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8-3








「ずいぶん長い連絡だったな」


 通路に点々と灯るロウソクの火に照らされて。

壁にもたれてキャサリンを待っていたディアス。

ディアスはようやく『鏡』の間から出てきたキャサリンに声をかけた。


「やーねぇ、ディアスちゃん。レディの話を盗み聞き? 感心しないわよー」


 キャサリンは腕を組み、冗談めかすように言って。

だが声音(こわね)とは裏腹に、険しい眼差しで探るような視線を向ける。


「いや、さっきの様子が気になってな。それに話は聞いていない。……何かあったのか?」


 ディアスがたずねるとキャサリンは首を左右に振って。


「大した事じゃないわ。ごめんなさいね、心配させて」


 キャサリンが答えると、ディアスはじっとその顔を見た。


「いやん。どうしたのディアスちゃん。そんなに熱い視線を送られたら私照れちゃう! きゃっ」


 キャサリンはそう言うと屈強な肉体を恥ずかしそうにくねらせる。


 ディアスはその様子に肩をすくめて。


「明日の朝、日の出と共に町を出て山道へと向かうつもりだが問題ないか」


「それでも大丈夫だけど、山道を使うと次の村まで3日はかかるでしょ。元々永久魔宮を通るつもりでそれだけの備えしかしてないから、食糧だったりとか買い足した方がいいんじゃないかしら」


「まだ保存食は結構あったと思うが」


「魔宮を通ると思って、余剰分は私が食べちゃったわ」


 キャサリンが、てへっと笑った。

いでディアスの冷めた眼差しに気付くと慌てて付け加える。


「違うの。荷物は減らした方がいいと思ったの! そりゃ最近私の食費がかさんでるのは認めるけど。でも私のダイナマイトバディの維持には相応の栄養が要るのよぉ。いざというとき私が拳を振るって自衛や援護ができないとディアスちゃん達も困るでしょう?」


「確かにな」


 ディアスがうなずく。


「で、その辺の不足した食糧と、アーシュガルドちゃんはしばらくまともに食事を口にしてないから流動食とかもあった方がいいと思うの。食べてくれるかは分からないけど」


「分かった。なら店の開店を待って、食糧なんかを買い足して出発だな。エミリア達にも伝えておく」


「お願いね。じゃあ私は部屋に戻るわ」


「ああ。じゃあ明日の朝、フロントで」


「ええ」


 キャサリンは短く返事をすると、薄暗い廊下の先に去っていった。

ディアスはその背中を見送ると、エミリア達の待つ部屋へと戻る。


「おかえり、ディアス」


エミリアはディアスが戻ったのに気付くとベッドから降りた。

両腕にアムドゥスを抱えたまま、ディアスのもとへと駆け寄る。


 エミリアの赤く発光するつぶらな瞳がディアスを見上げた。

その光に照らされて、彼女の身にまとう丈の長いキャミソールと彼女のなめらかな肌が暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる。


「キャサリンの様子はどうだった?」


「分からない。大した事じゃないと言っていたが」


 ディアスはフードを取ると、上着とマントをとった。

椅子の背もたれにそれらをかけて。

いで宙に浮かぶ、刀剣蟲ラーミナいしずえにした両腕も立て掛ける。


「そうなんだ」


「ああ。気にはなるが、おそらくキャサリンは答えない。それで明日の出発は少し予定を変えることになった」


「ケケ、キャサリンの提案か?」


 アムドゥスがディアスにたずねた。


「ああ。そんなに大きく予定は変わらないがな。食糧の補給なんかを済ませてから山道に向かう事になった」


「買い出しだけだぁ? ケケケ、てっきり永久魔宮を通って先を急ぎたいって言うかと思ったぜぇ」


「俺もそうだと思ったんだがな」


「けけ、とにかく山道を通って行くんでしょ。魔宮を通るよりはアーくんも安全だと思うし、良かった」


 エミリアはそう言うとディアスのシャツの裾を掴んで。


「もう寝よお。あたし、すっごく眠いの」


 エミリアはそう言うと小さな口を目一杯広げてあくびをした。


 ディアスはエミリアに促されるままにベッドへと移動。

先に横になっていたアーシュの隣に仰向けに寝て。

次いで静かに寝息を立てているアーシュの寝顔を横目見る。


「明日はアーくん、ご飯食べてくれるかな」


 エミリアは呟きながら横になった。

アムドゥスごとアーシュを抱きしめつつ、ディアスの頬に自身の頬を押し付ける。


 ディアスはエミリアのほっぺたの触感を感じた。

エミリアの肌はもちもちとしていて、それでいて少しひんやりとしている。


「嬢ちゃん、苦しんだが? 俺様は寝なくていいんだから放してくれねぇか?」


 アーシュとディアスの身体の間に挟まれたアムドゥスが言った。


「けけ、だーめ」


「ならせめてもう少し寝方変えねぇかぁ?」


「ううん。この寝方じゃないとディアスとアーくん、アムドゥスの全員に触れられないもん」


 エミリアはディアスの頬に自分の頬をすりすりと擦って。

アーシュを抱き枕のように脚で挟み込み、自分のお腹にアーシュの顔をうずめさせる。


「ケケケ。やれやれ、夜の嬢ちゃんは小せぇガキみてぇだな」


「けけけけけ」


 アムドゥスが悪態をつくが、エミリアは幸せそうに笑った。


 しばらくすると、すーすーと寝息をたて始めるエミリア。

アムドゥスはエミリアが寝ているのを確認するとそこから抜け出そうとして。

だがエミリアの手ががっしりとアムドゥスを掴んでいた。

無理に抜け出そうとするとエミリアを起こしてしまいそうで、アムドゥスは観念するとため息を漏らす。


 朝を迎えたディアス達は身支度を整えると、キャサリンの待つ宿屋のフロントに向かった。

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