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8-5

 飛来する巨木の魔宮。

その大きく四方に伸びた根は迫り来る巨大な手のようだった。

ディアス達の後方では、その姿に関所の兵士達が悲鳴を上げる。


 ディアスは兵士達のいる方を振り返ると跳んだ。

すぐさま身体に仕込んだ刀剣蟲(ラーミナ)で飛翔して。

同時にその瞳に赤い輝きを燃やす。


 エミリアも大地を強く蹴って跳躍。

風を切り、ワンピースははためかせながら滑空かっくうして。

いで着地の衝撃をバネに、さらに高く跳び上がった。

エミリアは兵士の前に来ると2人の腕を掴み、有無を言わさず強引に2人を連れて駆け出す。


 ディアスは刀剣蟲ラーミナを召喚するとそれをいしずえに人の身の丈ほどもある大きな腕を2本形成した。

ディアスはその腕を操り、それぞれの腕で兵士を鷲掴わしづかみにするとそのまま木の根の範囲外に向かう。


 残された兵士達には困惑が広がっていた。

ディアスとエミリアによって連れていかれた仲間の姿を。

そして取り残された自分達とを交互に見る。


「よっこいしょ」


 遅れて兵士達のもとにたどり着いたキャサリンが呟いた。


「……え?」


 1人の兵士が声を漏らした。

 兵士の足をキャサリンのたくましい腕ががっしりと掴み、その体が宙吊りにされる。


 キャサリンは兵士を大きく振りかぶって。


「手荒でごめんなさいねぇ」


「え? あ?! ええっ……!?」


 兵士がこれから自分の身に起きる事を察するのと同時に。


「『美麗な私の大投球(エレガント・スロー)』!!」


 キャサリンがその体を投げ飛ばす。


 凄まじい遠心力をその身に受け、いで兵士の目の前を景色が瞬く間に流れていった。

兵士の耳には自身の体が風を切るゴウゴウという風のうなりだけが聞こえていて。

そしてその軌道が緩やかに降下し、最後はグシャリという音と共に着地する。

無事ではない。


 ディアスとエミリアは自分達の横を凄まじい勢いで兵士が飛んでいったことに目を丸くした。

さらに続け様に他の兵士達も投げ飛ばされては悲惨な着地を繰り返す。


 キャサリンはいよいよ魔宮が頭上に迫っているのを感じて。

4人目を投げたところで再び駆け出した。

その近くにはまだ兵士が2人。

さらに永久魔宮の入口に立っていた兵士。

そして関所に併設された宿舎から慌てて飛び出してきた兵士の姿も確認できたが、彼らを助けるには時間が足りない。


「スペルアーツ『爆発魔象イクスプロード』、『爆発魔象イクスプロード』────」


 キャサリンは自分の両足の先にスペルアーツのくさびを打った。

いで地面を強く蹴って跳び上がる。


「『点火魔象(イグナイト)』!」


 キャサリンの両足の先でスペルアーツが炸裂。

その爆風でキャサリンは飛距離を伸ばした。

煙をたなびかせながらキャサリンは宙を舞い、ディアス達のかたわらに大きな音を立てて着地する。


 そして少しの間をおいて。

ついに巨木の魔宮が文字通り大地に根をおろした。

凄まじい轟音を響かせ、大地を激しく揺らす。


 その根は永久魔宮の関所をぎ倒し、柵を押し潰し、隣接した兵士の宿舎を倒壊させた。

暴風と共に土煙が巻き上がり、ディアス達を飲み込む。


 視界を遮る土煙が晴れると、そこには山のいただきに迫る勢いの巨大な樹が鎮座ちんざしていた。

その広大な枝葉が空を覆い隠して。

数十メートルにもなる太い枝がしなると、ザーザーという木の葉のざわめきがこだます。


 そのざわめきに紛れて痛みにうめく声。


 キャサリンがやむなく乱暴に投げ飛ばした兵士達。

キャサリンはその前にくると背中の杖を手に取って。


「スペルアーツ『魔象強化(オーバーラップ)』、『治癒活性キュアー』」


 キャサリンはスペルアーツを発動。

緑色の光がまたたき、兵士達の傷を癒す。


 ディアスとエミリアがそれぞれ連れて逃げた兵士を解放すると、彼らは呆然としていて。

だがいでそのうちの1人が取り残された仲間を助けようと駆け出した。


「止まれ、危険だ!」


 ディアスが制止するが、兵士は足を止めない。

必死に仲間の名前を呼びながら、ひび割れた大地をがむしゃらに走る。


 その時。

ひらり、と舞う1枚の木の葉。

それは左右に揺れながらゆっくりと降下。

地面に迫ってくると、その大きさは3メートル近くもあるのが分かった。

それはひらひらと揺れると、地面に触れる前に大きくひるがえって。

風に乗った木の葉が閃くと仲間のもとに向かう兵士の身体が、四散。

音もなくバラバラになった兵士の首や手足が地面に転がる。


「ブラザー! 嬢ちゃん!」


 アムドゥスの声。


 慌ててディアス達が上を見上げると、ザーザーという音と共に巨木の魔宮は葉を散らして。

無数の木の葉が風に踊りながら雨のように降り注ぐ。


「このままじゃ町が!」


 エミリアは視界を埋め尽くす木の葉の雨から視線を切り、町へと視線を向けた。

風に乗って木の葉が拡散すればその被害は甚大なものになる。


 だが木の葉は突如軌道を変えた。

ひらひらと風に乗って左右に揺れていたそれらは一斉にディアス達に狙いを定める。


「ケケ、狙いはあくまで俺様達ってことだなぁ。気ぃつけな、擬態してるがあの葉全部が実数による観測でレベル90相当の魔物だぜぇ、ケケケケケ!」


「嘘でしょ……?!」


 キャサリンが驚愕きょうがくあらわに叫んだ。

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