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7-45

 ギルベルトは質問と独り言をさらに繰り返して。

だが唐突に振り返った。

ドアの隙間から覗く青い瞳と目が合う。


「シアン、覗き見はあまり感心しませんね」


 ギルベルトはそう言ってたしなめると、つかつかとドアへと歩み寄った。


「ですがお待たせしてしまって申し訳ない」


 いでドアを開き、謝罪の言葉を口にするギルベルト。


 ギルベルトが謝罪すると、ぶんぶんと手を左右に振って。


「そんな、とんでもない! 俺こそごめんなさい。ギルドの方が大変な事になってるみたいだから気になっちゃって」


「一大事ですし、気にするなと言う方が難しいでしょう」


「……でも、議員の人達と通話を終えたあと、ギルベルトさんは…………誰と喋ってたんですか?」


「ふうむ、それをいてしまいますか」


 ギルベルトは問いを受けて、困ったようにその深緑色の髪をくしゃくしゃといた。

考え込みながら、指先で軽く片眼鏡モノクルをコツコツと弾いて。

少しするとギルベルトは小さく息をつく。


「お見せしても構いませんが、私の言いつけを必ず守ってください。約束できますか? シアン」


「分かりました。約束します」


「ではこれを」


 ギルベルトは金縁の片眼鏡モノクルを外すと、それを差し出した。


 それを受け取ろうと手を伸ばして。

だがギルベルトはすかさず手を引っ込める。


「先に注意を済ませておきましょう。つけてからうっかり、なんて事になっては大変ですからね」


「危険なんですか?」


 ギルベルトは首を左右に振って。


「いいえ。『彼女』自身に敵意はありませんし、物理的な干渉もできません。ですが問いを誤れば死にます。約束してください。この片眼鏡を通して視たものに質問をしないと。『彼女』は答えられる質問に対して解答を与えますが、質問によってはその解答の情報量は人間の処理能力を超えてしまう」


「ギルベルトさんでも死んじゃうの?」


「私は術式を用いて対策を施していますが、それでも1度に処理できる量に限界はあります。私たち人間は情報を不完全に取得し、補完して情報を完結させています。ですが彼女の解答は完全なままの情報を質問者に直接与えてしまう」


「分かった。気を付ける」


「お願いします」


 再び片眼鏡モノクルを差し出すギルベルト。

それを受け取ると片目をつむり、僅かに曇ったレンズ越しに部屋を見渡して。

そして『それ』はギルベルトの傍らにいた。

その姿に思わず息を飲む。


 ギルベルトは『彼女』と形容していたが、その姿は人間のものではなかった。

しなやかな手足や身体の曲線は女性的とも言えなくもないが、その構造は人間とは大きく異なる。


「なんなんだ……これ……?」


 無意識に得物である短槍に手を伸ばして呟いた。


 片眼鏡モノクルを通して視た時にだけ捉えることのできるそれ。

それは透き通っていて青みを帯びていた。

被り物のように大きいゴツゴツとした頭の左右には、白目のない巨大な瞳。

頭の下には人間のそれと変わらない大きさの輪郭りんかくや鼻筋に近しいものがあるが、そこにはあるべきはずの目鼻や口はない。

頭と首の境目から伸びる無数の帯は水の中にあるかのようにゆらりゆらりとたゆたっている。

そこから視線を下げれば、すらりとした首筋の左右に並ぶのは魚のエラのような器官。

胸には鍵穴にも似た大きな穴がぽっかりと空いて。

細い腕は肘から二股に分かれ、その先の計4つの手には指が4本ずつ。

大きくS字に反った背中から大きく弧を描いた太い器官が腰へと繋がっている。

腰から伸びる6本の太い触手が緩やかに曲線を描き、スカートのようにその下肢を覆っていた。

隙間から覗く細身の脚の関節は人間のものというより獣のものに近い。

その身の丈は長身ちょうしんのギルベルトよりさらに高く、頭の先が床から2メートルほどにあった。


「ギルベルトさん、あれはなんなんです?!」


「『第3世界(イルテルツォ・モンド)』の、こちらの言葉で言う姫や王子に該当する身分の存在だった者です。心配しなくていい、シアン。さっきも言ったが『彼女』に敵意はありません。そもそも意思を持っていない。ふるい世界の存在が情報や肉体だけ次の世界に残ることもありますが、総じて彼らに意思はもうないのです」


「イルテルツォ・モンド? ふるい世界って……?」


 ギルベルトの言葉に首をかしげつつ、槍から手をゆっくりと離す。

 

「第3世界、あるいは青い月と言い換えることができます。過去にここに存在した世界の残滓ざんしが空に映し出されて像を結んだもの、それが月。その今はなき世界の住人のいわば影法師、それが『彼女』。そして今私たちがいるのは『第6世界(イルセスタ・モンド)』。6つ目の世界になります」


 ギルベルトはそっと手を前に出した。

片眼鏡モノクルを受け取ると、それを身につける。 


「分からない事が多いけど、ギルベルトさんはいつその『彼女』の事とかを知ったの?」


 その問いを受けて。

ギルベルトはきらりと目を輝かせた。


「あれは私が幼少の頃、まだ6歳にも満たないときか、あるいは10歳を過ぎた頃か。……いいや」


 だがギルベルトの楽しげな表情がすぐに曇る。


「私の父の気が触れて、町の人々を世界樹の苗床へと変えようとしたあの夜、ですね────」

 閲覧ありがとうございます。


 次の章は短章で、時は少し遡ります。

【赤の勇者】フリードのパーティーの1人で桃色の髪と大きなとんがり帽子がトレードマークのエレオノーラが、遠隔斬擊(ストーム系)最強の使い手【嵐の覇王】ラーヴァガルドのもとへ。

それと同時に、ギルド本部の地下に魔宮を展開する書庫の魔人を襲う冒険者の集団。

書庫の魔人は容易くそれを撃退するが、その規模がでたらめで…………。


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