呼ぶその魔物は両手に握り締めた戦斧せんぷを迫り来る人面の魔物へと振り下ろす。


 瞬間、人面の魔物は咆哮ほうこうをあげて。

その声は聞いた者の動きを縛る効果があった。

わずかな硬直。

人面の魔物はその隙をつき、尾の先に伸びる鋭い針を次々とシャルへと突き立てた。

針で貫かれたところからシャルの体が青白い結晶へと変質していく。


「シャルっ!!」


 エミリアが声をかけるとシャルは雄叫びでこたえた。

硬直を解き、いで再び戦斧せんぷを振り下ろす。

それは結晶質で構成された肩を。

そして不気味な人面へと深々と食い込んだ。


 顔から首までを斬り裂かれて。

人面の魔物の目が白目をいた。


 だがその目がぐるりと一周するとシャルを捉えて。


 人面の魔物は光を集束させたひづめでシャルの胸を蹴った。

それを受けてシャルの胸が結晶化すると同時に粉砕。

胸に大きな穴が穿うがたれる。


 シャルは膝から崩れ落ちると、その体がちりと消えていく。


 人面の魔物は霧散むさんしていくシャルの体を踏みつけ、エミリアを見下ろした。

2つに裂けた顔からはボタボタと真っ黒な血が滴っている。


 エミリアはハルバードを構えようとしたが、全身に回った毒により力が入らない。


「おい、エミリア!」


 アムドゥスがしっかりしろと羽でエミリアの顔をはたいた。


 だがエミリアの四肢にはまるで力が入らない。

ついにはその場にへたり込んでしまって。


 魔物はひづめを高々と上げると、身動きのとれないエミリアに狙いを定める。


「『その刃(ソード)()風とならん(ウィンド)』!」


 アーシュは残りの短剣全てを投げ放った。

 加速する刃が次々と閃く。


 魔物は尾を操るとそれらをはたき落とした。


「エミリア、立って!」


 アーシュはエミリアに駆け寄ると肩を貸した。


「アーくん、なんで?」


 エミリアが疑問を口にするが、アーシュはきょとんした顔をして。


「え、なにが?」


「だってあたし、魔人だよ? どうして助けるの?」


 アーシュはエミリアの赤い瞳に視線を返す。


「だってエミリアはきっといい魔人でしょ」


 アーシュは気にする風でもなく、さらりと言ってのけた。


その言葉にエミリアはけけ、と小さく笑い声を漏らす。


「アーくんのそういうとこ好きだなー」


「え、なんの話?」


 アーシュは動揺しつつもきびすを返した。

エミリアを支えながら必死に走る。


 エミリアも半ば引きずりつつも必死に足を前へ前へと繰り出した。


 だが魔物は地面を蹴るとその前へと回り込んだ。

ひゅんひゅんと尾をしならせながら2人ににじり寄る。


「……アムドゥス、ディアスは?」


「まだだ。さっきからほとんど動いてねぇ。俺様が力使ったのは伝わってるはずだがなぁ。呼びにいくしかねぇか」


「ちなみにさっき言ってた戦闘形態は」


「ケケ、さっき簡単に潰されたのが今出せる最大出力だ。仮にもう1発2発撃ったとこで戦況は変わんねぇぜ?」


「りょーかい。アムドゥスお願い」


「あいよ。無理だとは思うが死ぬなよ」


 アムドゥスは飛翔ひしょうして再び森の上へと抜けた。

すぐにディアスのいる方へと旋回。

だがその先に広がる光景に一瞬言葉を失う。


「森が……赤い? さっきはなかったぞ……?!」


 アムドゥスの視界の先には真っ赤に染まった景色。

それは地平線の彼方にまで続いていて。


「違う、森じゃねぇ。こいつは────」


 その赤い景色のはるか先にあるものを思い出し、アムドゥスは心臓が縮み上がった。


「赤蕀の魔王の魔宮……!?」


 凄まじい速度で森を飲み込みながら、赤いいばらで構成された魔宮がエミリアやアーシュ達のいる方向へと拡がっていた。

それがある一点を境に左右に分かれている。


「ディアスはあそこか。ピンチに駆け付けて来ねぇ勇者サマだと思ったら、魔宮の進行を足止めしてたのか。ケケケケケ、こりゃあ参ったな」

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