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7-28

「けけけ。昔は不思議に思った事もあったけど、そう言うもんなんだと思って深く気にしてなかった」


 エミリアが答えると、ギルベルトはそうだろうとうなずいて。


「剣技の修得はスキルツリーを植え付けて、その発芽と成長の過程で覚えていくもの。だがスキルツリーとはなんなのか、そのいわば力の源とは何かというのは今はあまり知られていない。樹は遥か昔、魔宮が世界に現れると同時に枯れてしまったらしいので」


「……ギルベルト様」


 恰幅かっぷくのいい冒険者はギルベルトを睨んでいて。

いで先へ進みましょうと身振りで示した。

ギルベルトは魔宮の奥へと向かって歩き出し、他の冒険者達が陣形を組んで一緒に先へと向かう。


「それで剣技はそれよりもずっと前から修得の方法や派生なんかの形式は確立されていたから、その形式だけが今も伝わっているんです」


 ギルベルトは隣を歩くエミリアと、その周りのディアスとキャサリンに話を続けて。


「だから剣技に長けた者とそうでない者の差がなぜ生まれるのかをほとんどの冒険者が分かっていない。才能という言葉でひとくくりにされている。魔力量の少ない者の方が剣技の扱いに長けている事が多いのは体感で分かっているみたいですが」


「へー、そうなんだ」


 エミリアが呟いた。


「でも魔力斬撃(オーラ系)は例外。あの剣技は魔宮が世界に現れたあとに生まれた剣技なので、他の剣技とは事情が異なります。魔力量の多寡たかがその能力に直接結び付くもの。そして魔力斬撃(オーラ系)と言えば…………」


 ギルベルトはふと思い出して。


「あれは私がA級冒険者になって少ししたあとか、ギルドから勇者の推薦の話が出た頃か」


「A級になってから7度目の、永久魔宮の深部の探索ですね」


 恰幅かっぷくのいい冒険者が言った。


「私は永久魔宮の新しく形成されたフロアの探索を行うために上層へと登っていたのですが、最上階のフロアに到達する前に落とし穴のトラップで下層へと落とされてしまった」


「なんとそれは! そのあとはどうなったのです?!」


 恰幅かっぷくのいい冒険者は大袈裟おおげさ相槌あいづちを打って。

だがディアス達が彼の顔を見ると、声のトーンとは裏腹にその顔は真顔。

完全な、無。

まるで感情が感じられず、冷めた目で口許くちもとだけを大きく動いていた。


「私達は何層も下へとまっ逆さまに落ちていって────」


 そしてギルベルトはその全てを諦めたような男の表情かおに気付かず、話を続ける。


 エミリアは話が脱線する気配を感じて。


「けけ。その話、長くなる?」


 思わずギルベルトにたずねた。


「いえ。そんなに長くはならないので、ぜひ聞いてください」


 ギルベルトが言うと恰幅かっぷくのいい冒険者は首を左右に振る。


「ギルベルト様の話は全て長いですよ。旅の話をする前に旅の用意について事細かに語ってからようやく旅の話を始めるような感じです。ちなみにこの話は本題の魔力斬撃(オーラ系)の使い手が出てくるまで30分ほどかかります」


「ああ? クソなげぇじゃねぇか、ケケケケ」


 アムドゥスがフードの中で声を潜めて笑った。


「…………」


 ディアスはフードの陰から、嫌そうにギルベルトを見て。

エミリアも困ったように言う。


「けけ、普通に長いね……」


「まぁそう言わずに」


 ディアス達に向き直るギルベルト。


「彼女の剣技は実に見事でした。【空断ち】とうたわれた魔力斬撃(オーラ系)最強の使い手の剣ですよ? 全盛期にはその刃が天にまで届くと言われていた、魔宮ごと全てを斬り裂く長大な刃。若い頃は絶世の美女だったとも聞くし、いずれ機会があればその姿と剣をぜひ拝みたいものてす。話のネタが1つ増えます」


 ギルベルトはそう言うと肩をすくめて。


「ですが今私が語りたいのはまだ見ぬ全盛期の剣技ではない。まっ逆さまに落ちた私達は私の『守護の印(スクード)』によって無事でしたが、落とされたのは通常の攻略では立ち入ることのできない隔絶されたフロア」


 気付けばギルベルトは話を再開していた。


 恰幅かっぷくのいい冒険者はディアス達に耳打ちする。


「申し訳ありませんがお付き合いください。これがギルベルト様の1番の楽しみですので。それと話を聞かないとねてしまって攻略に支障が出てしまうのです」


「ね、結局ギルベルトの術や普通の剣技の力ってなんなの?」


 エミリアは気にせずにたずねて。


「まずはその話をしてもらわないと、せっかくのお話が頭に入らないよ?」


「……ふむ、それもそうですね。いいでしょう」


 ギルベルトは楽しげな面持ちから真面目な顔つきに変わった。


「魔力という概念が生まれて数百年。その力は魔力とは反対という意味で字を変え、今は聖力と一部の存在を知る者の間で呼ばれています」


「聖力?」


「ええ。といっても決して神聖な力だとかそういうものではありませんが。あくまで当て字ですね」


 ギルベルトが小さく笑う。

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