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「我らは人間の力をもう侮ってはいない。ゆえにその力を見込んで人間と魔人の同盟を組もうと考える。貴様ら人間にとっても悪い話ではないはずだ」


 ジルヴェスターはそう言うと口許くちもとに笑みをたたえた。

対して魔人との同盟を組むことで得られる人間側のメリットが思い至らない冒険者達は眉をひそめる。


「魔宮生成物の譲渡か?」


 後ろに控える冒険者が隣の冒険者に声を潜めてたずねた。


「いいや。そんな俗物的な話ではない」


 ジルヴェスターは冒険者の声を捉えると即座に否定して。


「我々が再び大帝国を築き、法と規律を敷けば今のような互いに不条理に命を奪われる事もあるまい。見返りは安寧あんねいだよ。魔人と人間双方にとってのな」


 ジルヴェスターはギルベルトへと手を差し出す。


「地上を我らの手に取り戻すために力を貸せ。さすれば地上を再び我らが支配したあと、人間にも対等とはいかずともそれに近い待遇を約束しよう。少なくとも今のように弱者が我ら魔人の影に怯えて暮らす必要はなくなるのだ」


「ふざけるな! 何が力を貸せだ! この魔人風情が!」


 冒険者の1人が叫んだ。


「再び地上を魔人になんて支配されてたまるか!」


 冒険者の言葉に反応して。

4人の騎士は同時に動いた。

自身の操る魔物を駆り、それぞれが握る得物を構えて────


「よい」


 ジルヴェスターが魔人の騎士達を制止した。

冒険者が声を上げてからジルヴェスターがすぐに制止するまでの間に騎士達はすでに距離を詰め、その得物が冒険者の眼前にまで迫っている。


「…………」


 その冒険者は声を発することもできず、震える吐息だけが漏れていた。

目前に迫っていた凶刃の先を、冷や汗を流しながら見つめている。


「しょせんは雑兵の1人。何を言おうと何をしようと歯牙にもかけぬわ。ゆえに今の我への不敬も問わぬ。下がるがよい」


 魔人の騎士はジルヴェスターの言葉に従い、後退する。


「我が動けと言うまで待機せよ」


「御意」


 ジルヴェスターの命令に騎士達がうなずいた。


「さて、話の続きだ。貴様が今ここにいる人間共の長なのであろう?」


 ジルヴェスターがギルベルトにいた。


「貴様の答えを聞こう。問いがあるのならそちらが先でも構わぬぞ」


 ギルベルトは思案すると口を開いて。


「────」


 だが彼が言葉を発するよりも先に。


「ソードアーツ────」


「ソードアーツ────」


「ソードアーツ────」


 息を合わせ、同時に武具の魔力を解き放つ3人の冒険者。


「待て!」


ギルベルトは制止するが、ソードアーツを構えた冒険者達は一斉に攻撃を放つ。


 ジルヴェスターへと迫る複数のソードアーツ。

それを前にしても騎士達は主の命令を守り、身動まじろぎ1つしない。


 ジルヴェスターはギルベルトから視線を外さず、パチンと指を鳴らして。

すると切り分けられた魔宮の床と天井が直下そそり立った。

切り分けられた正立方体のブロックが連なり、放たれたソードアーツを押し潰すと上下左右にスライド。

ソードアーツを無力化する。


「頭の回らぬ配下を持つと苦労するな」


 ジルヴェスターが手を払うと直下そそり立った魔宮の床と天井が素早くスライドし、もとあった場所へと収まった。

冒険者達はソードアーツを容易く防がれた事に動揺を見せていたが、ジルヴェスターは終始彼らに興味を示さない。

その瞳はまっすぐギルベルトだけを捉えている。


「…………ふむ、思惑おもわくはあるがそやつらの前では語れぬか」


 ジルヴェスターはギルベルトの目から何かを察して。


「良かろう。ならばまずはそやつらの息の根を止める。さすれば、そなたも語らいやすくなるであろう」


「いいや、仲間は死なせない。そして私達はあなた方に手を貸すつもりもない……!」


 ギルベルトが言うと、乾いた笑いを漏らすジルヴェスター。


せぬな。仲間は死なせない? すでにこの大魔宮に足を踏み入れた同胞の多くが死に絶えているこの現状でそれを口にするのか」


 ジルヴェスターはそう言うと、顎先に手を添えて。


「……ふむ。せぬと言えばもう1つ。仲間の半数ほどを失ってからそなたらの進行速度が上がった。まるで迷いなくここを目指しているようにな。貴様、初めからここまでのルートを知っていたのではないか?」


「…………私は旅の土産話や冒険譚を人に語るのが好きでね」


 ギルベルトはジルヴェスターの問いには答えず、唐突にそんな事を言い出して。

構えた宝杖剣の宝珠に魔力とは相反する力、星力を収束させた。


「特に冒険譚の道中を語るのは好きなんだが、終わりはいつも同じになってしまうから飽きられてしまいそうであまり好きじゃないんだ」


 空間全体に広がる星力と魔宮内にいる冒険者達からさらに星力を集め、それを束ねる。


「締め括りはいつもこうだ。『多くの困難と試練を乗り越え、ついに緑の勇者ギルベルトとそのパーティーを組む仲間達は誰1人死傷者を(・・・・・・・)出すことなく(・・・・・・)魔宮の攻略を終えた』とね……!」


 いで魔宮の床を走る膨大な文字の羅列。

それらが幾重にも重なり、交わり、術式を編み上げる。


「『召喚の印(インシエーメ)』」


 ギルベルトが術式を起動すると、フロアを埋め尽くすように現れた冒険者の姿。

魔宮全体に散っていた冒険者のうち、戦闘不能に陥っていた者達が肉体の復元を受けた上で召喚された。

自身が死んだものと思っていた者がほとんどだったため、そこには戸惑いの色が浮かんで。

だが素早く状況の伝達が行われるとすぐに武器を構える。


 彼らの姿を確認するとギルベルトは穏やかに笑って。


「私は攻略した魔宮の総数ならフリードやサイラスに劣る。SSクラスの超高難易度の攻略なら白の勇者が。通常の冒険者では立ち入ることもできないような特殊環境の魔宮なら黒の勇者が最多の攻略を誇る」


 ギルベルトは得物である宝杖剣を掲げた。

続け様に術式を編み上げる。


「だがあらゆる難度、どんな魔宮においても1度の撤退も敗走も、死傷者を出すこともなく攻略しているのは私だけだ。私個人の力は最低ランクの冒険者にも劣るが、多くの仲間を募り、その力を束ねた私のパーティーに負けはない。それが私が『最弱にして最強の勇者』と呼ばれる所以ゆえんだ」


 ギルベルトは冒険者達にさらなるバフを次々と付与した。

幾重にも重ねられた文字の印が複雑な紋様を形作る。


「そしてそれはこの複合魔宮での攻略でも同じだ。帝国の生き残りは未だに最大の警戒をされた私達人類の脅威。今度は逃しはしない。全員ここで討たせてもらおう……!」

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