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7-33

 ディアスは四肢に意識を向けた。

後方へと飛翔し、対峙する魔人から距離をとる。


「179、か。あまりピンとはこないな」


 ディアスは着地と同時に呟いた。


「ケケケ。参考程度に言うとネバロんとこの魔物の平均レベルが150くらいだ。あいつは自身の戦闘力に特化してるから道中の雑魚の強さは他の魔王と比較して低い。それでもそこいらの魔人やボスなんかよりは強いんだが」


「こいつはそれ以上ってことか」


 ディアスの視線と馬上の騎士の視線が交わる。


 お互いに睨み合うディアスと魔人の騎士。

だが騎士は突然、肩越しに背後を振り返った。


「顕現して────」


 魔宮の壁に穿うがたれた大穴の先。

騎士目掛けて跳んだエミリアはハルバードを大きく振りかぶって。

同時にその目に燃える輝きが強まり、周囲の空間を己の魔宮で塗り潰す。


「あたしの『在りし緋の咆哮(シャルフリヒター)』!」


 騎士へと躍りかかるエミリア。

その周囲の景色が歪み、魔宮の床がエミリアを追うようにゴツゴツとした岩肌へと変わっては消えて。

そして同時にエミリアの影が何倍にも膨れ上がった。

膨れ上がった影の先から現れるのは斧槍と巨大な戦斧せんぷ

影はまだその姿が完全に形作られるよりも早く、エミリアと共に得物を振るう。


 エミリアのハルバードが。

彼女がシャルと呼ぶ魔物の握る戦斧せんぷが。

そしてシャルと一体化している乙女の斧槍が。

それぞれが鋭い風の唸りを伴って。

振り下ろされ、横薙ぎに振るわれ、袈裟けさに振り上げられる。


 騎士はランスを斜めに構え、エミリアの一撃を受け止めた。

シャルと乙女の攻撃は魔物の手翼しゅよくが受け止めて。

ぴたりと静止する得物。

微動だにしない騎士と魔物。

だがその衝撃に騎士と魔物は耐えられても、床は耐えられない。

床はクレーターのように陥没し、大きな亀裂が通路の先まで走る。


 騎士と魔物は受け止めた得物を弾き返して反撃に出ようと。


 だがそれよりも早く、風切りの音。

ディアスは騎士へと瞬く間に肉薄。

同時に両手に握る剣を続けざまに振るう。


 刃の軌道とその間合い。

騎士はその剣閃を一目で見切った。

いで最小の動きでその刃を回避。

ディアスの攻撃は騎士には当たらない──はずだった。

だがディアスの剣の切っ先が鎧の胸元を。

そして兜の頬を斬り裂く。


 怪訝けげんそうに双眸そうぼうを細める騎士。


 ディアスは追撃しようと両手に握る剣を操って。

振り抜いた剣の勢いのままに体をよじり、その剣を加速させた。


「『その刃、(ソード・)熾烈なる旋風の如く(ヴォルテクス)』……!」


 瞬く間に加速する刃。

ディアスは空中で素早く旋回し、両手の剣を叩きつけるように振るう。


 刹那せつな、騎士は背中の盾を手に取った。

握っていた手綱たづなを放し、流麗りゅうれいな動作で盾を背中からおろして。

その盾をそのまま持ち上げるとエミリアのハルバードを上へと弾く。


 無防備になったエミリアの胴から、剣を振り下ろすディアスまで。

騎士は得物を振るう軌道を即座に選択。

いでランスでエミリアとディアスの胴を続けざまにぎ払った。

壁へと叩きつけられるエミリアと、後方へと吹き飛ばされるディアス。


────それと同時に、甲高い音。

火花を散らして。

叩きつけるように振るわれたディアスの剣が、騎士の鎧を深々と斬り裂いた。


 騎士はディアスを見据えていた。

その視界の隅に、自分目掛けて袈裟けさに振り下ろされた剣閃を捉えて。

だがその斬撃の瞬間にはディアスはすでにランスのぎ払いによる殴打を受けていた。

