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「簡単に言うなら生命エネルギーとでも言いましょうか。『生』命『力』で『生力』とも、その力が大きな循環の中にあることから『星』の生命『力』で『星力』とも。元々用いられていた字は後者ですね。この世界にも、その循環から力を借りて術を使う『星霊術師』という者達が過去にいました。私の使う術はおそらくその星霊術師のものに近いはずです」


 ギルベルトの言葉にディアスとエミリア、キャサリンは互いに視線を交わして。


「ディアス、今の話って聞いたことある?」


「いや」


 エミリアの問いにディアスは短く答えた。

いでフードの陰に潜むアムドゥスを横目見る。


「ケケ、俺様も知らねぇぜぇ? そもそもその『星力』だかってのが初耳だ」


「…………」


 ディアスがキャサリンに無言で視線を向けると、キャサリンは両手を左右に小さく振って。


「私だって聞いたことないわよ」


 3人の様子を見てギルベルトはうなずいた。


「知らないのも当然でしょう。魔宮の出現によってその力の循環も今は私達のいる地上へは届いていない。そしてそもそも、その力を感知するすべが今の私達にはない。五感で認識できるものではありませんし。そして観測できないものはないのと同じです。これらの知識の伝聞ができていないのはそのためでしょう」


 ギルベルトは金縁の片眼鏡(モノクル)の位置を指先で直して。

いでその表情が真面目なものから楽しげなものへと変わる。


「さて、それでは先ほどの話の続きですが────」


 話の続きをしたくてたまらないギルベルト。

だがディアスはいぶかしげにギルベルトを見て。


「今、力の循環が地上に届いてないと言いましたよね」


 ディアスはギルベルトの言葉を遮った。


「ならどうやってこれほどの強力な術をこれだけの人数にかけることができるのでしょう? これだけの術をギルベルト様個人の持つ生命エネルギーだけでまかなえているとはとても思えません」


「……ええ、その通りです」


 ギルベルトはわずかに思案するような間を空けるとうなずいて。

いでその手に逆手に握っている剣を示す。

柄の先端に大きな宝珠をあしらった精巧な長剣へとディアス達の視線が注がれる。


「この剣によって星力の吸収と増幅を行っています。スペルアーツを杖で強化するのと同じです。そして用いているのは私1人の星力ではありません。あなた方を含めた他の冒険者の方々から少しずつ星力を分けてもらっているのです」


 ギルベルトが言った。


「ケケ。剣、か」


 アムドゥスがディアスの耳許みみもとで呟いて。


「『創始者の匣庭(ディザイン・ヴェルト)』による観測完了。ケケケ。ブラザー、あの剣と宝珠は別々のもんだぜぇ?」


 アムドゥスはその光の走る瞳で長剣を見ながら続ける。


「宝珠は観測不能。そして剣自体は特殊な魔剣だ。装備した対象のステータスを引き上げるのが一般的な武具だが、あの剣は装備者のステータスに比例して力を増す。まぁよほど高ステータスじゃなけりゃCランクの剣にも劣るような使い勝手の悪い剣だがなぁ、ケケケケケ」


 ディアスはギルベルトの長剣に視線を向けて。


「戦闘には不向きに見えますが、その剣はその星力の吸収と増幅だけで戦闘能力はないのですか?」


「ありませんよ。この剣は私の術の補助しかできません。そもそも私個人は戦えないので」


「戦えない?」


「はい。私はステータスが低く、個人の戦闘力はありません。1人ではまともにスライムも倒せないくらいです」


「ギルベルト様の術のバフは強力です。それを用いれば」


「固定値の加算であるスペルアーツによるバフと異なり、私の術は個々人のステータスの乗算です。ステータスの低い私に術を使っても大きな効果は得られません」


「そうだったのですか」


 ディアスはギルベルトとその手に握る剣を交互に見た。

高ステータスで真価を発揮する魔剣と低ステータスの勇者の組み合わせに疑念を抱いて。

だが言及はしない。

ディアスは何も言わずに通路の脇道の方へと逸れていく。


「ケケ、情報収集はこんなもんか」


 アムドゥスがディアスに言った。


「ああ。能力の弱点なんかは掴めなかったが、この辺が潮時だ。あくまで戦いになった時に備えるために情報を聞き出したんだ。あまり行動を共にしすぎて正体がバレるのは避けたい」


 離れていくディアスとそのあとを追うエミリアとキャサリン。

ギルベルトは足を止めると3人に言う。


「どちらへ? 私の話がまだですし、少数での行動は危険ですよ」


「実は先ほどの魔宮の構造が変化した際に1人とはぐれてまして。私達はそちらの合流を優先させてもらいます。合流次第、私達も後を追います」


「そうだったのですね。ですがお仲間がそちらにいる保証は? あなた達は大きな戦力です。見た目以上に経験を積まれている。私達と行動を共にしていただいた方がこちらとしてもありがたいのです。そのはぐれた仲間の安否なら大丈夫ですので」


「なぜそう言えるのですか?」


 ディアスが肩越しにギルベルトの方を振り返った。


「あれはいつからか。私が勇者とうたわれるようになってからか。あるいはそれよりもずっと昔から────」


「申し訳ないが、ギルベルト様のお話を聞いている時間はありません」


 ギルベルトの話を遮るディアス。

だがギルベルトはかぶりを振って。


「あまり結果から話すのは好きではないのですが。結果よりも過程の方が私は語っていて楽しいので」


「…………」


 ディアスはギルベルトから視線を外すと歩みを再開する。


「どうしてか分かりますか?」


 ギルベルトがたずねるが、ディアスは答えない。


「最後に語る文言が同じだからです。それは今までも、そしてこの複合魔宮の攻略をいずれ語る時もそうなるでしょう」


 ギルベルトは去っていく3人の姿が脇道へと消えるのを見送って。


「…………行ってしまいましたか。冒険の話をぜひしたかったのですが。でも仕方のないことです。それに彼らがどう動こうと私がいずれ語る内容に変わりはないですし、ね」

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