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8-31

「最悪の事態になりましたね」


 ギルベルトがディアスを睨みながら言った。


「…………」


 ディアスはギルベルトに答えない。

答え、られない。

すでにその身体は右目を中心とした顔の一部しか残っていなかった。


 ギルベルトは周囲の刃に視線を移した。


 そこには空中に浮かぶ鈍色にびいろの冷たい刃。

刃はゆっくりと回っていた。

そして時折ぐると加速して回転。

刃がその刹那せつなに肥大化して。

同時に不規則に刃の側面から1つ、新たな刃が突き出す。


 ぐるん、と刃はなおも回る。

ぐるん、ぐるん、ぐるん、と回り続ける。

刃はぐるぐるとその回転する速度を上げて。

ついにはぐるるるるると最高速度を維持したまま回り始めた。


 波打つように回る斬擊の塊。

それらは互いに干渉することなく、だが触れたそれ以外のものを容易く切断する。


 ギルベルトが視線を戻すと、すでにディアスの姿はなかった。

無数の斬擊の中心で、空中に浮かぶ禍々《まがまが》しい黒の魔結晶アニマと、それに寄り添うように取り付いているアムドゥスだけが残っている。


「ギルベルト様、これ以上は…………」


 恰幅かっぷくのいい冒険者が言った。

彼も、他の冒険者や魔人も肥大化する刃に攻撃を続けて抑え込もうとしているが、刃は砕けた側から再生、成長を繰り返している。


「ダメだよ!」


 スカーレットがシアンの声音で叫んだ。


「…………あの魔物がいなきゃ取り戻せない。私はシアンを必ず取り戻すの!」


 スカーレットは泣きそうな声で言うと、刃と刃の隙間をくぐってアムドゥスのもとへ向かおうと。

だがその手をギルベルトが掴んだ。


「一度出直します。このままでは全滅してしまう」


「でも!」


 スカーレットが激しくかぶりを振る。


「大丈夫です。私を、信じて」


 ギルベルトの琥珀色の瞳がまっすぐスカーレットの瞳を見つめた。


「…………分かりました。…………そうだよ、ねぇちゃん。引き際も肝心だ。まぁ、ねぇちゃんの胸は引っ込んだままだけどね」


 スカーレットは悔しそうに涙を流しながら、そして同時にシアンの声音でけらけらと笑う。 


「うるさいわよ、愚弟!」


 悔しさと笑いと怒りとがぐちゃぐちゃに混じり合った顔でスカーレットが言った。

その姿を見つめるギルベルトの瞳には深いあわれみが浮かんで。

スカーレットを掴むその手に力が込もる。


 いでギルベルトは顔を上げた。


「これから『第3世界(イルセスタ・モンド)』のテクスチャで一時的に周囲を上塗りします! 長くはたないので迅速に脱出を!」


 ギルベルトはそう言うのと同時に宝杖剣ほうじょうけんを掲げて。

柄の先にあしらわれた宝玉に光が灯ると、その剣の切っ先を地面に打ち付ける。


 剣の切っ先を中心に景色が青く染まった。

魔宮の跡も永久魔宮化する千剣魔宮インフェルノ・スパーダもその姿を消して。

ギルド本部の地下であったはずのその頭上には水色の空とあおい結晶の雲。

周囲には赤い脈の走る灰色の樹木と真っ青な草花が生いしげっている。


 突如として辺り一帯を包んだふるき世界の残像。

だがその輪郭は不確かで、時折肥大化を続けて回る刃の影がちらついて。

遥か遠くから響くように風切りの音が連なっている。


 ギルベルトはすかさず駆け出した。

スカーレットの手を引きなら、肩越しにアムドゥスがいるであろう辺りを一瞥いちべつ

確かにそこには景色に重なるようにぼんやりと浮かび上がるアムドゥスと魔結晶アニマの姿がある。


 アムドゥスは塗り重ねられた世界の裏側からその上に投影された世界を。

そしてその空間を使って逃走する冒険者と魔人達の影を見ていた。


「ケケケ、にしてもこいつはひでぇ裏切りだぜぇ? ブラザー」


 アムドゥスは残された黒い魔結晶アニマに向かって語りかける。


「嬢ちゃんに信じろって言っておいてこれだからなぁ」


 アムドゥスはそう言うと周囲を見渡し、すぐに魔結晶アニマへと視線を戻す。


「挙げ句、俺様も取り残されちまった。ケケ、別に永久魔宮化するお前さんの最期に俺様が付き合う道理はなかったのによぉ」


 溜め息混じりに呟いた。


「結局お前さんはネバロのとこにたどり着けなかった。俺様はうっかり、ホントにうっかり契約のタイミングを逃して魔結晶アニマだけになったお前さんの成れの果てと一緒だぁ。まぁ────」


 アムドゥスはその小石ほどの大きさ(・・・・・・・・)魔結晶アニマを見て目を細めて。


「ブラザーが嬢ちゃんの気持ちを裏切った裏切り者かどうかはまだ分からねぇ。嬢ちゃんにあの大剣を託したのも考えがあっての事か、それとも単純に嬢ちゃんの盾にするために渡したのか。ケケ、なんにせよ俺様は待つだけだ。お前さんの成れの果てが朽ちるまで。あるいは誰かが俺様を連れ出しに来るまでなぁ」


 アムドゥスは翼で魔結晶アニマを包む。


「…………ったく、お前さんはホント何も言わねぇよなぁ。いつだって突然で説明もない」


 苛々《いらいら》とした口調で言って。


「…………だからよぉ俺様もブラザーの事、期待しても──信じてもいいのかぁ? ケケケケ」


 いですがるような声で。

寂しそうな声で、呟いた。

 閲覧ありがとうございます。


 次の章では永久魔宮に飲まれたディアスを救い出すため動き出すエミリア。

しかしディアス復活にはアムドゥスを狙うギルベルトと、ディアスの魔結晶アニマを狙うコレクターの存在が大きな障害となります。

さらに長きに渡る封印から解き放たれた【黄鍵の魔王】。

意識を取り戻したアーシュは力を得るためにある勇者のもとを訪れ、10の剣を自分に継がせて欲しいと頼みます。

そしてディアスの永久魔宮のもとに、それぞれの思惑が集う……!


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