表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

275/397

8-20

 シオンは砥剣とけんをぽいと投げ捨てた。

代わりにくわえていた剣を手に取って。

両手の剣を低い位置で交差させて構える。


 わずかな動作で斬擊を生み、それを連鎖、あるいは複製するシオン。

2ついの赤の双眸そうぼうがその挙動に最新の注意を向けて。

そしてその研ぎ澄まされた五感が捉えたのは風切りの音。

だがそれはシオンからではなく、ディアスとエミリアの背後からで。


 それは次々と飛来する弓矢。

緩やかな弧を描き、その鋭い切っ先が空を切って迫る。


 ディアスは背から『千剣魔宮インフェルノ・スパーダ』の刃を連ねるとそれらを斬り払った。

斬り払われた矢がバラバラと崩れ落ちて。

同時に2人から大きく狙いのれた矢が周囲に突き刺さる。


「あそこだ!」


「包囲しろ!」


「絶対に逃がすな!!」


 見れば町の衛兵達が周囲を取り囲んでいた。


「スペルアーツ────」


 そして衛兵達の後方から。

冒険者の少女が杖をかかげ、スペルアーツを発動した。

矢継ぎ早に詠唱を連ねる少女。

その隣に立っていた女冒険者は次々とバフを付与され、全身に鮮やかな光を明滅させる。


 その女が前へとおどり出て。


「『その剣閃(ソード・)、稲光を放ちて(ライトニン)』……!」


 ひるがえる長い髪。

放たれる抜剣斬擊(ブリッツ系)の上位剣技。

彼女の握る剣が腰に下げた鞘から抜き放たれると、それは夜闇を裂く一条の閃光となる。


 ディアスはその剣閃を捉えると同時に『千剣魔宮インフェルノ・スパーダ』の刃を重ねて盾に。

だが放たれた剣技がその刃の盾へと衝突する間際。

轟音と共に放たれた弾丸が展開した刀剣を穿うがった。

衝撃と共に、波紋はもんを描くように飛散する刃。

いで無防備になったディアスの背へと雷光のような剣閃がはしる。


 すかさず刃を再形成するディアス。

生み出された刀剣の切っ先によって『その剣閃(ソード・)、稲光を放ちて(ライトニング)』の直撃は免れて。

それでも背中にダメージを負い、その身体を構成する自食の刃が剥がれ落ちる。


「次弾いくよーん」


 遠距離からディアスを見据える冒険者が呟いた。

火筒ほづつに魔物の甲殻から形成した弾丸と魔宮生成物である爆薬を込め、その細長い箱のような得物を構える。


 撃鉄も引き金もないそれは、高い爆発力を弾丸の一点に集中して射出させるためだけのもの。


「スペルアーツ────」


 冒険者は狙いを定め、再びその凶弾を放つ。


「『爆発魔象イクスプロード』」


 銃身の中でスペルアーツが炸裂。

その爆発が爆薬を点火させ、轟音と共に弾丸を吐き出した。

空気を歪め、唸りを上げて。

その弾丸がエミリアの肩に命中する。


 エミリアにまとっていたアムドゥスが弾丸を受けて弾けた。

エミリアの肩から腰にかけてその身体が破れ、ぼろ布のようにたなびく。


「ああん? なんだ今のは?」


 破れた身体をつくろい直し、アムドゥスが言った。


火筒ほづつ。携帯可能な大きさに縮小された大砲みたいなものだ」


 ディアスが答えて。


「もっとも俺が冒険者をやっていた頃は対人用で威力も低いし、特注品で一般の冒険者が手にできる代物しろものでもなかった。魔人飼いによって素材の安定供給が可能になったんだろう。俺が知ってるものより威力も遥かに高い」


