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7-36

 ディアスは魔人の騎士が駆る魔物の下をくぐり抜けると体をひるがえして着地。

すかさず双腕の刀剣蟲ラーミナを操って。

飛翔する刃の腕が騎士の左右から挟み込むように剣を振るう。


 素早く視線を左右に切る魔人の騎士。

いで騎士は手綱たづなを強く握った。

騎士に応え、彼のまたがる馬を模した異形の魔物がいなないて。

同時に水平に構えていた手翼しゅよくを持ち上げ、主へと迫る剣を弾く。


 魔物はきびすを返した。

そのひづめを魔宮へと叩きつけて旋回。

巨大な手のような翼が大きく開かれると、片方の手翼しゅよくだけで双腕の刀剣蟲ラーミナとその腕が握る剣を握り込む。


 魔物はもう一方の手翼しゅよくを振り上げた。

ディアスに向かって体をよじりながら跳躍し、ぐように大きく広げた翼を払う。


 魔物の手翼しゅよくに捕らわれたディアス。

ディアスは胴を鷲掴わしづかみにされ、翼を払った勢いのままに振り回された。

強い遠心力をその身に受け、その視界が大きく尾を引いて歪む。


 そして魔物は後ろ足で立ち上がり、勢いのままに高々とディアスを持ち上げて。

素早く手翼しゅよくを開くと、ぐしゃりと頭から握り潰すように握り込む。


「────」


 ディアスはその刹那せつなに呟いた。

その声は魔人の騎士には届かなかったが、その身体が握り潰される間際に。

閉じられる翼の先と先の隙間から、強い赤の輝きがこぼれる。


 ディアスの瞳から溢れ出た燃え盛る赤。


 いで魔物の大きな手翼しゅよくがその輝きごとディアスを包み込んだ。


 訪れる静寂。

だが魔人の騎士はその張り詰めたような静けさに戦慄せんりつを覚えた。

反射的に騎士は手綱たづなから盾へと手を伸ばして。

だがそれよりも先に。


 そしてその声は、騎士にも届く。


「『千剣魔宮インフェルノ・スパーダ』」


 静寂を斬り裂く無数の刃。

幾重にも連なる刀剣が主翼しゅよくを内側から貫いた。

いで刃が旋回し、魔物の両翼が四散する。


 目を見張る魔人の騎士。


 騎士の視線の先には展開した大小無数の剣を身にまとい、騎士を見下すディアスの姿があった。

その左右には双腕の刀剣蟲ラーミナが浮かび、それを中心にいくつもの歪な剣がより合わさって巨大な爪を形作る。

そしてディアスの下肢から自食の刃が剥がれ落ち、新たに召喚した刀剣蟲ラーミナを礎に新たな双腕を形成して。

その新たな両腕が剣を拾い上げる。


「ケケケ、おそらく今が魔人ディアスの全盛期だ。見せてやろうぜぇ、ブラザーの今の実力ってやつを」


 アムドゥスが笑いながら言った。


 ディアスはアムドゥスをちらりと横目見て。


「ククッ」


 いで小さく笑う。


 ランスを構える騎士。


 四肢に仕込んだ刀剣蟲ラーミナの飛翔でふわりと降下するディアス。

ディアスの切っ先(つまさき)がカツン、と床を叩いた。


 いで響き渡るのは激しい剣戟けんげきの狂騒。

剣で形作られた巨大な爪が。

新たに形成した双腕の握る剣が。

そしてディアスが騎士へと躍りかかる。


 魔人の騎士はランスと盾を巧みに操り、ディアスの連擊をいなした。

刀剣の爪を盾で受け止め、攻撃を反射してもう一方の爪を相殺。

同時にランスで刺突を続け様に放ち、双腕の刀剣蟲ラーミナが振るう剣を弾いて。

その眼前に迫る、ディアスの右肩から伸びる刀剣蟲ラーミナもランスで払い除ける。


 刃を弾かれて上体を崩すディアス。


 すかさず騎士は払ったランスを引き絞るように構え、ディアス目掛けてその切っ先を突き出した。


 ディアスは身にまとう剣を正面で交差。

刺突を受け止めると刀剣が渦を巻き、騎士のランスに絡み付いて。

いで体を大きくひねりながら左足を右へと振り抜く。


「『その刃、(ソード・)熾烈なる旋風の如く(ヴォルテクス)』!」


 騎士は盾を構え、剣の操作で加速するディアスの脚部の刀剣蟲ラーミナを受け止めた。

騎士はその斬擊をディアス自身へと反射しようと。

だがディアスは左足を振り抜いた勢いを殺すことなく空中で右に回転。

回転しながら右足を高く持ち上げ、その刃を騎士へと叩きつけるように振り下ろす。


 騎士は振り下ろされた刃を迎え撃つように盾の反射を発動。

だが相殺しきれなかった分のダメージを負って。

刀剣蟲ラーミナの刃が騎士の鎧を斬りつけると、そこから溢れた魔力が剣身けんしんを伝ってディアスへと吸収される。


 ディアスは刀剣蟲ラーミナの飛翔で高速旋回して。

彼のまとう無数の刀剣が逆巻き、激しい刃の渦となって騎士を襲った。

魔宮のギミック扱いである刀剣に紛れて刀剣蟲ラーミナの刃が閃き、その斬擊の度にディアスは魔力を取り戻す。


 ディアスがしているのは過去にネバロが見せたのと真逆の事。

本来武具と人、魔人とにはそれぞれの魔力の型があり、それが異なると魔力の伝達を受け付けない。

ゆえに冒険者が自身の魔力を武具に供給してソードアーツを放つ事は不可能。

だがネバロはそれを覆した。

魔人と魔人の生んだ魔宮生成武具は同じ魔力の型である。

今まで武具を装備する魔人という存在がいなかったために確認されなかったが、ネバロは強大なソードアーツの発動を以てそれを証明した。

ディアスは自身が生んだ剣の吸収する魔力をそのまま自身へと還元することで人を喰わずに魔力を得るすべを身につけたのだ。


 双腕の刀剣蟲ラーミナは握っていた剣を取り込むと、空いた手に別な刀剣蟲ラーミナを召喚した。

その魔力を解き放って。


「ソードアーツ『数多ある斬擊の1(ラスト・ミ)つでしかなくとも(ディオーカー)』!」


 ディアスは『千剣魔宮インフェルノ・スパーダ』による連擊を維持しつつ、遠隔でソードアーツを操って。

魔人の騎士へと交差するように剣閃が走る。


 その斬擊を背後から受ける魔人の騎士。

そのダメージは鎧が肩代わりしたことで本人へのダメージはないが、その大きなダメージ分の魔力が刃を振るった腕へと吸収される。


 騎士は兜の隙間から素早く視線を切って。

その眼差しは落ち着いていた。

そしてその手に握るランスの切っ先が再び回転を始めたのを確認する。


「……すでに大魔宮もほころび始めている」


 騎士は盾とランスを操り、受けるダメージを最小にとどめながら呟いて。


「やむを得ぬ。魔宮ごと穿うがつとしよう」


 騎士の握るランスの切っ先がその速度を速めた。

凄まじい風の唸りを伴い、周囲の空間がその切っ先に絡め取られる。

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