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8-7

 魔力を解放した刀剣蟲ラーミナがその剣身けんしんから光をほとばしらせた。

自身の魔力を燃やし、その刃を性能の限界以上に研ぎ澄ませる。


 柄を握るディアスの手に力が入った。

ディアスはその柄を強く握り締めて。

だが視界を埋め尽くすおびただしい数の魔物を前にして微動だにしない。


 魔物が間合いへと入るその刹那せつなの時を待つディアス。

 吹き抜けた風がディアスの目深まぶかに被ったフードとマントを揺らす。


 そしてその風に乗り、魔物の先陣がディアスへと迫った。

遠目には木の葉に完璧に擬態して見えた魔物。

だが目前にまでその姿が迫るとその葉に見えた表裏は2枚の甲殻からなり、甲殻の隙間からはひし形の頭部が覗いていて。

甲殻のふちにある細かい鋸刃のこぎりばのような突起は全て魔物の爪だった。

甲殻に走る葉脈のような魔力伝達路がその爪先に魔力を送る。


 魔物はディアスを斬り裂こうと。

だがその刃を迎え撃つようにディアスは剣を振るって。


「『数多ある斬擊の1(ラスト・ミ)つでしかなくとも(ディオーカー)』────」


 同時に剣を操作し、その剣速と威力を跳ね上げる。


「『その刃、(ソード・)熾烈なる旋風の如く(ヴォルテクス)』!」


 衝突する刃。

いで鮮やかな火花が舞い散った。

ディアスは渾身の力で刀剣蟲ラーミナを振り抜いて魔物の甲殻を。

そしてそこに潜めていた頭部と手足をまとめて断ち斬る。


 両断された、剥き出しの筋肉を束ねたような節くれだった魔物の腕。

そこに繋がっていた木の葉のような甲殻が剥がれ落ちて。

切断面を赤熱させ、魔物の身体がバラバラに四散しながらディアスの脇を通り過ぎた。

同時に次の魔物がディアスへと迫る。


 見開かれたディアスの赤い瞳。

片方の眼は自食の刃に侵食され、瞳を残して針のように細い刃を編み上げて形作られた眼球。

そこはっきりと映り込むほどに、魔物はディアスへと肉薄していた。

甲殻の縁に連なる爪の1つ1つの鋭利な切っ先までも確認できる。


 ディアスは斬擊を終え、切っ先からちりへと消えようとしている刀剣蟲ラーミナの柄を手放した。

すかさず次の刃をその手に引き寄せて。


 ディアスは魔物を凝視していた。

そして魔物の爪がディアスのフードの先をチリ、と掠める。


と同時に。

ディアスはさらに加速。

先ほどの斬擊の勢いを殺すことなく旋回。

尾を引く視界。

渦を描いてひるがえるマント。

いで握っていた刃が光の軌跡を残して閃く。


 四散して吹き飛ぶ魔物。


 ディアスはその手に引き寄せた刀剣蟲ラーミナの柄を握った。

すかさずその魔力を解き放つ。


 魔人の男は短く息を吸う。


 ディアスはなおも加速しながら剣を振るった。

剣を振るっては持ち変えて。

一文字いちもんじに。

袈裟けさに。

斬り上げて。

振り下ろし。

そして刺突から斬り払う。


 雪崩なだれのように大挙する魔物の群れ。

それが斬擊の渦に飲み込まれ宙へと舞い上がる。


 旋風せんぷううたう剣技。

木の葉を模した魔物。

それらが相まって、超高難易度相当の魔物もさながらつむじ風に巻き上げられる木の葉そのものに見えた。


「ほう」

 

 魔人の男が感嘆の声を漏らした。

それはディアスが続けざまに最初の2体を斬り伏せたのを見て。

だがその小さな呟き1つに必要な、ごくわずかな一呼吸の間にディアスは連擊を重ねていた。

スペルアーツによるバフと四肢に仕込んだ刀剣蟲ラーミナの加速によって、今のディアスは剣速だけなら白の勇者であった全盛期に比肩ひけんする。


面白おもしれぇ! やっぱり勇者の称号は伊達じゃないな。こりゃあ他の4人も期待できそうだ」


 魔人の男はたのしげに言った。

ディアスのソードアーツの連続発動による剣(さば)きを見て笑みを浮かべる。


 その隣で魔人の青年は口をパクパクとさせていた。

思わずディアスの姿をよく見ようと、長い前髪を両手で左右にき分ける。


「し、信じられな…………。あの魔物を、し、しかもあの数」


「ああ、俺も予想外だ。魔結晶アニマさえ無事ならあの原初の魔物の確保は多分できるだろうし、最悪殺してもいいかなって思ってたんだが」


 魔人の男の言葉に青年は眉をひそめた。

あきれた顔で男に振り返って。


「いいかな、じゃないですよ!」


 声を張り上げた魔人の青年。

だが青年は自分が思っていた以上に大きな声が出たことに驚き、その肩がビクリと跳ねる。


「だ、ダメですよ。原初の魔物の一欠片の捕獲はできても…………」


 青年の言葉にすでに先ほどの勢いはなく、言いたい事の半分も言い終える前に消え入った。


「も、もしそうなったら、あなたが…………」


「いやいや、無理無理」


 男は青年の言わんとしている事を察して。


「できるわけねぇって。俺じゃ多分倒せねぇよ」


 否定の言葉を口にする。


「な、なら…………」


「はいはい。計画通りに、だろ。虚をつかなきゃあれは倒せねぇだろうしな。うちのボスが本気出せば一発な気もするが」


 やれやれと魔人の男は肩をすくめ、首を左右に振った。


 魔人の男と青年が言葉を交わしている間にもディアスは剣を振るい続けていた。

そして間合いを漏れた大多数の魔物の一団が過ぎ去り、大きく弧を描いてディアスに再び遅いかかろうと迫る。


 だがその行く手を遮るように人影が1つ。

甲冑に身を包んだその人影はすらりと剣を抜き放った。

背後から迫りくる魔物の群れには目も向けず、細やかな装飾の施された直剣をディアスに向ける。

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