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エミリアはそれを聞くと感心して。
だが次いで首をかしげる。
「けけけ、でもそれって最初からAランクの剣に同じ強化をした方が強いよね?」
「お嬢さん、それは禁句っスよ。確かに効率的ではないっスけど、そこには浪漫があるっス」
そう言って握り拳をギュッと握るレベッカ。
そしてレベッカに続いてディアスとキャサリンが言う。
「それに高ランクの装備の入手はエミリアが思っている以上に難しい。高ランクの魔宮から装備を持ち帰るとなるとかなりの手練れの冒険者か、大規模なパーティーを必要とする。だが後者だと入手した装備などの分配でもめたり、必然取り分は少なくなる」
「それに高ランクだから強いとも限らないわよ。かなり限定的だったり変則的なソードアーツも増えるもの。ランクが上がれば稀少度は上がって価値も上がるけど、実用性はあまり比例しないものよ。だったら取り回しの良い武器に強化してくのも選択肢として全然ありよ」
2人の言葉にレベッカはうんうんとうなずいて。
「あとは一部の顧客には低ランクの装備で高ランクの装備保有者より活躍するのを何よりも楽しみにしてる人もいるっス。入手機会が限られる以上、高ランク装備の所持者はコネクションか金にものを言わせてる人が多いっスからね」
レベッカは過去の客の姿と彼らの語る話を思い出す。
「高ランク装備で固めてる冒険者が手も足も出ない魔物を『炎よ斬り裂け』とか『刃は2度閃く』とかのソードアーツで倒してどや顔をするのがたまらないって言ってたっス」
「本当に最低ランクのソードアーツね。一体どれくらいの精錬や改造をすればそこまでのものになるのかしら」
キャサリンが頬に手を添えながら呟いた。
「ウチが知ってるのだと剣身をまず完全に別素材に変更。さらに精錬をガンガン重ねて、ソードアーツの炎も刃先に集中させるよう刃を調整。あとは優秀なバッファーを3人くらいつけてるって言ってたっスね」
「そこまでしてまで低ランクにこだわるって凄いね、けけけけ」
苦笑するエミリア。
「実績も能力もなくて金とコネクションだけのやつの鼻を明かしてやりたいって気持ちは分からなくもないっスけどね。武具の研磨だって砥剣のランクが高いほどそりゃ効果は高くなるっス」
レベッカは徐々にその発言に怒気を孕んで。
「高ランクの砥剣の一撫でと鍛造の砥剣の一撫でとじゃ効果が違うのに、本人の技量やスキルよりも高ランクの砥剣使いのが優秀みたいな風潮どうにかして欲しいっス!」
レベッカは苛立たしげに地団駄を踏んだ。
「あんなへっぽこ鍛冶士で一撫でで研磨できるんなら、ウチならかすっただけで研げるっスー!!」
ついにその怒りが噴出して声を荒らげる。
「……ふぅ」
レベッカは一息ついて。
「あとやっぱり基本となる技を極めるのって浪漫だと思うっス」
そう言いながらディアスに剣を返した。
ディアスは受け取った剣を確認すると背中に差す。
「ロマンかぁ」
エミリアは呟くとアーシュに視線を移した。
「けけ、あたし達には分かんないね」
次いでアーシュに声をかける。
「…………」
だがアーシュから返答はない。
「あれ、アーくん?」
虚ろな紫色の瞳をエミリアは覗き込んで。
「アーくん、聞いてる?」
「……うん」
次は返事があった。
「着実に。確実に。そうやって日々の小さな積み重ねが力になるって良いことだと思うっスよ。貴重な素材で精錬を始めた段階で思いがけず良い装備をドロップしちゃってどっちを使ってくか迷う人もたくさん見てきたっスけど。何事も計画性が大事っスね」
レベッカはそう言うと、自分でうんうんとうなずいた。
「けけけ、その計画性の結果、仲間に逃げられたの?」
「うわーん、それは言わないで欲しいっス!」
レベッカは頭を抱えながら体を左右に揺する。
「そのレベッカちゃんを置いていった仲間ってどんな人なのかしら」
キャサリンが訊いた。
「んー、やる気なくて意地悪でめんどくさがりで道徳に欠けたチビで服の着方もだらしなくて文句ばっかしで剣を大事にしなくてウチの事を不潔呼ばわりする失礼極まりないめちゃくちゃ酷い人っス」
キャサリンの問いにまくし立てるように答えるレベッカ。
「凄い、良いところが1つもない!」
エミリアが言った。
「その人は死んだウチの姉ちがパートナーをやってて、ウチはその代わりなんスけど、姉ちがなんであんな人と組んでたか全然分からないっス」
「そしてフォローも無いのね…………」
キャサリンは呆れると肩をすくめて。
「その人の名前は?」
次いで件の人物の名前を訊ねた。
「────」
レベッカはその人物の名前を口にしようと。
だが声を発する前に自身の口を塞いだ。
ふるふると頭を振る。
「い、言えないっス。すでに悪評が広まってるのにこれ以上悪い話をしちゃったらいよいよギルドからバッジを剥奪されちゃうっス」
「ケケケ、とんでもねぇ野郎もいたもんだなぁ」
アムドゥスがディアスのフードの陰で呟いた。
「それは困った人ねぇ」
キャサリンもレベッカに同情して眉間にしわを作る。
「行き先に心当たりはないのか?」
ディアスが訊いた。
「多分街道の先の町だと思うっス。あの人野宿とか絶対に嫌な人だし、一番近くの町は永久魔宮の先の町っスけど、あの人は手続きとかめんどくさがってそっちに行くと思うっス」
「俺達も街道の方へ向かうつもりだった」
「そうだったんスね! ……にしてはちょっと道を外れた場所にいるっスけど。ウチは人を探してたからだとしてお兄さん達は。んー?」
レベッカは首をかしげた。
さらに体全体を使って頭を傾ける。
「まぁ細かい事はいいっス。大事なのはあの人がまた町の人とかに失礼を働いたりする前に捕まえる事っス。食事を恵んでもらっておいてさらにお願いをするのも図々しいっスが、ウチも一緒に連れてってもらえないっスか?」
レベッカは鎚などを腰のベルトに戻すと両手を合わせて懇願する。
ディアスはちらりとアムドゥスを横目見ると、エミリア、アーシュ、キャサリンに視線を向けた。
次いで小さくうなずく。
「ああ、かまわない。鍛冶士となると戦闘に役立つスキルやパラメーターはしてないだろ」
「そうなんスよ。相手が少数の盗賊とかなら得物を無力化する事もできなくないっすけど、徒党を組んでたりはぐれた魔物とかと遭遇したらウチ1人だと下手すると死んじゃうっスよね」
あはは、と乾いた笑いを漏らすレベッカ。
次いでレベッカは小さな鍛冶台をしまい、赤熱していた石を処理して冷ましてからベルトへ。
そしてリュックを背負い直すと数回跳ねてリュックの位置を調整。
その胸が上下に揺れる。
「準備オッケーっス」
レベッカはびしっと敬礼する。
ディアス達はレベッカと共に町を目指して歩き始める。




