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「イヒヒ、本当は分かってるんだろ? 永久魔宮化だよ」
スライムが笑い声と共に答えて。
「あいつは魔力を使い過ぎた。ボクのスペルアーツみたいな相手を確殺する能力もなしに、純粋な戦闘力であいつらと渡り合うのは素直に称賛するよ。でもその能力を発揮し続けるだけの蓄えがなかった」
スライムは壊されたキューブへと意識を向けた。
その中に高圧状態で封じ込められていた小型の『支配の冠』が溢れ出し、次々と王冠を形作る。
次々と現れる魔物の姿に警戒するエミリア。
スライムは身体から白い光を放って。
「あいつらはボクの下僕だ。あいつらに時間を稼がせる」
白い光を受けた『支配の冠』が道を開ける。
エミリアは壁に埋まったハルバードをすれ違い様に回収して。
「止められないの?」
背後を振り返りながらエミリアが言った。
その視界は通路を塞ぐように移動する王冠型のスライムに遮られて。
その間際にディアスと目が合ったような気がする。
その瞳には明確な意志のようなものが感じられた。
「無理無理。始まったら最後、永久魔宮化は止められない」
スライムが答えた。
「それにあそこにはまだアムドゥスがいるの!」
エミリアはスライムから飛び降りようともがくが、その体は粘り気を帯びたスライムの体にしっかりと掴まれている。
「今から戻るのは自殺行為だよ。それにもしここで原初の魔物の一欠片を回収してもギルベルトにとられる。本来のボクならお前が足止めしてる間にお前もろとも皆殺しにだってできたけど、今のボクはスライムだ。勝ち目がない。なら1度永久魔宮の中に残しておいた方が安全だ」
「永久魔宮化に飲み込まれちゃったら?」
エミリア達のあとを追ってきたギルベルトの配下と『支配の冠』が戦闘を開始したのを遠目に見ながらエミリアが訊ねた。
「永久魔宮化を解除すればいい。理論はすでにある」
スライムの言葉にエミリアは目を丸くする。
「え、できるの?」
「もちろん。ボクを誰だと思ってるんだ」
「スライム」
エミリアは前のめりになって。
スライムの進行方向。
顔に相当するであろう場所を覗き込む。
「本当にそんな事ができるの?」
「イヒヒ、理論は完璧だ。課題はいくつか残されてるけどねぇ」
その時。
立ち塞がる王冠型のスライムを貫いて。
放たれた巨大な魔力の矢がエミリアとスライムに迫った。
スライムはとっさにエミリアを抱えたまま横に跳んで回避。
だが掠めてすらいないのに、その圧縮された魔力の塊は横を飛び去った余波だけでスライムの体表とエミリアの肌を焼く。
エミリアが背後を振り返ると、その先にはさらに次々と迫るいくつもの矢。
「くそ」
スライムが呟いた。
次いで床から壁、天井へと通路全体を大きく使って。
壁から壁へと跳ね回り、天井を這って逃走を続ける。
「…………これならどうでしょう」
恰幅のいい冒険者は構えた大弓を引き絞りながら言った。
その周囲は永久魔宮化によって形を変え、肥大を続ける刃に囲まれつつあって。
だがその集中力には乱れがない。
そして放たれたの放射状に拡がる拡散矢。
広範囲にばら蒔かれた矢が通路に繋がる壁に雨のように降り注ぎ、通路に吸い込まれた矢がエミリアの視界を覆う。
「おろして! あたしの魔宮で」
「無理だ! ここの通路には魔宮封じが……あークソ!」
スライムは回避が不可能と悟ると悪態をついた。
諦めたスライムの歩みが止まる。
迫り来る無数の矢。
拡散したことでその1つ1つの威力は先ほどまでのものと比べて減衰しているが、これだけの数を捌くのは不可能で。
だがエミリアは諦めない。
眼前を覆う数多の魔力の矢を凝視する。
「────『その刃、疾風とならん』」
拡散矢の先から射出される白い巨剣。
その刃にはいくつもの自食の刃がくくりつけられていて。
それらは変質しつつあるが、未だディアスの一部としての機能が残されていた。
その刃を次々と切り離すようにして『その刃、疾風とならん』を連続発動。
加速に次ぐ加速を繰り返す。
最初の加速からコンマ1秒。
幾重にも重ねられた加速が衝撃波を生んで。
その刃は拡散矢を追い抜き、エミリアとスライムの傍らに突き刺さる。
エミリアはすかさずその真っ白な大剣に手を伸ばして。
その剣を引き抜き、剣の腹を向けて盾のように構えた。
その魔封じの力は飛来する魔力の矢を無効化する。
「イヒヒ、やっぱりお前を連れてきて正解だった! よし、行くぞ!」
スライムはすかさずまた通路を駆け抜ける。




