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8-18

「どうでもいい。結局どっちも同じ。好きでやってる事」


 シオンが言った。

ぶらぶらと双剣の切っ先を揺らしながら続ける。


「良いことをしたいやつは自分勝手に良いことをするし、悪い事をしたいやつは自分勝手に悪い事をする。どっちも身勝手なら好きな方をすればいい。シオンはシオンのしたいようにやるだけ」


 ディアスは刀剣蟲ラーミナいしずえに形作った腕を操った。

細かく斬り分けられた宿屋の一角の残骸の中から、青い鱗に剣身けんしんが覆われた幅広の剣──ディフェンダーと片刃の剣を掴んで。

本来腕があるべき位置に重なるように刀剣蟲ラーミナの腕を構える。


「相変わらずだな、シオン」


 ディアスが言った。


「誰」


 シオンは呟くと同時に剣を振るって。

手首を返し、縦に一文字いちもんじに振り上げられた刃。

その剣閃がおどる。

一筋の閃きが幾重にも複製と消失を繰り返して。

放たれた斬擊はまたたきとなってディアスに襲いかかった。


 ディアスは斬擊を回避しようと。

だが思いとどまる。


 ディアスはディフェンダーでその斬擊を受け流した。

振りかぶった幅広の刃を、シオンの斬擊を迎え撃つように振るって。

衝撃と同時に軌道を跳ね上げる。


 散り散りに弧を描いて飛散する斬擊を目の当たりにして、ディアスの背後から悲鳴が上がった。

ディアスが肩越しに背後を一瞥いちべつすると、その先には町の人間が窓から身を乗り出してこちらを見ていて。

ディアスが斬擊を受け流すのではなく、そのまま回避を選んでいたらその身体は斬り刻まれていただろう。


「ホントに相変わらずだな」


 舌打ちを漏らしてディアスが言った。


「シオンて、前に言ってた【青の勇者】のシオン?」


 エミリアがいた。

未だに自身の小さな身体でアーシュをかばいながら、シオンとレベッカを睨んでいる。


「ああ」


 ディアスは答えると周囲に素早く視線を切った。

すでに周囲には混乱が広がり始めていて。

青の月が煌々《こうこう》と輝く明るい晩だが、それでも夜の闇の中で魔人の発光する瞳はやはり目立つ。


「魔人だ!」


「あの目、魔人だわ!」


「魔人が襲ってきた!?」


魔人の存在に気付いた人から恐怖と混乱が伝播でんぱしていった。

ついには町中に警鐘けいしょうが響き渡る。


「ケケケ。面倒な事になったなぁ、ブラザー」


 アムドゥスが言った。

その額の瞳には虹色の光が走り、シオンを捉えている。


「エミリア、アーシュの傷は?」


「脚の傷が深そう。それ以外はキャサリンの『治癒活性キュアー』で大丈夫そうだけど、この傷はポーションが要るかも。なんにしても早く治療しないと」


 エミリアが答えると、ディアスは狼狽ろうばいしているレベッカに視線を移して。


「レベッカ」


 ディアスに名前を呼ばれ、びくりと肩を振るわせるレベッカ。

レベッカが身をすくめながら視線を返すと、ディアスが続ける。


「俺達2人は魔人だ。別に俺達を襲った事をとがめるつもりはない。だがアーシュは人間だ。シオンの相手はしてやる。だからその前にアーシュの治療をしてもらいたい。アーシュは体力もかなり衰えていた。このまま出血が続けば死んでしまう」


「わ、分かったっス────」


 レベッカはうなずいてひとまずアーシュ身柄を引き取ろうと。

だがその脇をかすめるように斬擊が閃いた。

またたくような連なる剣閃。

それはエミリアとアーシュへと襲いかかる。


 エミリアは斬擊を捉えると手を伸ばした。

放たれた斬擊を素手で受け止める。


 最初の襲撃時の斬擊ではほとんどダメージを負うこともなかったエミリア。

だが今回は剣閃が消失しない。

そしてその攻撃は連続して受ける度に威力を増していった。

ついにはエミリアの腕に傷が走って。

いでその腕からビシャリと鮮血が舞う。


「つっ…………!」


 エミリアから苦悶くもんの声が漏れた。


「シオンさん?!」


 レベッカが剣を振るったシオンに向かって声を荒らげる。


「うるさいな」


 シオンはさらに次の追撃のために剣を振りかぶった。


「ダメっス!」


 レベッカは剣を振りかぶるシオンの腕に飛び付いて。

必死にその腕にしがみつき、剣を振るわせない。


「邪魔」


「邪魔、じゃないっスよ! 何してるんスか、あの男の子を殺す気っスか!」


「あいつらはあの子供をかばってる。戦いにおいて相手の弱点を突くのは最良。シオンの行動は有効だ」


「そんなの無効っス!!」


 レベッカが叫んだ。

シオンが思わず忌々(いまいま)しげにレベッカを見る。


 その時、床を蹴る音。

白い髪をなびかせ、その瞳は赤い光の尾を引いて。

エミリアがシオンへとおどりかかった。

エミリアは払う事も抑え込む事もできない斬擊をその腕にたたえたまま。

その腕をシオンへと叩きつけようと。


 シオンがエミリアへと視線を向けた時には、自身の放った斬擊が逆巻く腕が眼前に迫っていて。


「ふぅん」


 シオンは躊躇ためらいなく、腕にしがみつくレベッカを盾にする。


「え」


 迫るエミリアとその腕に気付いたレベッカは血の気が引いた。

その一瞬の間に死を覚悟する。


「────エミリア!」


 ディアスの声。


 エミリアはディアスの制止を受けて腕を引いた。

空中で無防備となるその胴目掛けて、シオンはレベッカがしがみついていないほうの鈎状の剣身けんしんの剣を振るって。

袈裟けさに斬り上げた刃がエミリアの腹を斬りつける。

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