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8-12

『私の名はアムドゥス。この私とそこの端末との名前被りがややこしいのなら、私のことは【創始者】と呼ぶといい』


「【創始者】?」


 ディアスが周囲を警戒しながらいた。


「ああ。そこの端末(アムドゥス)がその額の眼で情報の照会を行う創始者(わたし)匣庭(はこにわ)──始まりの迷宮である『世界の設計図(ディザイン・ヴェルト)』を構築したのは私だ。今もなお進化を続け、成長するこの世界の始まりを担った者が私なのだよ」


「世界?」


『魔宮の事だ』


 創始者が答えると、ディアスは小さく鼻で笑う。


「つまり魔宮を生み出した元凶だと?」


『元凶とは、またずいぶんな言いぐさだ』


 創始者の声音には落胆の色がにじんでいた。


「魔宮を生み出した存在だなんて眉唾まゆつばだわ。それを証明できるのかしら」


 そう言っていぶかしげな表情を浮かべるキャサリン。

キャサリンは片手を腰に当てて首をひねる。


『別に証明する必要はない。信じる信じないは君達の判断に委ねる。信じようと信じまいと私の目的の遂行に影響はないのだから』


「目的は人間を滅ぼす事、か?」


『まさか』


 創始者はディアスの言葉を即座に否定して。


『私はこの世界の継続を担う守護者だ。人間の存在もそれに含まれる。もっともこれは自称だし、オリジナルの私の意識はすでにあれ(・・)に呑まれてしまったがねぇ。あれの意識の一部に取り込まれた私の目的は、この私には預かり知らぬところ。それこそ人類の滅亡を画策しているかも知れないし、そうじゃないかも知れない」


「今俺達と話しているあんたは何をやっているんだ」


『何も』


 創始者は答える。


『静観だよ。システムの構築は終えた。だがシステムはあれに深く繋がっている。この私まであれに取り込まれるわけにはいかないからねぇ。本当なら私1人で事を遂行するつもりだった。もし私の意識が保てていたのなら、娘達にさらに魔宮を重ねさせて星を覆わせたりはしなかったとも。全て私がやっていただろう』


「娘達?」


 エミリアが呟く。


『君達が【魔王】と呼ぶ6人の少女がそうだ』


「それって……あなたが魔王に魔宮を拡げさせてるの?」


『いかにも』


「なによ、本当に元凶じゃない……!」


 キャサリンが思わず声を荒らげた。


「どうしてそんな事をするの? なんの目的で?」


 エミリアが質問を重ねる。


『この『第6世界(イルセスタ・モンド)』に生まれた文明の継続と発展のためだがねぇ。1度大きく後退はしたが、今また魔宮によって発展を遂げつつあるはずだ』


「イルセスタ……?」


『世界は自身の成長の限界を悟ると丸く閉じてたまごとなり、その内部に新たな世界を創造する。その世界が完成すると古い世界を破って新生し、また成長を続ける。すでに5回それが行われて現行する世界は6つ目。それぞれの世界を呼びわける名称の1つとして『第6世界(イルセスタ・モンド)』がある。そしてそれは今、たまごの状態だ』


「継続と発展? 滅びと衰退の間違いじゃないか。確かに魔宮生成物なんかの恩恵で昔より豊かになった国もいくらかはあるだろう。だが今も拡がり続ける魔王の魔宮によって人間は大地を奪われ、確実に追い詰められている」


 ディアスが言った。


『大地を、奪われ……?』


 ディアスの言葉に創始者は乾いた笑い声を漏らす。


「何がおかしい」


『いやいや、申し訳ない。だが私は君達に大地を与えた側なのでねぇ。そうでなければ今頃人類は新たな月とともにその影法師となっていただろう』


 そう言って創始者はまた笑い声を漏らして。


『…………そして、人類の継続と発展に魔宮の拡大は必要不可欠。だが7年前、問題が発生した』


 ディアス達の返答を待つしばしの間。

魔宮に関連する7年前に発生した問題となると、ディアス達が思い当たるのは1つ。


「ネバロの魔宮か」


『いかにも』


 創始者はディアスの言葉を肯定する。


『あの子は魔結晶アニマとの結合率が低く不安定だった。そのためにバグ──不具合が生まれ、結果的にあの子と君はこちらの意図しない力を得てしまった』


「魔宮生成武具の装備できる魔人だな」


 ディアスが赤の双眸そうぼうを細めて言った。


『制限を解除して武具の装備を可能にする段階はまだ早い。今はまだ通常の人類と魔人とで競い合い、双方の力を高めて発展すべき段階だ。案の定あの子はその力で暴走し、魔宮の拡大を放棄してゲーセリスィ──【星の使者】へと挑んでしまった。魔結晶アニマを持たないあの子にはもうこちらの声は届かない』


 創始者のため息が静まり返った魔宮に響いて。


『そして君だ』


 創始者は困ったようにうなり、独り言のように続ける。


『あの子の魔結晶アニマを持つ君がその役割を継いで【魔王】となってくれたらまだ良かった。その魔結晶アニマとの適合が進めば君はこちらの声に従うはずだったし。だがどうやったのか君は一向にその役割を果たさない』


 創始者は1度言葉を切った。

それまでのぶつぶつと呟くような不明瞭ふめいりょうな声から、しっかりとした声で。


『確かにこちらの声はディアス( き み )に届いている。だが今言葉を交わしている君には声が届いている素振りがない。はてさて……?』

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