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8-17








 レベッカと別れたあと、すぐに宿屋へと向かったディアス達。

チェックインを済ませ、ディアス、エミリア、アーシュの3人とキャサリンとで2部屋に別れていた。


 3人はすでに(とこ)いて。

エミリアがアーシュを抱き寄せ、その黒髪に白く細い指を滑らせる。

アーシュはぼんやりと虚空こくうを見つめていたが、その表情は心なしか穏やかだった。

ディアスがその隣に横になり、アムドゥスはディアスの顔の前に腰をおろしていて。

アムドゥスが動く度に尾羽の先がディアスの鼻の頭に当たる。


「…………」


 目をつむったまま身動みじろぎ1つしないディアス。


 アムドゥスが動く度に尾羽の先がディアスの鼻の頭に当たる。


「…………」


 眉間にしわを寄せるディアス。


 アムドゥスが動く度に尾羽の先がディアスの鼻の頭に当たる。


「…………」


 ギリッと歯を軋ませるディアス。


 アムドゥスが動く度に尾羽の先がディアスの鼻の頭に当たる。


「邪魔くさ────」


 ディアスが体を起こすとともに。

だが次の瞬間。

ディアスの声を飲み込み、辺り一帯に轟音が響き渡る。

それは宿屋の一角が吹き飛んだ音。

無数の斬擊が連なり、ディアス達のいた部屋を襲った。


 その音に周囲の建物から住人が顔を覗かせ、宿屋の店主も何事かとディアス達の部屋の方へ。

そこには双剣をたずさえる水色の髪の青年──【青の勇者】シオンがいた。

シオンは気だるげな表情を浮かべていて。

だらりと垂らした腕の先には、その面持ちとは対照的な研ぎ澄まされた刃。

薄氷のように薄く鋭利な刃が青い月光を受けて冷たく輝いている。


 その双剣は刃渡り1メートル弱ほどの片刃の剣と、緩やかな曲線からかぎのように反った刃が特徴の全長50センチほどの剣からなっていた。

鉱石質の刃には微細な凹凸がいくつも亀裂のように走り、その薄さと相まってあまりにももろく儚く見える。


 シオンはゆるりと体を体を揺らし、頭を傾けてた。

ウェーブがかった水色の髪が顔にかかる。


「シオンさん!!」


 名前を呼ばれ、シオンは声の方へと振り返った。

シオンが半眼でやかましそうに睨んだ先には、慌てて駆けてくるレベッカの姿。


「何やってるっスか!?」


「なに?」


 シオンは肩をすくめて。


「シオンはお前がやれとうるさかった依頼をこなしてる」


「町の中で戦闘を始めるなんて非常識っス! 明日の朝発つのは分かってたんだからそこを待ち伏せようってウチは言ったっス!! 巻き添えを食った人がいたらどうするんスか?!」


「知らない」


 無責任に言い放つシオン。


────その時。

未だ土煙の舞う先からは唸りを上げて。

飛来するのは投げ放たれ、高速で旋回する青いハルバード。

その重厚な斧刃ふじんがシオンの首を捉えていた。


 斧槍ふそうを捉えると目を見開くレベッカ。

だがすでに声を発する間すらない。


 青い殺意。

それはシオンの首をはね飛ばそうと。

だがシオンの顔に浮かぶのはただただ気だるげな表情だけ。

いでシオンは右手に握る剣をわずかに振るった。

ヒュンと風切りの音。

手首のスナップだけで振るわれた刃。

その刃は空を切るが、その斬擊は躍る。


 振るわれた刃から斬擊が連なりながらはしり、青のハルバードを突き上げて。

目では追いきれないほどの斬擊が刹那せつなの間に閃いた。

またたくような鋭い輝き。

その一撃ごとに鋭い剣閃が威力を増し、ついには凄まじい膂力りょりょくで投げ放たれた斧槍ふそうを弾く。


「……はぁ」


 シオンは大きなため息とともに土煙の先へと視線を向けた。

その先には禍々(まがまが)しい赤の輝きが4つ。

土煙煙が晴れると、そこにはむべき赤をその眼孔がんこうに燃やす魔人が2人。

ズタズタのキャミソールを身にまとうエミリアと刃に飲まれた肢体をさらすディアスの姿があって。

その身体にほとんど傷がついていないことをシオンは確認する。


「思いのほか、頑丈。シオン、めんどくさいのは嫌いだ」


 ディアスとエミリアを交互に見るシオン。


 だがレベッカは2人よりも、エミリアの抱くアーシュの姿に目を奪われていて。

かばうように覆い被さったエミリアの陰から伸びる細い手足はシオンが最初に放った斬擊によって受けた傷があった。

流れ出た真っ赤な血潮ちしおが月光の青と混ざって不気味な色に映る。


「ああ、そんなっス…………」


 レベッカは口許くちもとを手で押さえ、かぶりを振った。

怒りの形相を浮かべるエミリアと目が合うと泣きそうな顔になる。


「人が一緒だって……ウチは…………」


「知らない。シオンには関係がない」


 シオンはディアスとエミリアを見据えたまま続けて。


「やらなければならない。やらないと今の生き方を維持できない。そうシオンをき付けたのはお前。お前の招いた結果。シオンにはなんの落ち度もない。どうだ? 思い通りの結果になって満足したか?」


 酷薄こくはくな笑みを浮かべるシオン。

レベッカはその言葉に膝から崩れ落ち、嗚咽おえつを漏らす。

もしエミリアがとっさに身をていしてアーシュをかばっていなかったら。

その最悪のもしもを思うと震えが止まらない。


「これじゃ、これじゃあ、ウチらが悪者みたいじゃないっスか…………」

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