後方へと吹き飛ばされた身で、剣をそのまま振り抜く事はできない。

しかし確かに剣は振り抜かれ、騎士はその攻撃を受けている。


「『その刃、疾風とならん(ソード・ガスト)』」


 疑念を浮かべる騎士目掛け、下方から剣が投げ放たれた。

光をまとって加速する2つの刃。

騎士はランスでその刃を容易く弾く。


「…………」


 騎士は投げ放たれた剣の軌跡をたどり、視線を落とした。


 そこに浮かぶのは無数の刃によって形作られた腕。

小さな刃が折り重なったその腕は、1本の歪な剣を中心にして形作られていて。

柄から剣身けんしんの根元までを腕が覆い、肘の辺りからは溝がいくつも刻まれた刃が覗く。


「ソード・テンペスト!」


 ディアスの声。

その声にこたえ、自食の刃に包まれた刀剣蟲(ラーミナ)は魔神の騎士へと襲いかかった。


 同時にディアスは両肩と両足に仕込んだ刀剣蟲(ラーミナ)に意識を向けた。

空中で静止すると、刀剣蟲ラーミナの飛翔能力を用いて騎士へと躍りかかる。


 用いているのはキールやコレクターの配下達との戦闘の折りにアーシュに預けていた数本の刀剣蟲ラーミナ


 黒の勇者達から逃れる際に片腕を失い、さらには度重なる戦闘でついに魔宮の能力の行使ができないほどに疲弊ひへいしたディアス。

だがディアスは残された刀剣蟲(ラーミナ)を四肢へと組み込み、衰えた機動力と欠損した肉体の体積を補った。

補った体積分の自食の刃で左腕も形作り、その双腕はリーチを問わないディアスの新たな切り札となる。


 騎士は素早く盾を背中へと戻すと手綱たづなを引いた。

魔物はすかさずひづめで床を踏み締めて立ち上がって。

背中から伸びる手翼しゅよくで得物ごとシャルを持ち上げ、体を前へと倒す勢いに乗せてその巨体を投げ飛ばす。


 いで騎士は目前に迫る2体の刀剣蟲(ラーミナ)をランスで払った。

その視線は刀剣蟲(ラーミナ)とディアス、そして視界の隅にエミリアを捉えていて。


 だが投げ飛ばされたシャルの下を滑り抜け、騎士のまたがる魔物へと肉薄するその影には気付かない。


 すでに杖は投げ捨てられていた。

渾身の力を込めた拳が、魔物目掛けて突き上げられる。


「『美麗な私の衝天拳(エレガント・アッパー)』……!!」


 キャサリンの拳が魔物の腹を捉えた。

ねじるような拳が鋭く突き刺さり、魔物の身体を宙へと浮かす。


 同時にディアスは肩から伸びる刀剣蟲(ラーミナ)を振りかぶった。

刀剣蟲(ラーミナ)自身の飛翔に剣の操作による加速を上乗せして斬撃を放つ。


 騎士はまた素早く盾を手に取り、その盾を構えた。

盾で刃を受けると、ディアスの放った斬撃は盾へと吸収────


「ブラザー! カウンター型だ!」


 アムドゥスが叫んだのと同時に、騎士の構えた盾は威力を余すことなくディアスへと跳ね返す。


 自身の斬撃を浴びたディアス。

だがその口許くちもとにはにやりと笑みを浮かべて。


「ソードアーツ────」


 ディアスは剣の魔力を解き放つ。

そしてそれは自身に埋め込まれた刀剣蟲ラーミナのものではない。

騎士が弾いた双腕の刀剣蟲(ラーミナ)でもない。

それは『その刃、疾風とならん(ソード・ガスト)』で射出した剣。

騎士の背後から、刀剣蟲ラーミナの腕が拾い上げた剣を振るう。


 『刀剣蟲(ラーミナ)』は剣にして魔物。

そして自食の刃をまとったその双腕は同時にディアスの文字通り腕である。


 それはディアスは新たな切り札。

リーチを問わない、遠隔によるソードアーツの発動。


「『秘された凶刃、そ(プルーヌ・イクス)の姿を知る者はなし(スターミネイト)』!」

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