「どうする? ディアス。どんどん集まってきてる」


 エミリアがたずねた。

周囲を取り囲む冒険者の数は今も増えつつある。


 周囲にもより警戒を向けたディアスとエミリア。


 十全に向けられていた意識の一部が分散したのを察し、シオンも動いた。

ディアスとエミリアの視界から消え去るシオン。

その姿を探そうと2人が視線を走らせるより早く、無数の斬擊が2人を襲う。


 その刃はディアスとエミリアの胸をなぞるように閃いた。

その軌跡に連なる残像が質量を持って次々と襲い掛かる。


「『千剣魔宮インフェルノ・スパーダ』……!」


 ディアスは斬擊を受けた箇所から幾重にも刃を生み出し、その斬擊を相殺そうさいした。

だがエミリアは受けた斬擊を払うすべがない。

その小柄な体を包むアムドゥスが引き裂かれ、その下の肌を削っていく。


「…………っ!」


 顔を歪めるエミリア。


「アムドゥス!」


「ケケ、分かってるぜぇ! 『黒き翼、宵闇を招くスプレッド・ディスペア』!」


 ディアスの呼び掛けにこたえ、アムドゥスは自身が形成する黒のワンピースから巨大な翼を形作った。

その翼が斬擊を払うように振るわれ、尾を引いた深い闇が斬擊を飲み込んで。

いでその闇がシオンへと迫る。


「へー」


 シオンは半眼でアムドゥスの生んだ闇を見ると加速。

再び2人の目では追いきれないほどの速度で体をよじりなら前へ。

アムドゥスの振るう闇の下をい潜り、すれ違い様に剣を振り抜く。


 トン、と靴音。

ゆったりとした動作でその勢いを殺すシオン。

ウェーブがかった髪と上着の大きな青い袖が揺れて。


 同時にまたたくような斬擊。


 さらには周囲からも次々と攻撃が飛んでくる。


「くそ」


 ディアスはおびただしい数の刀剣蟲ラーミナを生むと周囲を縦横無尽に飛翔させた。

刃のカーテンの死角でアーシュのもとに向かおうと。


「ほら、隙だらけ」


 だがシオンの斬擊がディアスを阻む。


 エミリアはシオンへと青のハルバードを振るった。

体をひねり、重心を移動させてその斧刃ふじんに力を乗せる。


「かわすのは容易い」


 シオンは呟きながら双剣を構えた。

両手に握る剣を交差させるように振り上げて。


「────だが、シオンがかわすまでもない」


 いで耳をつんざくような甲高い音。

弾けるような数多の剣閃。

数えきれないほどの斬擊が一瞬のうちに生まれ、エミリアの攻撃を弾く。


 さらに刀剣蟲ラーミナの群れを貫いて弾丸が襲ってきた。

魔物の群れの先から、その瞳の赤の光を頼りに次々と攻撃が放たれる。


「こりゃ結構マズいぜぇ? 周りの奴らをまとめてぶち殺せば楽になんのによぉ」


 アムドゥスが呟いた。

だがディアスもエミリアもそれをしない事をアムドゥスは分かっている。


 防戦一方のディアス達。

その間にも衛兵や冒険者からの攻撃が、瓦礫がれきにもたれているアーシュの脇を何度もかすめた。


「このままじゃアーくんが!」


 エミリアはアーシュに向かって駆け出した。

だがシオンの斬擊がその行く手を遮る。


 シオンはアーシュの前に陣取った。

ディアスとエミリアを牽制けんせいしつつ、確実にその体力を削る。


「…………うっ」


 レベッカはうめき声を漏らすと、こめかみを強く押さえたまま歩き出した。

体を低くかがめたまま、アーシュの上着を掴むとそのままズルズルと引きずって。

流れ弾や攻撃にアーシュが巻き込まれないよう離れた位置へと向かう。


 その様子をシオンは肩越しに睨んだ。

だが肩を落とすとディアスとエミリアに視線を戻す。


「シオンはめんどくさいのは嫌いだ。いい加減、おとなしく死ね」


「やーねぇ」


 その時。

野太い裏声が響いてきて。


「嫌い、嫌い、嫌いって嫌いなものばっかじゃないのよ。じゃあ、これも嫌いかしら?」


その声の主は長い三つ編みを左右に垂らし、投げキッスを投げるのと同時に言う。


「『魔象点火イグナイト』」


 周囲に仕掛けられていたスペルアーツがその一声をもって起動。

それは膨大な光を放出した。

周囲を照らし、あらゆるものを飲み込んで。

空までも白い閃光で染め上げる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