7-30
ディアス達はギルベルトと冒険者達の一団を離れ、魔宮を進んだ。
しばらく進むと分かれ道に差し掛かる。
「スペルアーツ『追跡魔象』」
キャサリンがスペルアーツを発動すると、キャサリンを中心に光が波紋のように拡がった。
その光が床から壁、天井をなぞって。
次いで通路の上にいくつもの足跡が浮かび上がる。
ディアス達はその足跡を確認して。
だがそこに子供の足跡はない。
「アーくんはこっちには来てないのかな」
エミリアはそう言うとディアスを見上げて。
「ディアス、どうする?」
「足跡の先へ行こう。アーシュは冒険者と行動を共にするはずだ。すでに冒険者が来た方向よりもそっちの方が会える可能性は高い」
「うん。わかった」
「わかったわ」
エミリアとキャサリンが答えた。
3人は足跡の向かう方向へと進む。
その道中には魔物の死骸が点在し、その中にはボスクラスの魔物のものもあった。
時折魔物の亡骸に紛れて、横たわる冒険者の姿もある。
ディアス達はさらに先へと向かって。
新たに湧いた魔物や魔物の残党を倒しつつ、ついに先を進んでいた冒険者の一団に追い付いた。
冒険者達は広間で陣形を組み、巨大なドラゴンと戦っている。
冒険者達が相対するのは翼を持たない4足歩行の竜種。
その武器は鋭い爪と牙。
そして縦に連なる2つの顎から吐き出す紅蓮の炎と、爆発性のある粉塵の吐息。
ドラゴンは吐息の量を調整し、広範囲の爆破からピンポイントでの高火力の爆撃を使い分ける。
次々と連なる爆炎。
爆炎とは距離があるにもかかわらず、その衝撃はディアス達の体を煽り、鼓膜を揺さぶる。
ディアス達は冒険者に加勢しようと。
だがそれよりも早く決着がついた。
巨大な戦鎚を構えた冒険者がドラゴンへと肉薄。
「『その刃、連鎖する一振り』」
その大きな鎚が残像を連ねて。
次いでその残像が質量を持ち、矢継ぎ早にドラゴンの額を殴打。
同時に刻印を刻み込む。
「『破砕の刻印』」
戦鎚の冒険者が刻印の力を発動した。
重ねられた刻印の力が解き放たれ、その力はドラゴンの頭を。
首を。
胴を消し飛ばして。
宙に舞った肉片や飛沫も刻印の効力によってついには塵と消える。
「印を付加するタイプの魔宮生成武具か」
戦鎚の冒険者が振るう巨体な鎚とその力を見て、ディアスが言った。
「印の付与ってあんなに強いんだね」
「いや、一概にそうというわけでもない」
ディアスはエミリアの言葉をすぐに否定して。
「印を付加する武具は剣や槍なんかの刃物にもあるが、そのほとんどは威力が乏しいか複数回の付与でようやく効果を発揮できるものがほとんだ。印は大きく、複雑であるほど効力が増す傾向にあるからな。その点では戦鎚は印の付与と相性がいい。鎚頭に彫り込まれた印をそのまま付与できるからな」
「けけ、戦鎚って使ってる人はあまり見ないけどね」
「武器の性質上、橫薙ぎ、振り上げ、振り下ろしの3つに攻めが限定されるからな。それも全て大振りだ。動きを読まれやすい上に隙も大きい。そもそもかなりの腕力がないとまともに扱えないしな」
ディアスは戦鎚使いの丸太のように太い腕を見る。
「そして基本的には他の前衛が作った隙をついて一撃必殺を狙うか、硬い敵の防御を割るのが役割だ。特に俺が勇者になった頃には抜剣斬撃と戦鎚を組み合わせたスマッシュという戦い方が流行っていた」
「それ知ってるわ。でもランクの低い冒険者とかが玉砕覚悟で使うイメージが強いわね。ダメージ受けてもいいから当てるみたいな。当時は見ててヒーラーの人とか大変そうってよく思ってたもの」
キャサリンが頬に手を添えながら言った。
「…………」
次いで無言で戦鎚使いを見つめるキャサリン。
3人が話していると、冒険者がディアス達に気づいて。
戦鎚使いはその得物を肩に担ぐと、ディアス達を遠目に睨む。
「あんたら、3人だけか」
ディアス達に近かった冒険者の1人が、ディアス達に歩み寄りながら訊ねた。
他の仲間も警戒しながら追従する。
「ああ。はぐれた仲間を探して1度、他の冒険者達と分かれたんだ」
ディアスが答えた。
「仲間、か。ちなみにそれは子供の2人組だったりするか?」
冒険者はそう訊くと、探るような眼差しを向ける。
「2人? いいや、違う」
「そうか。ならいい」
「その子供がどうかしたのか?」
「いや、魔人に与してた奴らがいたからな。他にもそいつらの仲間がいるかもと思って」
冒険者の1人が答えると、別な冒険者が言う。
「ボスクラスの魔物との戦闘の際にその1人が魔物の行動の先読みができるって言い出してな。一応その魔物は倒せたんだが、その先読みが経験やなんかでできるレベルを遥かに超えてたんだ。十中八九、魔物を操ってた魔人と共謀してたんだろうという結論になった」
「けけ。それで、その2人はどうしたの?」
エミリアが冒険者に訊ねた。
周囲を確認するが、そこにはエミリア以外の子供の姿はない。




