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7-34

 刀剣蟲ラーミナの腕が幅広の剣を振るうのと同時にその剣身けんしんの根元が開いて。

そこから細身の刃を持つ剣を引き抜いた。

魔人の騎士の無防備な背中目掛け、2つの刃から幾度となく放たれる斬撃。

左右対称の軌跡が光の尾を引いて交わる。


 そして激しい連撃の末。

2つの剣が再び1つになると、その真の姿を現した。

大鎌へと形を変え、その弧を描いた鋭い刃が振り抜かれて。

交差する光の尾が混ざり合い、激しい閃光となって弾ける。


 その最後の一振りは騎士の首を刈り取って。

だが確かに刃が走ったはずのその首は繋がったまま。

そして騎士は得物であるランスをディアスへと繰り出した。


 すかさずディアスは刀剣蟲ラーミナの飛翔能力を用いると、後方へと飛んで回避する。


 ディアスは素早く視線を切って。

兜の先から首、胸、肩、胴、腕、腰、脚、魔物に至るまでを観察した。

そして騎士の身にまとう鎧に、受けた斬撃の数の倍以上の傷が走っているのに気付く。


「受けたダメージを肩代わりする鎧か」


「ケケケ、しかも再生速度がはぇな。面倒な代物だぁ、ケケケケケ」


 アムドゥスは鎧の傷が塞がっていくのに気付くと言って。


「鎧が回復するまで、あのカウンター型の盾で防御に徹されたら厄介だぜぇ? ブラザー」


 騎士はアムドゥスの言葉を聞いて。

声には出さず、顔も兜にほとんどを覆い隠されてはいたが、そこから唯一覗く目が確かにわらった。


 いで騎士はランスと盾を同時に構える。

だが騎士が構えたランスは誰に向けられるわけでもなく。

騎士はその回転する切っ先を自身の盾へと放った。

盾の表面を滑るように放たれた突き。

その威力は盾へと吸収されると反射。

反射したダメージが最も近くにいたキャサリンを襲う。


「きゃっ……!?」


 キャサリンから困惑交じりに痛みにうめく声が漏れた。

反射されたダメージを受けてキャサリンのドレスが胸元から肩にかけてズタズタとなって。

その裂けたドレスの下から血飛沫(ちしぶき)が舞う。


「スペルアーツ『活性治癒キュアー』」


 キャサリンは即座に回復のスペルアーツを唱えた。

自身の受けた傷を癒す。


「攻撃してきた相手自身にダメージを返すんじゃなく、受けたダメージを敵に跳ね返す盾? なにそれずるいわ!」


 キャサリンは体を低く屈め、回り込むように数回ステップ。

騎士と魔物の攻撃を警戒しつつ、盾によるカウンターを取られないよう素早いジャブを放った。

塞いだばかりの傷がすぐにまた開いて血がにじむがキャサリンは気にしない。

次々とリズミカルな打撃音が響き、キャサリンの拳が魔物の人骨で形作られた身体を打つ。


 そしてキャサリンの拳の音に紛れて壁を蹴る音。

エミリアはハルバードを片手で持って跳躍した。

もう一方の腕が騎士の持つ盾へと伸ばされ、その小さな手が盾へと迫る。


 騎士はエミリアに気付くと大きく肩を引いてランスを構えた。

一点だけを見据えて得物を構える騎士。

その姿はディアスとキャサリンに対して完全に無防備だった。


 ディアスは双腕の刀剣蟲ラーミナで剣を構えつつ、自身も肩から伸びる刀剣蟲ラーミナを振りかぶりながら飛翔。

キャサリンもジャブから右ストレートの構えに。

2人は騎士が意図的に隙を見せてカウンターを狙っているのを危惧きぐしつつ、だがチャンスは逃さない。

キャサリンとディアスはタイミングを見計らい、同時に攻撃に出る。


 騎士へと迫る剣と鉄拳。


 だが騎士は微動だにせず、一点を凝視していた。

するとその手に握る槍が唸りをあげて。

回転する切っ先が突然その速度を上げる。

周囲の空気が回転するランスに向かって渦を描いた。

周囲の空間が、ランスの切っ先にからめ取られてねじれる。


 もはや元の形も分からないほどによじれた景色。

見ればランスを向けられていたエミリアはもとより、ディアスとキャサリンもその空間の歪みに巻き込まれてその姿は原形をとどめていない。


 そして、唐突に訪れる静寂。

凄まじい回転を生んでいたランスの切っ先がピタリと静止した。

それと同時に空間は瞬く間にもとあった形へと復元する。


 空間そのもののよじれは、空間の中にあるものに影響を与えない。

ただ、それに巻き込まれたディアス達の位置だけが変っていた。

巻き込んだ空間の中の意図したものだけをそこに縫い付けて。

騎士が狙いすました一点に重なるように、3人が並んでいる。


 ディアス達の顔に困惑が浮かんだ。

空間の歪みを捉えていたのはその力を振るった魔人の騎士のみ。

ディアス達は気付けば構えられたランスの直線上に立たされている。


 そしてディアス達を貫くように、騎士はそのランスを繰り出した。

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