9-12
『────やぁ久しぶり。僕のこと、思い出してくれたみたいで嬉しいよ』
カツン、という靴音と共に少年ヨアヒムの声がアーシュの頭の中で響いて。
『状況は分かってる。彼に力を示す、そのために光を使いたい。いいよ、僕の光を君に貸そ────』
「あ、ごめん。それはまた今度で」
その声を遮り、アーシュがソードアーツを放ちながら言った。
『なぜ? 僕の力を貸して欲しいから僕を呼んだんじゃないのかな? 僕は君が無条件に好きだし、僕とお喋りしたいと言うんなら嬉しいけどね』
アーシュに語りかけるヨアヒム。
「え、ごめん。なんて?」
だがアーシュは意識のほとんどをサイラスに向けているため、彼の言葉は半分もアーシュの頭に入らない。
『君が好きだ。何して欲しい?』
ヨアヒムが改めて簡潔に述べた。
「その力の使い方だけを教えて欲しいんだ」
『光を使うのなら僕の光も使った方が効率的だと思うけど?』
その姿は見えないが、アーシュにはヨアヒムが首をかしげたのが気配で分かった。
『君が今その身に宿してるのは残滓に過ぎない。今の君の光では発動できて1度が限度だよ』
「でもヨアヒムの力を借りちゃったら、おれの力にならない」
アーシュはサイラスの瞳をまっすぐに見つめて。
「おれ自身の力で認めてもらわなきゃいけないんだ。だからお願い」
『うん、分かった。いいよ、僕は人間のそういうところが好きなんだ。なら使いたい時に声をかけて欲しい。僕がサポートする。1度体験すれば任意で君も操れるようになると思う』
「ありがとう」
アーシュはヨアヒムに答えると同時にソードアーツを発動する。
「ソードアーツ────」
青い炎を灯した銀槍。
帯電する双刃剣。
連続発動のため交互に使っていたソードアーツを同時に発動するアーシュ。
アーシュは両手に握るそれらの武器を投げ放って。
「『その刃、風とならん』」
ソードアーツを発動した状態で武具を射出。
加速する刃をさらにアーシュは意識でなぞって。
柄から刃先までを捉え、コントロールを得ると同時にさらなる加速を生む。
「『その刃、雨たらん』!」
投げ放つ剣を加速させる『その刃、風とならん』。
遠隔による剣の射出と加速を行う上記の派生系『その刃、雨たらん』。
2つの技を重ねる事で放たれた剣は上位技である
『その刃、疾風とならん』と同等の威力が付与された。
風の唸りと共に急加速した刃がサイラスを襲う。
右。
左。
走る視線。
猶予は刹那。
一瞬の選択。
サイラスはこの戦いで自身に貸した枷を解く。
左手の剣で槍を弾こうと。
だが有利属性の付与ができていない。
軌道は逸らした。
しかし同時にサイラスの剣が砕け散る。
そして双刃剣の刃を打つ鎚頭。
その殴打は激しい火花と共に剣身を変形。
刃を柄と分離して無力化する。
対人において最強とも言える武具の無力化。
サイラスはその行使をこの戦いで封じていた。
サイラスは鎚を振るうとすかさず上体を捻り、首を反らして。
片方の刃を失った双刃剣を回避した。
鼻先を掠めるように残された方の刃が過ぎ去る。
サイラスは砕けた剣をすぐさま造り直そうと。
だがその一瞬をアーシュは狙っていた。
得物は砕かれた。
あとは武具の鍛造と研磨の要である鎚と一体となった砥剣を封じる事ができたならと────
「ヨアヒム……!」
アーシュが叫んだ。
それに応えてアーシュの左腕に添えられた手の感触。
同時にアーシュの左腕に幾何学的に走る光。
それはとても冷たく。
そして穢れがなかった。
あらゆる不浄を寄せ付けない。
それほどまでに透徹した輝きがその腕から指先へと集中する。
その光は弾けると一条の結晶となり、サイラスの砥剣を捉えた。
研磨の刃と鎚に触れた途端に青白い結晶がそれらを飲み込む。
「…………!」
サイラスは花弁のように折り重なる結晶に飲まれた砥剣を見て。
次いで自身に覆い被さる大きな影に気付いた。
見上げた先には大きく渦を描く武具の山。
それらが一斉にサイラスの周囲に降り注ぐ。
サイラスは身動きを完全に封じられた。
目だけで青白い結晶を見て。
「へー、それは俺も知らないな」
次いでアーシュへと視線を向ける。
アーシュは激しく肩で息をして。
その艶やかな黒髪が頬や額に貼り付いていた。
流れる汗が額から頬、顎先へと滴る。
「星の使者の……光?」
2人の戦いを見守っていたラーヴァガルドが呟いて。
その声音は微かに震えていた。
やりきった表情のアーシュに不安げな眼差しを向ける。




