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9-13

 アーシュは武具を操作すると、サイラスの周囲に突き立てたそれらを移動。

サイラスは解放されると、青白い結晶に包まれた砥剣とけんに視線を落として。


「興味深い技だ。魔力同士を凝縮させて結合し、膨張して結晶質へと変ずる。魔力の凝縮体でありながら魔力の特性を完全に無効化している」


 サイラスは『神秘を紐解く眼(アナライズ)』と鍛冶スキルによる組成の観察を行い、結晶の状態を把握する。


「実に面白い」


 サイラスはそう言ってつちをかざし、その結晶を日の光に透かした。

その結晶の中を幾何学きかがく的に光が走っているのを観察する。


 アーシュはサイラスのたのしげな様子を眺めていて。

その時、小さな痛みが脇腹に走った。

体の内側に覚えた痛み。

だが大した痛みではなく、それもすぐにおさまる。


「大丈夫かね、アーシュ」


 アーシュのもとに来たラーヴァガルドが不安げな面持ちでいた。

アーシュの両肩に手を起き、心配そうにその身体を見る。


「あの力はどうした。身体にどこか不調は?」


「うん。大丈夫だよ」


 アーシュはにこりと笑って。


「えっと、あの力は────」


「ヨアヒムに……もらったものか?」


 アーシュの言葉を遮って、ラーヴァガルドがたずねた。


「ラーヴァさん、ヨアヒムの事知ってるの?!」


 アーシュが言うと、ラーヴァガルドはさらにその表情を曇らせて。


「やはり、そうなのか」


 ラーヴァガルドはアーシュの両肩から手を離すと、アーシュに背を向けた。

強く握られた拳。

その眼光は鋭く、紫の瞳で虚空をにらむ。


「ヨアヒムって、あのヨアヒム?」


 ヨアヒムの名前を聞いたサイラスがアーシュ達に歩み寄りながらいた。


「ヨアヒムって有名なの?」


 アーシュがサイラスとラーヴァガルドの背中を交互に見る。


「ギルド機構の議員の1人だよ。若くしてギルド機構内でもかなりの発言力がある。でも黒い噂の絶えない男だし、傘下のクロスブライト家の頭首がとある村で虐殺行為をしたのは記憶に新しい」


「クロスブライトって……キール・クロスブライト?」


「そう。知ってるんだ」


「うん。その人とは、おれ達が戦ったんだ」


 アーシュはキールの使った結晶の力を思い出して。


「じゃあ、あのおじさんが結晶の力を使えたのもヨアヒムが使えるようにしたのかな」


 アーシュはそう言うと自分の左手を見た。

キールの見せた結晶の壁やドーム、ソードアーツを跳ね返す柱や地を這う攻撃が自分にも使えるかもと考える。


「へー。その力、キールも使えたんだ。俺は見たのは初めてだけど。魔力の凝縮による結晶化は使い方次第では空気中の魔力濃度を引き上げるエーテル以上に有用なはずだよ。かなり革新的な能力だ。特にソードアーツの連続発動においては」


 サイラスは結晶とアーシュの操る武具を交互に見ると、きびすを返した。

工房の入口へと向かっていく。


「…………何してるの?」


 サイラスは途中で振り返るとアーシュに言った。


「えっと」


「剣の調整をする」


 サイラスがアーシュに来いと手振りで示す。


「彼の遠隔斬擊(ストーム系)の剣技の扱いではうまくいかなくてボツになった仕組みや君の戦い方を見ていて思い付いた仕様がいくつかあるんだ」


 きょとんとしているアーシュにサイラスは続けて。


「調整は要るだろ? 彼の剣をそのまま君に持たせても十全にその力は発揮できない。君は平均してソードアーツのリチャージにソードアーツを2発半ほど必要としていた。その不足分を補う必要がある」


「え、じゃあディアス兄ちゃんの剣」


「君に貸してあげる」


「ほんとに?! やった!」


 アーシュは思わず嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねた。

その紫の瞳が爛々(らんらん)と輝く。


 と同時にアーシュの意識が完全にれて操作が解除。

100近い魔宮生成武具がどさどさと地面に落下した。


「…………」


 サイラスは落下した武具に視線を向けると、いで半眼でアーシュに視線を戻す。


「ご、ごめんなさい!」


 アーシュは慌てて武具の輪郭りんかくを意識でなぞり直し、操作して空中に浮遊させた。

そのまま武器庫へと戻り、武器をしまう。


「さっきサイラスさんが言ってた、ディアス兄ちゃんだと使えなかった仕組みってどんなの?」


 武器を戻し終えたアーシュがサイラスにいた。


「試作段階な上に彼がそもそも使えなかったから調整もできてないものだけどね。ソードギア、ソードソウ、ソードアーテラリィ、ソードグラインド────」


 サイラスが次々と名前を連ねて。

そしてその仕様を説明し、ディアスの10の剣それぞれにどういった調整をほどこす予定かを楽しげに語る。


「……そうだ。サイラスさんにお願いがあるんだけど」


「お願い?」


「うん────」


 アーシュはこくりとうなずくと、その要望をサイラスに伝えた。


「ふーん。めんどくさい事をさせるね」


 サイラスは肩をすくめて。


「でもいいよ。その方向で調整してあげる。かなり大きくなるけど構わないね」


「うん!」


 アーシュが大きくうなずく。


「改造には一月くらいもらう。君に実際に使ってもらって調整したいから、時々呼ぶと思う。それで、剣が完成したら君はどうするの?」


 サイラスがいた。


「ディアス兄ちゃんを助けに行く。そのために先にエミリア達と合流しないと。…………エミリアとアムドゥス、キャサリンさんは今頃どうしてるんだろ」


 アーシュはサイラスに答えると、エミリア達の事を想って呟いた。

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