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8-29

 ディアスの瞳から燃え上がる鮮烈な赤の光。

周囲一帯に網の目のように走っていたディアスの千剣魔宮インフェルノ・スパーダから一斉に直下そそり立つ無数の刃。

幾重にも枝分かれしながら拡がる刀剣が、冒険者も魔人も分けへだてなく飲み込もうと。


 だが冒険者と魔人は容易くその刃を打ち払う。


 歴戦の冒険者が振るう一刀はい茂るような刃の森を刈り取って。

放たれた一矢いっしは折り重なる刀剣の壁に大穴を穿うがち。

打ち付けられた戦鎚せんついの一打が斬擊の波を押し返し。

突き出された槍の穂先ほさきが幾重にも連なる鈍色にびいろの閃きを斬り払った。


 魔人は魔物を召喚する。

魔宮を展開する。

得物をその手に生み出す。

多種多様な魔物と魔宮、その特色を色濃く反映した武具がディアスの攻撃を防いだ。


 そして繰り出される鉄拳。

ギャザリンが素早いジャブを放ち、次々と迫る刃を打ち砕いた。

それによって一拍の溜めの間が生まれて。

いで放たれる渾身のストレートがギャザリンの眼前の刃全てを粉砕する。


 大振りの一撃と共に前へ前へと距離を詰めるギャザリン。

身体を左右交互に大きくよじりながら拳を繰り出して。

回り込むように背後から迫る刃を捉えると、回転と同時に振り下ろすような裏拳を放った。

そのまま流れるような動作で振り下ろした腕を引いて肘打ち。

振り向き様にえぐるようなストレートへと繋げる。


 ディアスは千剣魔宮インフェルノ・スパーダによる攻撃と同時に刀剣蟲ラーミナを放っていて。


「ソード・テンペスト……!」


 ディアスの声と共に加速する刀剣蟲ラーミナ


 さらに自食の刃を纏わせて形作った腕が剣を握り、その魔力を解き放った。


 激しい剣戟けんげきと怒号と咆哮ほうこうとが入り乱れる。


「ディアス!」


 エミリアが叫んだ。

その体はディアスの操る刀剣によって出入口の廊下の方へと押し流されていて。

エミリアは流れにあらがおうとするが、その身体は激流のような刃に飲まれて思うように動かない。


「ディアス!」


 エミリアが再度叫んだ。


 遠ざかっていくディアスの姿。

その手には召喚した真白ノ刃匣(マシロノハゴウ)が握られていた。

肉体を構成する自食の刃のほとんどは刀剣蟲ラーミナまとわせ、いくつもの手を形作って。

その手が握る剣が次々とソードアーツを放つ。


 ディアスの肢体の欠損をアムドゥスが補っていた。

ディアスの上顎から下全てをアムドゥスがにない、その背からは巨大な眼が浮かぶ黒い翼が3枚。

胸元にはぽっかりと穴が空き、魔人ディアスの心臓部である禍々《まがまが》しい黒の魔結晶アニマが覗いている。


「『偽りと欺瞞の偶像ブレイヴ・ディセプション』」


 ディアスは次々と襲い来る冒険者と魔人の攻撃を、ソードアーツによって無効化した。

勇者のイメージを具現する白い大剣。

その剣閃が描いた白い宇宙そらに飲まれた攻撃が無数の星々のようなまたたきを生む。


 ディアスは歴戦の冒険者と高難度相当の魔人を相手に拮抗きっこうしていた。

冒険者として培った技能とソードアーツを操る魔人という特性、双方を活かす確立された戦闘スタイルを得て。

さらにアムドゥスの補助を受けて最大限に増強されたその能力はギルベルトの予想を遥かに超えて強大。

その力は【白の勇者】であった頃のディアスに比肩ひけんする。


 さらに一対多の戦闘においては当時以上の能力を誇る魔人ディアスの完成形。


 だが一点。

継戦能力においては当時のディアスに大きく劣っていて。


────そしてそれは、突然起こった。


 激しい戦闘の喧騒けんそうが突如として消えた。

聞こえるのはくぐもったような低い旋律。

いでそれは甲高い絶叫へと変わる。


 刹那せつな

周囲の音さえ斬り裂いて。

自食の刃が、弾けた。

より合わさっていた無数の刃が四散し、その刃1つ1つが形を変える。


「…………イヒヒ、どうやら始まったみたいだねぇ」


 エミリアのかたわらで声がした。


「逃げるんだろ? なら手を貸しなよ。ボクも協力してあげるからさ」


 エミリアが声の方を横目見て。


「え、スライム……?」


 エミリアの視線の先には透明なスライムの姿。


「説明してる暇はない」


 スライムはそう言うと少年の形へと変わった。

エミリアの手を掴み、そこからまた形が崩れるとエミリアの体を這って。

エミリアを飲み込む千剣魔宮インフェルノ・スパーダの刃を払いける。


 そのままスライムはエミリアの体をすくい上げ、出入り口の廊下の方へとはしった。


「待って!」


 エミリアがスライムに言った。


「始まったって、何が始まったの? ディアスに何が起きたの?!」


「いいからハルバードで廊下に埋まってる銀のキューブを壊して」


 スライムはエミリアに答えない。


「ねぇ!」


「このままじゃ巻き込まれるんだよ。早く銀のキューブを────」


 スライムが言い終えるよりも早く。

エミリアは青のハルバードを投げ放った。

回転するハルバードが廊下の壁面を削り、そこに埋まる銀のキューブを次々と砕いていく。


「何が起きたの?」


 エミリアが再度()いた。

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